表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Ice A GE(アイスエイジ)  作者: 重山ローマ
7章 そして少年は這い上がる
122/147

14

 

 平穏な朝だった。

 いつものように朝食の用意をするナナカを目で追って、ヤマキは水を口に含む。


「なあナナカ」


「ん? どうかしたのヤマキくん」


 いつもの焦げた香りだ。

 指摘したところで彼女がなにかするわけではないことは、すでに分かっている。


「ひとつ、頼みたいことがあるんだが」


「なに?」


 だからもちろん、彼はイモを焼き直せなんていうことは言わない。

 そんなこと言ってしまえば、真っ黒のイモがまた増えるだけだ。


「まあ、座れよ。十分焼いただろうが」


「まだ足りないかも」


 中途半端に黒いのは嫌なようである。

 ヤマキは仕方ないとため息をついて、また水を飲み込んだ。

 どうせ苦いものを口に入れるのだ。一度器を空にして、新しく水を入れるつもりらしい。

 と最後の一口を飲み込んだところで、ナナカはちょこんと、彼の前に座った。


「それで?」


「あいつのことだ」


「ノゾムくんのこと?」


 ナナカは綺麗に焼けたイモを加えて、モゴモゴと言葉を発した。

 真面目な話をしようとヤマキは切り出しているというのに、彼女は全く気付いていないようだ。


「君は人間じゃない。俺も、人間じゃない。人間なのはあいつだけだ」


「うんうん。それで?」


 ずずずとぬるま湯を飲み込んで、ナナカは頷く。


「……聞いてるよな?」


「固くなっちゃうから先に食べたら?」


 黒焦げをずいっと差し出されて、ヤマキは眉をひそめる。

 焦げ臭い匂いが、嫌に鼻をつく。

 すでに固いであろうことは、だれでもわかることだった。


「最悪の事態に陥った場合の話をする。いいか?」


「え、うん。どうぞ」


 ナナカは咳払いをして背筋を伸ばした。

 どうやらやっと、ヤマキの話をしっかり聞く気になったらしい。


「俺や、君が死んだらどうする?」


「どうもしないよ」


 ナナカはすぐにそう答えた。


「三人が二人になるだけ。減ることには慣れたから」


「そうだ。俺たちどちらかが死んでも、この現状はなにも変わらないだろう」


 ヤマキは空の器を握って、ナナカの目を捉えた。

 ナナカは彼が何を言おうとしているのか察した。

 そう、つまりヤマキが言うことは――。


「ノゾムがなんらかの原因で死んだ時、残された俺たちはどうする?」


 ナナカは目を閉じた。

 彼が言っていることは、生き残った二人でどう生きていこうか――そんな話ではないのだ。

 ヤマキも、ナナカも、だれが生き残るべきなのかわかっている。

 彼は間違いなく、地上最後の人間だった。

 最後まで戦い抜いた彼が死んでしまった時、そのまま死なせてしまっていいのか。


「覚悟を決める必要があるな。お互いに」


「そう、だね」


 ナナカは握っていたフォークをそっと机に置いた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ