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部屋を出ると、そこはやはり人間的な建物の内部のようだった。
床はやけにきれいだった。
まるでだれも踏んでいないようである。
飛んでいる蜂だけならそれほど変な話ではないのだが。
ひとつ上の階に入り口があり、そこには蜂がうじゃうじゃといた。
道城さんを追いかけて外へ出て行った蜂のほかにも、やはりまだ大勢蜂は残っているはずである。
隠れて進んで行くしか方法はなかった。
地図はもちろんない。
音を頼りに蜂の位置を知りたいところだったが、巣の中は音が反射しどこから聞こえているのかがわからなかった。
何十匹どころじゃない、もっと多くの羽音が共鳴し響いていた。
「今の場所は下から三分の一といったところか。まだ半分以上ある」
不可能だ。
蜂と出会わないままで目的地に辿り着くのは。
その目的地が本当に頂上にあるのかどうかもわからないのに。
「ねえ、ノゾム」
「どうした」
コトコは天井を見上げて、なにかを思いついたようである。
「階段をあがって、廊下をまっすぐ歩いて、また階段をあがって――この場所ってひとつしかルートがない。それじゃあどう頑張ったって敵と遭遇しちゃう。遭遇しないわけがない」
コトコは何度も自分で話しながら頷く。
「道城さんが穴を開けてくれた時、ずいぶん大きな音がしたでしょ? でも結局だれもこなかった。何もこなかった。それはそうよ。わたしたちこうして話すのも、こんなに近くにいるのに聞き取り辛い。大きな音が出たって、羽音に紛れてだれも気がつかない」
「……本当にやる気か?」
「少なくとも、こうして一本道をいくよりはいいかもしれないって……最短ルートってかんじ? 蜂が通れないほどのわたしたちがぎりぎり通れる穴なら、もし見つかっても逃げやすいって思うの」
「そんなにうまくいくか?」
コトコは屈んだと思うと、瞬時に飛び上がった。
天井に蹴りを打ち込む。
少しヒビが入った。
2度目、コトコの足は貫通し上の階へと繋がった。
「うまくいったでしょ」
「上出来だ」
コトコに捕まり上の階へと飛び上がる。
これならすぐに上までいけるだろう。
何かの呼吸の音が聞こえた。
ずっと遠くの音。
この異音のなかで聞こえるわけがない。
気のせいだと、僕はまたコトコの腕を握った。
「ハァ――ハァ――」
暗闇。
その中に彼女はいる。
何かを待っている。
その時はもう、すぐそこまで来ていた。