4
家からでて行くヤマキと、もう一人、空に浮かんで行くあの巣にいた少年を見送る。
どこかに行った。
いまこの家にいるのは彼一人だけである。
「――」
目を瞑る。
自分を落ち着けるにはそれが一番だった。
――――
「わからないわ」
「いや、信じてくれ。大門のやつが動いたんだ。いま映像を見せただろう。俺たち人間を滅ぼす気だぞあいつは」
「彼はそんなことをするような人じゃ」
「俺だってそう思ってたさ。いまならまだシェルターに入れてもらえる。だから俺と行くんだ」
「でも」
「ああ、くそ、通信だ。いいか、すぐ戻って来るから。下手に外に出るなよ」
――――
「茜、これ」
「なにそれ」
「誕生日プレゼントだ」
「あんたから?」
「だと思うか?」
「瑛士ね。いつもそう。これからどうなるのかしら、あたしたち」
「それなりに生きていくんだろうさ。で、お前はどうするんだ。決めたのか?」
「うん。離れることにした。彼が死ぬのなんて見たくないし」
「俺が死ぬのはいくらでも見れるわけか」
「そうね」
「即答かよ」
――――
自分の中をまた誰かが巡っている。
足元に転がっているナイフを拾い上げ、腕に突き刺した。
「くっ――」
同時に痛みがあれば、それがいまの自分の姿。
記憶の痛みにはラグがある。
そうして、自分を安定させる。
自分自身が本物だと信じ込ませる。
少しでも眠るためには、目を瞑らなければならない。
しかし5分の睡眠には、倍の時間の記憶が自分の中に押し寄せてくる。
それでも休まなければならない。
体の限界を感じていた。
またその波に襲われるとわかっていたとしても、彼はまた目を瞑る。