8
意味のない言葉を零して、彼女は男を横たわらせた。
雪を掘るだけの気力も残されていなかった。
ただ寝かせて、上に雪をかける。
と、彼女は手を止めた。
「……」
本当の親ではなかった。
ただの育て親。
毎日ひたすら資料に目を通して、自分なりの答えを探していた。
合っていたものもあれば、カスリもしなかったものもあっただろう。
彼の人生はどうだったのだろうか――固まった表情の男を見下ろして、彼女は考える。
すると、自分のこれからのことが分からなくなった。
こんな時代で、これからどう生きていけばいいのだろうかと。
いままでどうして生きてきたのか――急にそんなことが気になった。
「そっか」
きっと、この人のために生きてきたのだろう。
死にたくないとか、そんなことを思ったことはなかった。
戦ってきたのは、食べ物を取ってきたのは、全て彼のためだった。
親のためだった。
そう、彼女はそれを失ったのだ。
生きていく理由が、もう彼女には存在していない。
「――」
巣は破壊された。
もうエッジが生まれることはない。
あの工場が他にあるとは思えなかった。
いま外にいるエッジを全て破壊すれば、死の時代は終わる。
「終わる」
最後の雪をかけて、ナナカは空を見上げた。
どんよりとした空は、また強い雪を降らしそうだった。
死の時代は、エッジのいた時代。
それが終わっても、まだ氷河期が終わるわけではない。
人間が生きていくには辛いということだけは、変わらないだろう。
と、忘れようとしていた彼のことを思い出す。
巣から落ちる彼女を助けた男のことである。
たとえこの外の世界が平和になったとしても、彼はきっと救われないままだ。
どうにかしてもう一度彼に会い、何か話さなければと考えて――。
「基地に戻ろ。芋でも焼いて、作戦でも考えなきゃ」
自分を慰めるように声をあげて、彼女は歩き出す。




