6
その部屋は墓場のようだった。
蜂の残骸が山になって積み上げられている。
目も合わせられないほどの力があった瞳には、なにも写っていない。
破壊されたにしてはきれいなものだった。
まるで不良品が捨てられているようにも見える。
「ノゾム、いこ」
「なあ、コトコ。蜂の巣ってどんな形か記憶にあるか?」
「ちょっと待ってね。思い出すから」
コトコは少しの間目をつむり、その間僕は部屋を見て回る。
「そっか、そういうことね」
どうやら記憶の中にあったようで、僕の考えていることに気がついたらしい。
「ここが蜂の巣だっていうなら、変ね。あれは蜂に似ているし、蜂とだいたい同じ動きをする。でも、ここは蜂の巣とはまったく似ていない」
「ああ。外側だけはそれっぽかったが、中は違う。この部屋、綺麗な四角だぞ。あまりに人間的すぎる」
蜂の巣といえば、僕の記憶はあてにならないが六角形だ。
この部屋だけしかまだみていないが、とはいってもあまりにも綺麗な四角。
人間の家の一部屋だと一度思えば、他には考えられない。
「あの蜂みたいなやつ。やっぱりただ蜂に似てるだけで、根本的に違うのかもしれないな」
「うーん。でもあの蜂はたしかにここから出てきてるし、この中にたくさんいると思うし……」
「だとしたらこの人間っぽさというのは――」
いま探している存在。
おそらくこの巣の一番上にいる存在。
遺跡から連れ去られたもうひとりの彼女だ。
彼女にまだ人間らしい部分が残っているのなら――
「いや、違うか」
別に人間がいると考えた方がいい。
遺跡から彼女を連れ去った誰かが、この中にいる。
「すぐにここから離れよう。蜂はここにこないかもしれないが。でも、人間になら見つかるかもしれない。人間と蜂、ここには二つの目がある」
「でも――」
コトコは戸惑っていた。
これから先に進むことを、またあの蜂と戦うかもしれないことを。
「この部屋を出る前に、ひとつ決めておこう」
「……」
大事なことだった。
これより先に進むために。
ここにいる彼女を排除し、巣を破壊するために。
「もし戦闘になって、僕が死にそうになったら――」
「嫌」
コトコは首を振る。
僕は彼女の言葉を無視してその先の言葉を続けた。
「僕を見捨てて、先に進め」