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どれだけの間登り続けたのか――。
コン、次の梯子を目指した手が何かにぶつかって初めて、ついに一番上にまで来たのだと気付いた。
そっと上を見上げると、格子状の柵が空の上への道を塞いでしまっている。
軽く押してみると、それは簡単に押し上げることができた。
ここでもまた、彼はその行為が不自然であることに気がつかない。
梯子が終わると、それは彼にとって極めて不可解なことだったが、土の上に出た。
まるで空が土でできているようである。
実際に彼が知っている空は、土でできた天井に空を描いただけのものであるが――部品だった彼がそんなこと知っているはずもない。
「……」
生きた風の流れを感じた。
見上げてみると白い何かが水のように流れていくではないか。
一際眩しい存在は、目を焼くような力強い光で――これまで彼が思っていた『太陽』が、とんでもない紛い物だったのだと思い知った。
これこそが空なのだ。
これこそが太陽なのだ。
ならば、その紛い物の下に生きていた彼は、人間なのだろうか。
やはり、あの下にいたものたちは皆部品である。
いや、部品と、それを扱う賢い何かはいたのだろうが。
「――」
カチャリと、足元で音がした。
見なくとも彼にはわかる。
閉ざされたのだ。
もう彼は、部品に戻ることはできない。
すぐ近くにあったスピーカーからけたたましいサイレンの音が鳴り響く。
何かが近づいてくると、彼は察した。
目の前には地下にもあったような住宅街が広がっているが、人の気配はない。
何かの妙なものの気配だけは漂っているが――。
上がってきた通気口から住宅街まで、一本の細い道が繋がっている。
行くならそちらであるが。
サイレンのせいで落ち着かない。
住宅街の入り口には門がある。
「……読めん」
なにか書いてあるというのは彼にもわかるのだが。
部品たちには基本的に、語学を学ばせる必要はない。
指示をしっかりと受け取るための言葉は知っていても、文字を読むことはできないのだ。
門の真下にあからさまに箱が置かれていた。
中を確認するのもなにか危険なような気もしたが、彼は恐る恐る手を伸ばす。
中には果物ナイフと、包帯、ライター、空の水筒。
そっと、誰かが彼の肩を叩いた。
サイレンはまだ収まっておらず、まだいまいち状況が理解できていなかった彼は、ゆっくりと振り返る。
開かれた大きな口は、すでに彼の首に触れようとしていた。




