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Ice A GE(アイスエイジ)  作者: 重山ローマ
6章 Mother
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 部屋を出ると、そこはやはり人間的な建物の内部のようだった。

 床はやけにきれいだった。

 まるでだれも踏んでいないようである。

 飛んでいる蜂だけならそれほど変な話ではないのだが。

 ひとつ上の階に入り口があり、そこには蜂がうじゃうじゃといた。

 道城さんを追いかけて外へ出て行った蜂のほかにも、やはりまだ大勢蜂は残っているはずである。


 隠れて進んで行くしか方法はなかった。

 地図はもちろんない。

 音を頼りに蜂の位置を知りたいところだったが、巣の中は音が反射しどこから聞こえているのかがわからなかった。

 何十匹どころじゃない、もっと多くの羽音が共鳴し響いていた。


「今の場所は下から三分の一といったところか。まだ半分以上ある」


 不可能だ。

 蜂と出会わないままで目的地に辿り着くのは。

 その目的地が本当に頂上にあるのかどうかもわからないのに。


「ねえ、ノゾム」


「どうした」


 コトコは天井を見上げて、なにかを思いついたようである。


「階段をあがって、廊下をまっすぐ歩いて、また階段をあがって――この場所ってひとつしかルートがない。それじゃあどう頑張ったって敵と遭遇しちゃう。遭遇しないわけがない」


 コトコは何度も自分で話しながら頷く。


「道城さんが穴を開けてくれた時、ずいぶん大きな音がしたでしょ? でも結局だれもこなかった。何もこなかった。それはそうよ。わたしたちこうして話すのも、こんなに近くにいるのに聞き取り辛い。大きな音が出たって、羽音に紛れてだれも気がつかない」


「……本当にやる気か?」


「少なくとも、こうして一本道をいくよりはいいかもしれないって……最短ルートってかんじ? 蜂が通れないほどのわたしたちがぎりぎり通れる穴なら、もし見つかっても逃げやすいって思うの」


「そんなにうまくいくか?」


 コトコは屈んだと思うと、瞬時に飛び上がった。

 天井に蹴りを打ち込む。

 少しヒビが入った。

 2度目、コトコの足は貫通し上の階へと繋がった。


「うまくいったでしょ」


「上出来だ」


 コトコに捕まり上の階へと飛び上がる。

 これならすぐに上までいけるだろう。


 何かの呼吸の音が聞こえた。

 ずっと遠くの音。

 この異音のなかで聞こえるわけがない。

 気のせいだと、僕はまたコトコの腕を握った。




「ハァ――ハァ――」



 暗闇。

 その中に彼女はいる。

 何かを待っている。

 その時はもう、すぐそこまで来ていた。


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