終
身体中のあまりの痛みに目を開いた。暗い、狭い場所にいた。
「ハァ――ハァ――」
何かの冷たい吐息が首元を走っていく。
腰に回されたものが、だれかの腕だということに気がついた。
「目が覚めたのなら、上を掘れ。外に出ろ」
「わかった」
光を探して掘り進める。
わずかな隙間から流れ込んでくる光を追いかけて――
「よし」
外に出た。
腰に回されていた腕は既に弱々しく、簡単に離されてしまう。
穴の中のその人を掴み上げる。
恐ろしく軽かった。
瓦礫の山。
その中心に僕たちがいたようだった。
どうやら巣は壊れ、落ちてしまったようである。
どれだけの高さから落ちたのかはわからなかったが、少なくとも無傷でいられるような高さではなかったはずである。
怪我を何一つしていなかったのは、僕を庇ってくれたその人のおかげだろう。
「アイスエッジは、氷河期だけを生きる生物だ。熱に弱く、ある程度気温が低くなければ動くことはできない」
崩れていく白銀の肌。
目は虚ろなまま、その人は話を続ける。
「氷河期が終わりに近づくと、彼らは眠る。また次の氷河期がくるまで、何年も何年も。氷河期は彼らの時代だ。ただ少し凶暴な、普通の生物だった。人間が接触するまではな」
「どうしてそんな事を?」
僕の言葉に、その人は首を振った。
そんなことは知らないと、ただもう話す気力もないという意思の表れだったのかもわからないが。
「白銀の肌が、やがて女に現れる。全身に回ってしまった時、その女は女王へと変貌するだろ――」
「本当なら扉まで連れて行ってやりたいところだけど、わかったよ」
もう動かなくなった彼女の体は、もう白銀の肌ではなかった。
ごく普通の少女の姿だ。
穴に彼女の体を戻し、瓦礫の中に埋めるのもどうかとは思ったが、埋めておく。
この瓦礫の中にもう一人、コトコの姿を思い浮かべながら祈り、僕は立ち上がった。
「白銀の肌――ああ、やってやる!」
それを殺すことできっと、この絶望の時代は終わりを迎える。
――――
眠りの中に彼女はいる。
伸ばされた腕、首の後ろ――肩との間になにかが見える。
「――」
涙を流したまま、彼女は寝息を立てていた。
汚れたマフラーの裏で、何かが笑みを浮かべている。
次章準備中のためしばらくお休みします
次回更新は8月21日11時予定です