14
平穏な朝だった。
いつものように朝食の用意をするナナカを目で追って、ヤマキは水を口に含む。
「なあナナカ」
「ん? どうかしたのヤマキくん」
いつもの焦げた香りだ。
指摘したところで彼女がなにかするわけではないことは、すでに分かっている。
「ひとつ、頼みたいことがあるんだが」
「なに?」
だからもちろん、彼はイモを焼き直せなんていうことは言わない。
そんなこと言ってしまえば、真っ黒のイモがまた増えるだけだ。
「まあ、座れよ。十分焼いただろうが」
「まだ足りないかも」
中途半端に黒いのは嫌なようである。
ヤマキは仕方ないとため息をついて、また水を飲み込んだ。
どうせ苦いものを口に入れるのだ。一度器を空にして、新しく水を入れるつもりらしい。
と最後の一口を飲み込んだところで、ナナカはちょこんと、彼の前に座った。
「それで?」
「あいつのことだ」
「ノゾムくんのこと?」
ナナカは綺麗に焼けたイモを加えて、モゴモゴと言葉を発した。
真面目な話をしようとヤマキは切り出しているというのに、彼女は全く気付いていないようだ。
「君は人間じゃない。俺も、人間じゃない。人間なのはあいつだけだ」
「うんうん。それで?」
ずずずとぬるま湯を飲み込んで、ナナカは頷く。
「……聞いてるよな?」
「固くなっちゃうから先に食べたら?」
黒焦げをずいっと差し出されて、ヤマキは眉をひそめる。
焦げ臭い匂いが、嫌に鼻をつく。
すでに固いであろうことは、だれでもわかることだった。
「最悪の事態に陥った場合の話をする。いいか?」
「え、うん。どうぞ」
ナナカは咳払いをして背筋を伸ばした。
どうやらやっと、ヤマキの話をしっかり聞く気になったらしい。
「俺や、君が死んだらどうする?」
「どうもしないよ」
ナナカはすぐにそう答えた。
「三人が二人になるだけ。減ることには慣れたから」
「そうだ。俺たちどちらかが死んでも、この現状はなにも変わらないだろう」
ヤマキは空の器を握って、ナナカの目を捉えた。
ナナカは彼が何を言おうとしているのか察した。
そう、つまりヤマキが言うことは――。
「ノゾムがなんらかの原因で死んだ時、残された俺たちはどうする?」
ナナカは目を閉じた。
彼が言っていることは、生き残った二人でどう生きていこうか――そんな話ではないのだ。
ヤマキも、ナナカも、だれが生き残るべきなのかわかっている。
彼は間違いなく、地上最後の人間だった。
最後まで戦い抜いた彼が死んでしまった時、そのまま死なせてしまっていいのか。
「覚悟を決める必要があるな。お互いに」
「そう、だね」
ナナカは握っていたフォークをそっと机に置いた。