16
柵に手を伸ばしていた。
頬を伝う涙は誰のものなのか。
その柵は、人にどうにかできるものではない。
結晶人間でも、その柵を壊すことは不可能だ。
「……」
ギギギ、と金属の歪む音がした。
無理やり広げられた柵。
彼は一歩、足を踏み出す。
外に出たことを喜ぶことはなく、涙を堪えるナナカは、その化け物から目をそらした。
「僕は」
何も言わないナナカの肩に手を伸ばした彼は、まだ体がうまく動かせないのか、押し倒してしまう。
「こんなこと望んじゃいなかった!」
青い瞳、赤みのあった肌は青白く、彼にあった温かみは失われている。
こうなると分かっていたナナカは、黙ったまま彼の怒りを受け入れた。
「僕は何だ? あの結晶化した化け物と同じか? あんな柵が簡単に壊せたんだ!」
ナナカは首を振る。
それは、言葉がでなかったわけではなく。
彼がいったいどうなっているのかがわからなかったからだ。
彼と同じ境遇の生物は存在しない。
ヤマキとも、ナナカとも、異なっている。
ナナカが知っている実験体Dはガラス人間となったものに人間の肉を与えたものである。
そうすると体の結晶化は緩やかになる。
いつか体全体が結晶化してしまうことは普通のガラス人間と変わらない。
ノゾムもきっとそうなるだろうと、ナナカとヤマキは考えていた。
二人とも人間との差はそこまでないと、どこかで思っていたのか――いや、そもそも人間が数少なく、自分達こそが人間だと思い始めていたのかはわからないが。
彼らの体のつくりは人間とはあまりに異なっている。
ナナカの体には、毒が走っている。
そもそもの自我が生まれる前に、自我が破壊されることはない。
白紙のまま白紙になり、彼女は一から学んでいった。
していいこと、してはいけないこと。
まるで普通の人間のように。
ヤマキの体には毒が走っている。
彼もまた、そもそもの自我が生まれる前に、自我が破壊されることはない。
ただ、捕食活動を止めるものはいなかった。
肉の壁を食い、記憶を摂取することで――土の中で彼らは学んでいく。
ナナカとヤマキは、人間ではない。
ならば、結果も、同じにはならない。