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Ice A GE(アイスエイジ)  作者: 重山ローマ
断章 紅の瞳
135/147

10

 

「ここまできたプレイヤーは君が初めてだよ」


 彼は、その言葉の意味が理解できなかった。


「でも惜しかった。鍵があればこの先にいけたんだよねえ。しかし、いいプレイだった。素晴らしかったとも」


 赤い光が、笑っているようにチカチカと点滅した。

 瞳のようなレンズが、彼の揺れる体を追って首を振る。


「褒美は何がいい? クリアとまではいかなかったが、君は十分私達を楽しませてくれたとも。さあ、言ってごらん?」


 ずっと見られていたのだ、と彼はやっと理解した。

 それはカメラだ。

 彼が部品として生かされていた街にも、そこら中にあったものだ。

 それはあって当たり前のものだ。

 それは部品を見張るものでしかない。


「ここから出せよ! 俺は――」


 大きな音を立てて、扉が開いていく。


「ほら、褒美だ。行っていいぞ」


「俺……は……」


 同じ街が広がっていた。

 ここがゴールではなかった。

 ここはただ、今いる街の出口でしかない。


 扉の開かれた音につられて、あまりに多くの視線が彼の姿を捉えていた。

 彼はゆっくりと振り返る。

 いや、ここはゴールなのだと彼は悟った。




 ――――――――――





 部屋に灯りがついたので、各々が欠伸をしたり、伸びをしてみたり――悲鳴はまだスピーカーから流されたままだけれど、それはすでにエンドロールのようなもので、全員が見るというものではない。


「建物を燃やしたのも初めてだったな」


「俺は、あの二階から飛び降りたところ、よかったと思うが――」


「次のプレイヤーは決まってるんだって?」


 スクリーンの中の少年は、まだ叫んでいる。

 その矛先である彼らは、背を向けて鑑賞場シアターを出ていく。

 鑑賞場の中心に座った男は、その光景を眺めて笑いを堪えていた。


「やっぱりエンターテイメントっていうのは、必要だよなあ」


 光のない、希望のない、そんな街だ。


「お前もそう思うよなあ?」


 裸の少女は、スクリーンから目を逸らし、拘束された両腕で顔を隠している。

 耳を塞ごうとしても、拘束された両腕ではどうにもできないのだ。


「ああ、いいなあ。部品の女じゃこうはいかないさ。どいつもこいつも、頷いて言うこと聞くんじゃあ、そりゃ遊びにもならないってもんだ。ああ、そういえば、いまのプレイヤーに名前聞くの忘れてたな。いまのところ一番いいところまで行ったわけだし――」


 もしもし、と彼は机にあるマイクのスイッチを押した。


「――ああ、もう死んでるか。残念だな、少年。君はやっぱり、部品Aのままだな」


 ついに男は声を上げて笑った。


「ん? どうした?」


 怯えるように丸まっていた少女は、男を睨みつけていた。

 その憎しみの表情に、男はまた声を上げて笑う。


「ああ、いい顔だ。きっといい部品ができるだろう。そうだな、君には名前をあげよう。確か、君の親名は三崎だったか――。何かいい案はあるか?」


 男の視線の先に、少女よりほんの少し年上ぐらいの青年が、きちりと足を揃えて立っている。

 服は男たちと同じ軍服のようなものを着ているが、大きさが合わないのだろう、袖を折ってまるで着られているようだ。


「……いえ」


「やはりつまらないやつだなお前は。まあ、まだその年にしてはいい度胸だとは思うがね、ミツキ」


 青年は頭を下げて鑑賞場を出ていく。

 その背中に向かって、男は声をかけた。


「街の修復にはどれほどかかる?」


「一週間から二週間で終わらせます」

「ああ、急いでくれよ。飢えちまう」


 青年は背を向けたままその場を後にした。






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