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Ice A GE(アイスエイジ)  作者: 重山ローマ
断章 紅の瞳
133/147

 

 敵の数を確認した。

 二体。

 同時に二体の対処は不可能だ。

 一体なら大丈夫だ。

 もうしっかり、彼に自信はついていた。

 どうにかして一対一の状況にしなくてはならない。

 二体の後ろには、洋室に繋がる扉がある。

 部屋に侵入して、中に一体ずつ入れれば、一対一の状況を作ることは可能だ。

 中に他の化け物がいる可能性は――いや、いまそんなことを考えても仕方がない。

 中に何かがいたとしても、今の最善の手がこれだけなのだから。


 二体を目の前にして、向かってくる体を受け流すだけでいいのなら、彼にできないことではない。

 ナイフはもう使い物にならないから、全て素手でやらなくてはならないことだ。


「はい、やればできるってもんだ」


 飛び込んだ部屋の中には、何もいなかった。

 閉じた扉に預けた背中が、衝撃に痺れる。

 扉は引かなければ開かない。

 二体がぶつかってきたところで、この扉が簡単に壊されるわけではないが。

 何度も叩かれるうちに穴が開くことはあり得る話だろう。


 部屋の中になにかあれば、と室内を見渡す。

 箪笥等の収納はほとんどが空で、次のもの、次のもの、と見るたびに叩かれる扉に何度も身構える。

 最後の収納を確認した後、手に入れたものを床に並べた。

 ハサミと、アルミのボトルだ。

 アルミのボトルには何か液体が入っているようだが――蓋を開けて匂いを確認する。

 水ではない。


「なにかの燃料か?」


 思い出すと、中央の大通りには車があった。

 もしかするとこの建物の前の通りにも車はあるのかもしれない。

 しかし、車を動かすにしても、このわずかな量では足りないだろう。

 もしかすると、燃料だけはどの建物にでも置いてあるのかもしれない。

 最初に入った建物の中をしっかりと確認できなかったのが悔やまれた。

 一つの部屋に二つのものがあったのだ。

 入った建物の中は全て見て回ったほうがいい。

 ハサミは、使い物にならなくなった果物ナイフより多少マシだというだけで、武器としては心もとない。

 とりあえずハサミで、扉を叩く二体を処理しなければ。


「……待てよ」


 まず扉を開ける。

 中に一体だけ入ってくる。


「一体だけ入ってくるか?」


 入ってくるわけがない。

 入ってくるなら二体一緒だ。

 もしこの扉が引いて開くのであれば、腕一本でも、足でも、伸ばしてきたものを押し挟んで敵の武器になるものを壊していけばいい。

 だがこの扉は押さなければ開かない。

 そのおかげでこの扉は耐えているのだろうけれど、開けてしまえば簡単に侵入されてしまう。


 振り返ると窓がある。

 外に出て次の建物に向かうのもいいのだろうが、音はできるならたてたくないところで、この建物中にまだ何かある可能性を考えると――。


「またかよ――」 


 サイレンが鳴り始めた。

 彼のいる建物からだ。

 化け物はすぐに集まってくるだろう。

 もうこの建物の中を捜索するのは無理だ。

 窓から外に出て、次の建物に向かったほうがいい。


 何を持っていくか考えた。

 今あるものは、ライター、包帯、水を入れた水筒、燃料の入ったアルミボトル、果物ナイフ、ハサミだ。

 果物ナイフはここで捨てていく。

 ライター、包帯はポケットに入るし、ハサミは武器として持ち歩く。

 水筒は肩紐のついたもののおかげでポケットに入らなくても持ち運べているが、燃料をここで捨てていくわけにはいかない。

 車があるのだから、いつか使うの可能性もある。

 アルミボトルはポケットに無理やり捩じ込んでしまうこともできるが、それでは走りにくくなるし、手に持って片手を潰すのは危険だ。

 燃料を持っていくのなら、水を捨てて水筒に入れるしかないだろう。

 水はいま飲める分だけ飲んでしまえば――。


「いや、ここで燃料は捨てる」


 アルミボトルの口を開け、部屋の中に燃料を撒いた。

 サイレンが鳴っていると、化け物は集まってくる。

 もし、この建物に火をつけたら――。


 包帯を少し千切って火をつけ燃料に投げ込むと、すぐに火が広がった。

 窓を割って外に飛び出す。

 まだサイレンは止まっていない。

 建物が燃えれば、大きな音が出るだろう。

 化け物たちは火の中に飛びこんでいく。

 勝手に数が減ってくれるのだ。

 これなら、燃料さえあれば、武器がなくても多くの化け物を処理できる――はずだ。

 燃料の使い道は、これが最善に違いない。




 建物の中を確認し、中に侵入。

 捜索し、サイレンが鳴り始めたら火をつける。

 燃料がなくても、カーテンやカーペット複数に火をつければなんとか大きな火にできた。

 彼は何度もそれを繰り返し、出口に近づいていく。


 出口はもう、すぐそこにある。

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