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「お前ならそう言うって信じてたぜ」
ヤマキは地図をポケットにしまって、僕の肩を叩くと外に出た。
迷いなく先を歩く姿は頼もしいものだったが、迷路のようなこの場所をまるで知っているようにも見える。
「そっちにいくのか?」
来た道とは別の道を選んでヤマキは進んでいく。
「お前、元々俺になに言ったのか忘れたのか?」
「ん?」
「ったく。いいからこい」
チカチカと点滅する明かりの下を歩いて、さらに奥へ。
足音は何重にも響いて、ヤマキの呼吸が分かるほどに静かだった。
結局ここまで来て、人がいた形跡といえば明かりと、あとは――あの血の跡だ。
銃が転がっていたが、まさか自分で撃ったわけもないだろう。
あるはずの死体がないのだから。
だれかが屍を処理したあとだと言うのなら話は変わってくるのだけれど。
そうするとこの中に二人の人間がいたことになるが――いや、別に二人と決めつけられることもない。
もっと多くの人間がいたのかもしれないし、まあ今それを考える必要はないか。
電子パネルを前にして、ヤマキはなにか操作をしているようだ。
舌打ちをしているところを見ると、どうやらうまくいかないらしい。
その扉の先になにがあるのかは知らないが。
「こじ開けるか。どうせセキュリティなんて生きてないからな。ノゾム、離れてろよ」
ヤマキは扉から数歩下がり、勢いをつけて扉を蹴りつけた。
少し歪んだ。
指を入れられるくらいには隙間ができた。
ヤマキはもう一度蹴りつけてから、また強引に扉を開けた。
ずいぶん長い間使われていなかったのか、倒れた扉が煙を巻き上げる。
「触ったことは?」
ケースにしまわれていた銃を取り出して、ヤマキは言った。
「まったく」
「じゃあ大きいものは無理だな」
持っていたものをそのまま投げられ慌てて受け取る。
小さな箱もいくつか渡された。
おそらく弾がはいっているのだろう。
「ここ、武器庫っていうにはなんだか――」
ただのダンボールにそのまま銃が転がっていたり、缶詰が山積みになっていたり。
「ただの倉庫だ。見つかりたくないものをここに隠してたんだよ……聞くなよ」
「わかった」
なぜそんなことを知っているのかを聞きたいところだが、そう言われてしまえばどうしようもない。
「いまさら銃を持ったところで、蜂にも効かないし」
「だろうな」
「力が欲しいっていうのは、あの蜂にも抵抗できるくらいのものが――」
「無理だ。お前は人間なんだから。お前は銃を持った。それで最後だ。それ以上お前が強くなる方法はないってわけ。だから、自分に殺せるものを考えろ」
途端に、銃が重く感じた。
「で、ノゾムは武器を得た。これからどこに行く」
白銀の肌を探さなくてはならない。
人間がそうなるのか、あるいはヤマキたちのような人がそうなるのかはわからない。
ただ探すべきなのは人であることがはっきりしている。
とすれば、おそらく人がいる『シェルター』の場所を探すことは、無駄にならないはずである。
僕と同じ人間がいるのであれば、本当にそこが平和な場所だというのなら。
そこで平和に、幸せに生きている人間たちがいるというのなら。
「決まりだな。一緒に行くぜ、相棒。迷うなよ」
ヤマキの最後の言葉はやけに耳に残った。