7 決意の先に
銃を握って、ナップサックから使えそうなものを探す。
なにもなかった。
もう逃げようとも思っていなかった。
不思議と恐怖はなかった。
さっきまではあれほど、自分が制御できないほどだったのに――人間とはなんて単純なんだろうと、思わず鼻で笑ってしまった。
「KAKAKAKAKAKAKAKAKAKAKAKAKA」
ついに例のアレは目の前に現れた。
私は大きく息を吸って
「五発だ! この拳銃に入っている弾全てをお前にぶつけてやる! そうしたら私の勝利だ!」
「KAKAKAKAKAKAKAKAKAKA」
例のアレに知能はない。
私の言っていることも、やろうとしていることもわかるはずがないだろう。
銃を向けて――それを見て例のアレは迷いなく飛び込んでくる。
鋭利な尾は鈍く光り、一直線に向かってくる。
――、――、――、――、――。
五発。
それは見事に全弾避けられ、例のアレの尾から、待ちわびたかのように水色の液体が吹き出た。
私は覚悟して、目をつぶった――。
思い浮かぶのは、後ろにいる彼女の笑顔だった。
私が彼女を連れ出さなければ、私があの家から、囮となって出て行っていれば、彼女は助かったのかもしれない。
もうどうしようもないことだ。
この手で守り切りたかった。
最後まで。
「あなたは生きて」
耳元に柔らかな風が吹き、体を走る強烈な衝撃に耐え切れず雪の上に転がった。
痛む体を抱いて、顔を上げる。
そこには満足げに飛ぶ例のアレの姿があった。
それは飛び去っていく。
私を置いて、彼女を置いて。
「待てっ……」
追いかけようと体を動かそうとして、しかし全くいうことを聞かない。
羽音が遠ざかっていく。
私はその音につられて、自分の気が遠のいていくのを感じた。
だめだ。
声にも出なかった。
雪に埋もれる視界の先に、倒れたまま動かない彼女の姿が――。