3
落ちていく巣を見たヤマキは、それとなく察していた。
手伝った二人はすでに死んでしまっただろう。
例え生きていたとしても、あの高さからの落下では助かるはずもない。
少女のことを心配していたのは確かだったが、もう一人、あの少年ことを心配していなかったと言えば嘘になる。
人間は嫌いだった。
ただ、自分の記憶にある人間が全て殺してやりたいほどに恨めしいやつだったから。
そいつはどこかが違うような気がしていた。
だから、そいつが人間だと気付いても手を出さなかった。
壁を殴る音が聞こえる。
カナメはまた自分の記憶と戦っている。
ヤマキにその症状はない。
自分の中に自分とは違う意識があることはなんとなく気付いていても、それが表に出てくる様子はない。
自分の意識というものがはっきりしている。
「まあ、あいつは特別か」
ヤマキにあるのは母親の記憶と、自分の記憶。
カナメの場合、記憶は二つではないらしい。
ヤマキが訪ねてもなかなか答えてはくれないが、一度だけ、カナメが話したことがある。
「おれは4回殺されている」
それより先は教えてくれなかったが――例えばヤマキにも死んだ経験がある。
母親の記憶。
あの蜂に襲われ、それを見た周りの人間が襲ってきた。
そのまま土の中へ。
それがヤマキにある死の経験だ。
たった一度のもの。
痛みは記憶として残り、死がどういうものなのか、体はすでに知っている。
眠るたびに思い出されるものだ。
毎日殺されて――そして目がさめる。
カナメも、ヤマキも同じだった。
「よかった。ここに来たらいるんじゃないかって思ってたよ」
「よく堂々とここに来たな」
ヤマキは外からやってくる少年を家に招き入れる。
「少し頼みたいことがあるんだが」
「殺されに来たんだろ?」
「いや、その約束はもう少し後にしてくれ。全部終わったら殺されるから」
ヤマキは彼の言葉を待った。
何を言われても、ヤマキがなにと答えるのかは決まっている。




