7
そこは白の世界ではない。
円形の窪みには黒く焦げた土が顔を見せていた。
彼女の巻き込まれた爆発がどれほど大きなものだったのか――その光景を見て数分、ナナカはまだ何も言葉にすることができなかった。
自分の体の無事が信じられなかった。
彼女の体にはいくつもの破片が突き刺さっていたようだが、辺りに破片は残されていない。
雪に埋もれたわけでもなく、それはただ遠くに飛ばされただけだ。
爆発の瞬間。
死を覚悟する間もなかった。
彼女は顔を庇っただけで、あとは何もしていない。
どこからきたのか、小鳥が焦げた土に降り立った。
チチチと声をあげて、まるで土を懐かしむように――いやきっと、その鳥は土を踏んだことなど一度もないのかもしれないが――。
「あっちだ」
ナナカは顔を上げる。
黒い土は視界から消え、白い世界へ。
彼の行った方角ではない気がした。
しかし、とナナカは彼の状況を思い出す。
あの状態では、ただまっすぐに歩くことはできなかったかもしれない。
あの爆発で、一度吹き飛ばされ、違う方向を向いただけの可能性もある。
「俺は行けない」
「どうして?」
共に来てくれるとばかり思っていたナナカは、青紫の体を見上げる。
「化け物だからな。相手が人なら、俺は行かないほうがいい」
「大丈夫だよ」
ノゾムはきっと彼の姿を見ても少し驚くくらいで、嫌がったりはしないだろう。
それに、彼ももう、人というには難しい存在になっている。大きな枠で言えば、ナナカも含め同類なのかもしれない。
「俺は住処を変える。お前が冒険家になるというのならどこかで会うかもしれないな」
「おじちゃん! 一緒に行こうよ!」
ナナカを置いて、ガラスの羽は風を掴む。
すぐに小さくなっていく光を見送って、ナナカは言われた方角に進む覚悟を決めた。
足跡も残されていない。
わかっているのは曖昧な方角だけ。
もし方角があっていたとしても、かなりの時間が経ってしまっている。
急がなければ追いつけないだろう。
最後の手段として持っていたガラスナイフに予備はない。
結晶生物を作る度に小さくなっていく――もう使用できる回数は限られているということだ。
赤の蜂への対抗手段にはなるが、爆発を防ぐことはできない。
もう一度同じようなことがあれば、ナナカを助けてくれるものはいないだろう。
赤の蜂と戦うという選択肢は、捨てる他ない。
「その先に道などないよ」
ナナカは反射的に身を引いた。
「そっか。そうだよね」
それは人間を殺す武器ではない。
ただ、自分の手で殺すだけでは足りないと思ったのだ。
「あの高さから落ちたから死んだと思ってた」
「どうだろう。君の幻覚かもしれないが」
身構えるナナカとは違い、男は杖をついて笑う。
バタバタと不恰好に飛ぶ何かが、彼の杖に止まった。
一匹ではない。
二匹でもない――。
それは群れをなして彼を追ってきたようだ。
「彼らは女王を見失ったようでね。私をあの高さから助けてくれた後もこうして私を守ってくれているというわけだ」
ナナカは男の顔ほどの大きさもない、その蜂のような生き物を見たことはない。
ただ、それが何なのかということは理解した。
破壊した巣から見事に生き延びた大門という男と、落ちる彼を救ったエッジの中身。
そしてナナカは、おじちゃんが見た人影がノゾムではなくこの男だったのだ――きっと無事だと思うようにしていたノゾムはすでに死んだのだと理解した。
深さ10メートル強、範囲30メートル以上――。
爆発の瞬間、だれかに突き飛ばされた記憶は確かにナナカに残されていた。