彼は立っている。 エピローグ
目が覚めて、窓から差し込む光に目を細める。
どれだけ寝たのだろうか――久しぶりのすっきりとした気分に懐かしさすら感じながら、瑛士は視線を流す――。
思い返せば、これまでにおきたことが全てたった一日だ思うと、信じられなかった。
ただひたすらに生きることだけを考えていた一日だった。
失うことばかりだった。
何も、得るものはなかった。
「奈々嘉……?」
すぐそばに姿が見えないことに不安を覚え、名前を呼んだ。
返事はない。
寝ていた場所はどうやら洋館の一室だったようだ。
部屋から出て、階段を下りる。
なにかを引き摺った跡が、外まで続いていた。
奈々嘉のことだ。
きっと死んでしまった二人のことを、一人でどうにかしようとしたのだろう。
そのまま外に出て――
「……」
目にとまった。
奈々嘉はそこにいた。
顔は伏せてしまって、こちらを見ようとはしない。
「奈々嘉?」
そういえば、とポケットからあるものを取り出す。
それは彼女に狩りから帰ったら渡すつもりだった誕生日プレゼントだった。
鹿の角を削って作ったペンダント――
せっかく用意したものだけれど、ずっと渡さなかった彼が悪かったのだろう。
渡せなかった結果はあまりにも非情で、皮肉にも見えなくなかった。
「おめでとうって、言えばよかったな」
木に吊られたその姿――。
それはまるで木のための首飾り。
「お前にはもったいないよ」
木を見上げて瑛士は呟いた。
ゆらりとゆれる体。
宙に浮かぶ――。