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Ice A GE(アイスエイジ)  作者: 重山ローマ
断章 紅の瞳
129/147

 

「――」


 部品として他より優れていたことなどなにひとつなかった。

 街の中、おそらく最低性能。

 だからこそ、彼は単独で仕事をさせられていた。

 彼は異物であり、他の部品に影響を与える可能性があったのだろう。


 人には何かひとつは取り柄のようなものがある。

 彼は部品となることはできなかったのかもしれないが。

 彼にとってそれは、異常なまでの戦闘センスだった。


 突然の危機的状況に、ナイフを持った人間ならどうするのか。

 大概の人間は、武器を使う。

 ナイフという武器に頼る。

 握っている武器が背後の敵にまで届くには、一秒では足りない。

 相手が化け物だというだけに、自分の体でどうにかできると思う人間はまずいないだろう。


 武器を振るまでに、彼は振り返りながら肘を打ち込んでいた。

 大きく開かれた口は、それが何なのか一瞬では判断できないものだが、『危険』だと思えば、彼にとってそれは何だって構わない。

『危険』ならば排除するのみ。


 骨が砕ける音がした。

 彼は目を見開く。

 人間を殴りかかったことが一度もなかった彼には、骨を叩く感覚を知らない。

 ただ、自分の体のことは知っている。

 自分の骨は軽く殴った程度で砕けるものではないし――全力で殴りつけたところでそんなことができるとは到底思えない。


 腐っているようだ、と彼は思った。

 倒れていく体を、観察する。

 一部ガラスのようなもので覆われているが、肌が爛れている。

 溶けた瞳が、彼を捉えていた。

 追撃が必要だ――ナイフを使おうかと一瞬考え、ナイフを握ったまま拳で殴りつける。


「――!」


 何度体に打ち込んでも、それが止まる様子はなかった。

 胸を――肉を抉る感覚は気持ちのいいものではなかったが――中身をえぐり出してもそれは止まらない。

 ならば、と頭部を踏みつける。

 また例によって簡単に砕けてしまう。

 これではダメージになっていないかと、また腕を振り上げて――。


「……」


 それがやっと、動きを止めたのだと気がついた。

 終わったのだと安心して息を吐く寸前、周囲を見渡す。

 安全確認がいかに重要なのか、もう彼は理解した。


 念のためそれが何なのか調べておいたほうがいいかもしれない。


「また文字か」


 彼にはその意味はわからない。

 その化物の身につけていた衣服には『1』と数字が書かれている。

 それが文字だということはわかっても、やはり彼には意味を理解することはできないが。


 腰に筒のようなものを身につけている。

 念のためまたもう一度周囲を見渡して、中身を確認した。


「……?」


 地図だ、と一目でわかった。

 登ってきた通気口の出口、街につながる門――その先になにがあるのかもしっかり書かれていた。

 文字は読めないが、図面やマークくらいは理解できる。


「と、すると……出口はここか」


 持っているものだけで、ここを脱出する。

 奇妙な雰囲気はまだ漂ったまま、ここにはきっと安全な場所なんてものはないのだろう。



 ――――。



 歩き出す彼の後ろ姿を、何かが見ている。

 彼は気づかないまま、死の街へ進んで行く。


 


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