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Ice A GE(アイスエイジ)  作者: 重山ローマ
7章 そして少年は這い上がる
116/147

8

 

 意味のない言葉を零して、彼女は男を横たわらせた。

 雪を掘るだけの気力も残されていなかった。

 ただ寝かせて、上に雪をかける。

 と、彼女は手を止めた。


「……」


 本当の親ではなかった。

 ただの育て親。

 毎日ひたすら資料に目を通して、自分なりの答えを探していた。

 合っていたものもあれば、カスリもしなかったものもあっただろう。


 彼の人生はどうだったのだろうか――固まった表情の男を見下ろして、彼女は考える。

 すると、自分のこれからのことが分からなくなった。

 こんな時代で、これからどう生きていけばいいのだろうかと。


 いままでどうして生きてきたのか――急にそんなことが気になった。


「そっか」


 きっと、この人のために生きてきたのだろう。

 死にたくないとか、そんなことを思ったことはなかった。

 戦ってきたのは、食べ物を取ってきたのは、全て彼のためだった。

 親のためだった。


 そう、彼女はそれを失ったのだ。

 生きていく理由が、もう彼女には存在していない。


「――」


 巣は破壊された。

 もうエッジが生まれることはない。

 あの工場が他にあるとは思えなかった。

 いま外にいるエッジを全て破壊すれば、死の時代は終わる。


「終わる」


 最後の雪をかけて、ナナカは空を見上げた。

 どんよりとした空は、また強い雪を降らしそうだった。

 死の時代は、エッジのいた時代。

 それが終わっても、まだ氷河期が終わるわけではない。

 人間が生きていくには辛いということだけは、変わらないだろう。


 と、忘れようとしていた彼のことを思い出す。

 巣から落ちる彼女を助けた男のことである。

 たとえこの外の世界が平和になったとしても、彼はきっと救われないままだ。

 どうにかしてもう一度彼に会い、何か話さなければと考えて――。


「基地に戻ろ。芋でも焼いて、作戦でも考えなきゃ」


 自分を慰めるように声をあげて、彼女は歩き出す。


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