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「っ――!」
転がる体を起こして、ノゾムはその脅威を改めて目視する。
「帰りが遅いと見に来てみれば、なんだよこいつ」
「助かったよ、ヤマキ」
「いいから、離れてろ」
左肩から吹き出す血を手で抑えて、ヤマキは赤いそいつを睨みつけた。
彼が危機に陥ることは何度もあったが、怪我をするようなことは何度もなかったように思う。
ノゾムは、目の前に浮かんでいるそいつの危険性を把握した。
エッジの武器があの針だったとすれば、この赤い蜂のようななにかの武器は、尾の先にある機関銃のようなものだろう。
ヤマキの怪我を見る限りでは、その銃弾は特別なものではないように思う。
ノゾムは今になって、ヤマキの体のことについて誤解していたことに気がついた。
あの、人間ではどうしようもないエッジを破壊できるということは、人間の天敵のようなあれを破壊できるということは――ほぼ無敵のようなものではないかと。
言ってしまえば、ヤマキはただの銃弾によって怪我をしたのだ。
普通の人間にだって扱えるただの銃弾によって――。
カチ――カチ――。
秒針が進むようにゆっくりと、またそれは回転を始めた。
もうすでにわかったことだ。
例えエッジを相手にできるようなヤマキであったとしても、高速で動くエッジよりも遥かにはやい銃弾は避けられない。
「次の攻撃が来るぞ!」
ヤマキはノゾムの声とほぼ同時に飛び出していた。
いくら銃弾がはやいとは言っても、撃たれる前に破壊してしまえば、どうといったことはない。
ノゾムは赤い蜂の右側に飛び出したヤマキとは反対に走り出していた。
少しでも彼の助けになれば――ヤマキの振り上げられた腕を――黒い瞳に振り下ろされるその瞬間を捉えながら。
ガラスの割れるような音を立てて、黒い瞳は砕け散った。
勝利を確信していたわけではない。
ただいつもなら――エッジなら――その一撃で戦闘が終わっていたというだけである。
ヤマキが息を呑む。
砕けたのは瞳の外側だけで、中から出てきたもうひとつの銃身は、絶望的な死の形は、そこで待っていた。
ノゾムはその一瞬、自分に向けられている尾の銃に目が止まる。
足は動いていた。
ただ、時間が止まっているようだった。
回転は加速し、ノゾムもまた、死を覚悟した。
ここで転がりでもすれば、銃弾を避けられるかもしれない――ノゾムは思考する。
時間が止まっているようでも、ノゾムは冷静だった。
そしてだからこそ、その避けられない死を覚悟するしかなかったのかもしれない。