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Ice A GE(アイスエイジ)  作者: 重山ローマ
断章 紅の瞳
128/147

 

 どれだけの間登り続けたのか――。

 コン、次の梯子を目指した手が何かにぶつかって初めて、ついに一番上にまで来たのだと気付いた。

 そっと上を見上げると、格子状の柵が空の上への道を塞いでしまっている。

 軽く押してみると、それは簡単に押し上げることができた。

 ここでもまた、彼はその行為が不自然であることに気がつかない。


 梯子が終わると、それは彼にとって極めて不可解なことだったが、土の上に出た。

 まるで空が土でできているようである。

 実際に彼が知っている空は、土でできた天井に空を描いただけのものであるが――部品だった彼がそんなこと知っているはずもない。


「……」


 生きた風の流れを感じた。


 見上げてみると白い何かが水のように流れていくではないか。

 一際眩しい存在は、目を焼くような力強い光で――これまで彼が思っていた『太陽』が、とんでもない紛い物だったのだと思い知った。

 これこそが空なのだ。

 これこそが太陽なのだ。


 ならば、その紛い物の下に生きていた彼は、人間なのだろうか。


 やはり、あの下にいたものたちは皆部品である。

 いや、部品と、それを扱う賢い何かはいたのだろうが。


「――」


 カチャリと、足元で音がした。

 見なくとも彼にはわかる。

 閉ざされたのだ。

 もう彼は、部品に戻ることはできない。

 すぐ近くにあったスピーカーからけたたましいサイレンの音が鳴り響く。

 何かが近づいてくると、彼は察した。

 目の前には地下にもあったような住宅街が広がっているが、人の気配はない。

 何かの妙なものの気配だけは漂っているが――。


 上がってきた通気口から住宅街まで、一本の細い道が繋がっている。

 行くならそちらであるが。

 サイレンのせいで落ち着かない。


 住宅街の入り口には門がある。


「……読めん」


 なにか書いてあるというのは彼にもわかるのだが。 

 部品たちには基本的に、語学を学ばせる必要はない。

 指示をしっかりと受け取るための言葉は知っていても、文字を読むことはできないのだ。

 門の真下にあからさまに箱が置かれていた。

 中を確認するのもなにか危険なような気もしたが、彼は恐る恐る手を伸ばす。


 中には果物ナイフと、包帯、ライター、空の水筒。


 そっと、誰かが彼の肩を叩いた。

 サイレンはまだ収まっておらず、まだいまいち状況が理解できていなかった彼は、ゆっくりと振り返る。


 開かれた大きな口は、すでに彼の首に触れようとしていた。



 


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