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「カナメ、戻ってきてたのか」
外から戻ってきたヤマキが声をかける。
彼は二階の窓から墓を見下ろしたまま、ヤマキの言葉には耳を貸さない。
ひびの入った窓ガラスに重ねられた掌は、痛みを堪えるように震えていた。
「殺してやった。だというのに、なぜだ――すっきりしない。何も終わった気がしない」
服に付着した赤い血は、洗っても取れなかった。
「お前――」
「煩いな出て行けよ」
ヤマキはため息をついて下に降りていく
壁を叩いても何の解決にもならない。
彼は何度も壁を殴りつけ、自分を保っていた。
流れる涙を何度拭っても、それを嘘だと自分に信じ込ませようにも、うまくいかなかった。
彼は諦めて座り込む。
「まだ足りない――あと二人殺さなくては――あいつを、殺さないと」
自分の中で誰かが泣いていた。
カナメはそれが苦しかった。
息をすることが苦痛だった。
「殺せば、解放される……」
その記憶は、眠るたびに思い出すもの。
だれかが遠くで手を振っている。
彼はそれに向かって走っていた。
助けを求めていた。
その先に希望があると思っていた。
自分が誰なのか、どうなってしまったのかなんて、その時彼自身わかっていなかったのだろう。
記憶ごと破壊されてしまったのか――。
そのようなこと、いまの自分には一切関係のない話のはずなのに、彼を苦しめるのは記憶だ。
誰かの記憶、何かの思いがぶつかって、自分がいまにも消えてしまいそうだった。
「瑛士――まだ生きてるんだろ。おれには分かるぞ。まずはお前だ」
自分の首を握り、彼は歪んだ笑みを浮かべる。
それが例え救いの道ではなかったとしても、いまの彼にある道はそれだけだ。