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Ice A GE(アイスエイジ)  作者: 重山ローマ
断章 紅の瞳
131/147

 

 また音が止まった。

 彼は走ってきた道を振り返った。

 追いかけてくるものはないが、まだなにかに見られているような感覚がある。

 また建物の中に隠れたほうがいいのかもしれない。


「なんだ……?」


 少しずつ街が暗くなっていく。

 空にあった絶対的な光が、どこかに逃げていくようだった。

 途端に底のない恐怖が彼を襲う。

 街が暗くなるということがどういうことなのか、彼にはすぐ理解できた。

 街に灯りはない。

 灯りになるようなものは、自分のもっているライターのみ。

 これでは安全な視界を確保することができないだろう。


 彼なら一体であれば、街に彷徨く化け物を排除することができる。

 それは彼自身自覚していた。

 しかしそれにはあまりに多くの条件がある。

 いや、そもそもの話、一体とだけ遭遇することなど、あるはずがないのだが。


 家と家の間――。

 両手を広げるほどの広さもない小道の先に、顔だけが生えている。

 それが何を思ってそうしているかなんてものは、誰にも想像できないことだが。

 ただ地面に倒れ、彼のいる小道を覗き込んでいるだけだったとしても、その不気味さに彼は動揺した。

 ただ踏みつけて走り抜けるだけでよかったのだろうが、彼は、このまま真っ直ぐ走る抜けることを良しとしなかった。


 彼はすぐに道を引き返すことにした。


「なっ!」


 数メートル先、二体の影を確認する。

 まだこちらには気づいていない。

 戻るのはナシだ。

 先にいた頭を踏みつけて進む。

 それしかない――。


「――」


 もうすでに視界には入ってしまっていたのだ。

 それが彼に襲いかかってこないと、どうして思えたのだろうか。

 起き上がって動き出したそれは、彼の躰を求めている。


 一体だ――。

 その一体だけを見れば、確かに彼とそれの一対一。

 負けはありえない。

 ただ、一撃で倒せるわけではない。

 二撃で倒せるわけでも――どれだけでそれが動かなくなるのか、彼は把握できていないのだ。

 漠然と倒せない相手ではないと感じていただけ。

 負けはしないと思い込んでいるだけかもしれない。



 正面にそれと向き合うのは、通気口のあれ以来のことだ。

 あれは動ける様子はなかったから、確かに恐怖心のようなものは彼にあったのだけれど、落ち着いて処理することができた。

 背後から襲われ、咄嗟に、反射的に、反撃し排除することに成功したが、あれはほぼほぼまぐれである。


 そう、思い返せば、しっかりとそれと向き合った事など彼にはなかったのだ――。


「迷うな、迷うな!」


 何撃必要だったとしても、それは関係ない。

 排除できるのであれば、彼は前に進める。

 変わらずこの場は、一対一の状況のままなのだから――。


 一撃目の後か? 


 二撃目の後か? 


 目の前の存在を排除し終わるまでに、後ろの二体が追いついてきた場合はどうするのだ?


 今は確かに見つかってはいない。

 前を見ていないだけなのだろう。

 彼の攻撃は無音ではない。

 一撃、二撃――それは数を重ねるたびに、何かを呼び込むサイレンになる。


 三撃、それはまだ闇雲に手を伸ばしてくる。

 まだ倒れない。


 四撃目と同時、彼は振り返って背後を確認する。

 まだ大丈夫だ。


 五撃目――。

 大丈夫だ。足音は迫ってこない。

 だが、目の前の存在が倒れる様子はない。


 いつまでこれが続くのだろう。

 いつまで経っても倒れないものと、背後から迫り来る恐怖に挟まれたまま、街に闇が訪れる――。



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