6 決意の告白
もう生きている気さえもしなかった真っ暗な視界に、急に光が差し込んだような錯覚を覚えた。
そこに立っていたのは同じ年頃の女の子。
雪玉を抱えて、潤む目で、震える体で例のアレに立ち向かっていた。
私は立ち上がり、その場から走る。
「軍人さん」
「彼女が気を引いてくれる間に――」
「あの人はどうするのですか?」
「今のうちに逃げるんです! 私はあなたを逃がしたあと、彼女を助けに戻ってきますから!」
「だめよ! わたしにはあの奇妙なものがいったいなになのかわからない。だけど人間が一人で――それもあのような女の子がたった一人で相手にできるものではありません!」
彼女の手を引いても、それでも彼女は抵抗して、動こうとはしなかった。
そうやって言い合っているうちに――
「きゃっ」
小さな悲鳴が上がる。
目を向けると例のアレに追い込まれる女の子ががむしゃらに雪を握って投げているのが見えた。
腰が完全に落ちてしまい、もう立ち上がることもできないようだった。
「くっ」
私は彼女を抱え上げる。
一応軍人だから、年上の女性を持ち上げるとしても苦ではなかった。
というより、彼女が私の筋力以前に軽かったからなのだろうが。
「待って! まだ彼女が――」
「……」
「ねえ! 軍人さん!」
「……っ!」
遠くで悲鳴が聞こえる。
それが助けてくれた女の子のものだと分かってしまい、思わず立ち止まりそうになるが、それでも走り続ける。
「 ――――KAKAKAKAKAKAKAKAKAKAKA」
すぐに例のアレが追いかけてきた。
やはり逃げられることなんてなかったのだ。
そう気づいてしまい、ついに私は足を止めた。
「なんて最悪な人間なんだ」
抱えられたままの彼女は何も言わず、私の目を見つめた。
「人間は貪欲な生き物です。自分だけが生き残るためになにかを犠牲にして生きていこうとする。それは軍人や、国のありかたそのものでした。私はそれが許せなくて、軍人になってそのあり方を変えるつもりでした」
羽音は近づいてくる――
「結局私も軍人だったということです。だれかを犠牲にして、自分は生きようとした」
「どうしたいの?」
彼女が微笑んでそう言ってくれた。
私は彼女を下ろして
「もうどうしようもないですよ。私はもう最低の人間です。でもひとつだけ――これは最悪最低の人間である私がいうことですから、無視してもらっても構わないんですけれど」
もう背後には例のアレが迫っていた。こんな時にそんなことを言うのはあきらかに間違っていると思いはするけれど、私は――
「私の最期、見届けてくれませんか?」
格好良くもない私の、どうしようもない告白だった。