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Ice A GE(アイスエイジ)  作者: 重山ローマ
6章 Mother
107/147

10

 

 扉の先。

 影が部屋の中を走った。


「ハァ――ハァ――」


 光の先、何かがいる。

 幾つもの目が僕を捉えていた。


「人間っ!」


 光の線――咄嗟に身を引く。


「お前!」


 扉の外にまでそいつはこなかった。

 鎖に繋がれ、扉より外には行けないようにされている。


「こっちに来い! 殺してやる! お前ら人間一人も残さず、殺してやる!」


 伸ばされた手は扉を掴む――。


「何度わたしを裏切るのだ! 人間など誰一人も必要ない。わたしを二度も化け物に売りやがって! 体の中を知らないものに犯される感覚を、お前は知っているか! お前たちは知らないだろう! こっちに来い!」


 白銀の手は焼けて爛れていた。

 その姿は鬼のようだった。

 顔はひび割れ、中から青みがかった肌色が見える。

 人の肌だ。

 白銀の皮膚の内側に、もうひとつ皮膚が存在している。


「君の生きていた時代、どんなことがあったのか知らない」


 いくつもの橙色の瞳は、怒りに染まっていた。

 手のひらから流れ出した血は、止まらない。

 彼女の体は傷だらけだ。

 ずっと足掻いてきたのだろう。


「あの扉に入ってきたものがいた。君たちはこの世界のずっと昔に生きていた人だ。資格のないものは追い出さなければならない。でも君は、外に出たかったんだ――」


 侵入者に手を伸ばし、外に出た。

 それはあの部屋の中にいた彼らが言ったことだ。

 あいつは裏切ったと。


「この時代は今を生きる僕たちのものだ。君のわがままのせいで、君の望んだ通り人間はこの世界からいなくなろうとしているよ。身勝手だろ、そんなの。自業自得じゃないか。騙されたから怒るなんて、そんなの子供すぎる」


「お前は人間だ。お前の話は聞かない。わたしの体をいいように使って、彼奴はわたしの体を捨てた。もうすでにカウントダウンは始まっている。そうだな、このまま放っておけば人間は滅びる。わたしの復讐はそれで終わ――」


 彼女は部屋の奥にまで戻る。

 そのまま力を失ったように座り込んだ。


「……」


 足音が聞こえた。


「――」


 だれかがここにやってくる。

 僕が感じていたものは死だった。

 このままここにいれば、僕は死んでしまう。


「――」


 足が動かなかった。

 羽音ではない。

 足音がここに向かっている。


「ふふ、ふふ、ふふふふ」


 部屋の奥で座り込んだまま、そいつは笑っていた。


「貴方の女王はもうここにはいないわよ」


 背筋が凍りつく。

 人というには異常だ。

 化け物というにも足りない。

 白銀の羽、青みがかった肌。

 汚れたマフラーに、そして所々が破れた人間の服を着ている。

 頭から突き出た二つの何かは、音に反応したのかゆらりと揺れた。


「そうか――」


 目の前に立っていた。

 目が離せなかった。

 死はそこにあった。

 手を伸ばせばすぐに届く。

 握っていた蜂の腕を落とす。

 からんと乾いた音を立てた。


「――」 


 掌が顔のすぐ前まできていた。

 蜂の腕のことはすでに頭から消え去っている。

 体が揺れていた。

 自分を支えていたものが崩れ落ちていく――。


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