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「ここまできたプレイヤーは君が初めてだよ」
彼は、その言葉の意味が理解できなかった。
「でも惜しかった。鍵があればこの先にいけたんだよねえ。しかし、いいプレイだった。素晴らしかったとも」
赤い光が、笑っているようにチカチカと点滅した。
瞳のようなレンズが、彼の揺れる体を追って首を振る。
「褒美は何がいい? クリアとまではいかなかったが、君は十分私達を楽しませてくれたとも。さあ、言ってごらん?」
ずっと見られていたのだ、と彼はやっと理解した。
それはカメラだ。
彼が部品として生かされていた街にも、そこら中にあったものだ。
それはあって当たり前のものだ。
それは部品を見張るものでしかない。
「ここから出せよ! 俺は――」
大きな音を立てて、扉が開いていく。
「ほら、褒美だ。行っていいぞ」
「俺……は……」
同じ街が広がっていた。
ここがゴールではなかった。
ここはただ、今いる街の出口でしかない。
扉の開かれた音につられて、あまりに多くの視線が彼の姿を捉えていた。
彼はゆっくりと振り返る。
いや、ここはゴールなのだと彼は悟った。
――――――――――
部屋に灯りがついたので、各々が欠伸をしたり、伸びをしてみたり――悲鳴はまだスピーカーから流されたままだけれど、それはすでにエンドロールのようなもので、全員が見るというものではない。
「建物を燃やしたのも初めてだったな」
「俺は、あの二階から飛び降りたところ、よかったと思うが――」
「次のプレイヤーは決まってるんだって?」
スクリーンの中の少年は、まだ叫んでいる。
その矛先である彼らは、背を向けて鑑賞場を出ていく。
鑑賞場の中心に座った男は、その光景を眺めて笑いを堪えていた。
「やっぱりエンターテイメントっていうのは、必要だよなあ」
光のない、希望のない、そんな街だ。
「お前もそう思うよなあ?」
裸の少女は、スクリーンから目を逸らし、拘束された両腕で顔を隠している。
耳を塞ごうとしても、拘束された両腕ではどうにもできないのだ。
「ああ、いいなあ。部品の女じゃこうはいかないさ。どいつもこいつも、頷いて言うこと聞くんじゃあ、そりゃ遊びにもならないってもんだ。ああ、そういえば、いまのプレイヤーに名前聞くの忘れてたな。いまのところ一番いいところまで行ったわけだし――」
もしもし、と彼は机にあるマイクのスイッチを押した。
「――ああ、もう死んでるか。残念だな、少年。君はやっぱり、部品Aのままだな」
ついに男は声を上げて笑った。
「ん? どうした?」
怯えるように丸まっていた少女は、男を睨みつけていた。
その憎しみの表情に、男はまた声を上げて笑う。
「ああ、いい顔だ。きっといい部品ができるだろう。そうだな、君には名前をあげよう。確か、君の親名は三崎だったか――。何かいい案はあるか?」
男の視線の先に、少女よりほんの少し年上ぐらいの青年が、きちりと足を揃えて立っている。
服は男たちと同じ軍服のようなものを着ているが、大きさが合わないのだろう、袖を折ってまるで着られているようだ。
「……いえ」
「やはりつまらないやつだなお前は。まあ、まだその年にしてはいい度胸だとは思うがね、ミツキ」
青年は頭を下げて鑑賞場を出ていく。
その背中に向かって、男は声をかけた。
「街の修復にはどれほどかかる?」
「一週間から二週間で終わらせます」
「ああ、急いでくれよ。飢えちまう」
青年は背を向けたままその場を後にした。