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Ice A GE(アイスエイジ)  作者: 重山ローマ
7章 そして少年は這い上がる
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「カナメ、戻ってきてたのか」 


 外から戻ってきたヤマキが声をかける。

 彼は二階の窓から墓を見下ろしたまま、ヤマキの言葉には耳を貸さない。

 ひびの入った窓ガラスに重ねられた掌は、痛みを堪えるように震えていた。


「殺してやった。だというのに、なぜだ――すっきりしない。何も終わった気がしない」


 服に付着した赤い血は、洗っても取れなかった。


「お前――」


「煩いな出て行けよ」


 ヤマキはため息をついて下に降りていく

 壁を叩いても何の解決にもならない。

 彼は何度も壁を殴りつけ、自分を保っていた。

 流れる涙を何度拭っても、それを嘘だと自分に信じ込ませようにも、うまくいかなかった。

 彼は諦めて座り込む。


「まだ足りない――あと二人殺さなくては――あいつを、殺さないと」


 自分の中で誰かが泣いていた。

 カナメはそれが苦しかった。

 息をすることが苦痛だった。


「殺せば、解放される……」


 その記憶は、眠るたびに思い出すもの。

 だれかが遠くで手を振っている。

 彼はそれに向かって走っていた。

 助けを求めていた。

 その先に希望があると思っていた。


 自分が誰なのか、どうなってしまったのかなんて、その時彼自身わかっていなかったのだろう。

 記憶ごと破壊されてしまったのか――。

 そのようなこと、いまの自分には一切関係のない話のはずなのに、彼を苦しめるのは記憶だ。

 誰かの記憶、何かの思いがぶつかって、自分がいまにも消えてしまいそうだった。


「瑛士――まだ生きてるんだろ。おれには分かるぞ。まずはお前だ」


 自分の首を握り、彼は歪んだ笑みを浮かべる。

 それが例え救いの道ではなかったとしても、いまの彼にある道はそれだけだ。

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