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その瞬間、ヤマキはその人間を、ノゾムと同じものだと認識した。
その瞬間、ノゾムはその人間を、ヤマキと同じものだと認識した。
その瞬間、ナナカはその二人を、人間だと認識した。
「――」
基地からでてきた二人を睨むように観察し、ナナカは彼らがいったい何者なのかと考察する。
まだ人間が生きていたことも驚きだったが、この基地を見つけたことも驚きである。
この場所を知っている人は少なく、外に出た時にカモフラージュをしなかったのは確かだったが、そう簡単に見つけられる場所ではない。
「僕はノゾム。こっちはヤマキ。君は?」
「ナナカ、です」
ぎこちない挨拶を交わして、やはり敵対したなにかではないことに、ナナカは安堵した。
あの巣の中で出会った男のこともある。
もしかすればと思ったが、心配のしすぎだったようだ。
「なにか探しに?」
「いや、その……」
なにかごまかすように笑うノゾムを余所に、ヤマキは中に入ろうと話を持ち出した。
ナナカは彼に同意して中に入る。
「ここには一人で?」
「今はそう。一緒にいた人が死んじゃってさ」
ノゾムはなにか思い当たるものがあったらしくそれ以上は何も言わなかった。
いつも食事をしていた部屋に二人を招き、適当に座らせてお湯を沸かす。
「ねえ、ひとつ聞きたいんだけど」
「なに?」
ノゾムの言葉に耳を傾ける。
「銀の肌の、人みたいなやつに会ったことはない?」
銀の肌と言われて、ナナカはエッジを思い浮かべる。
なにか大事なことを忘れているような気がしていた。
巣は破壊したというのに、でもまだ肝心の存在には出会っていなかったのだ。
「ちょっと待って、先に聞きたいんだけど。つい最近空に浮かんでいた巣――ていうか、山みたいなやつが落ちてきたのを見なかった?」
「あー」
「見たの?」
どうしたものかと言い悩むノゾムを見て、ヤマキはため息をつく。
「こいつもその中に居たんだよ。一緒に落ちたんだ」
「ほんとのこと?」
自分以外にも、あの男以外にもだれかがいたなんて想像もしていなかったが。
「巣って言ったってことは、君もあれがなになのか知ってたんだね」
「うん。あたしも中にいたし」
「……もしかして破壊したのは君なのか?」
頷くナナカの言葉に驚いたのはヤマキだった。
ノゾムは巣の中であったことを簡単に説明する。
ナナカが出会わなかったマザーには、彼が出会っていたようである。
ただ、彼女の想像していたものとはあまりにかけ離れたものだったが。
「それで、銀の肌の人を探すのね。ごめんだけど、あたしはみたことがない。この基地の中になにかヒントでもあればいいけど――あたしってただ住んでただけで資料とかさっぱりでさ」
「そうか」
残念そうに声を漏らすノゾムは、ナナカの出した湯呑みに手を伸ばし、うえっと下を出す。
「お湯だ……」
「ああ、ごめん。お茶葉いれるの忘れてた」
「ま、温まれば一緒だろうよ」
息を吹きかけお湯を冷ますヤマキに視線を流し、これからのことを、ナナカは考えていた。
マザーが次のだれかに移ったというのなら、それを探さなければならない。
そうして、そのだれかを殺した時、本当に死の時代が終わるのである。
「あたしも一緒に連れてってよ。拠点はここ使っていいしさ」
「助かる」
そして三人は手を組んだ。
ノゾムはまだ何も知らなかった。
この辺りで生きているのは自分だけだという話で、遠くでは自分と同じように外を歩いている人間がいるだろうと。
そんな風に考えていたのだ。
やはり、地上最後の人間ノゾムは何も知らない。




