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Ice A GE(アイスエイジ)  作者: 重山ローマ
6章 Mother
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 蜂が飛び出した。

 一匹が動くと、他の蜂も同時に動き出す。

 コトコは一歩後ろに体を引いた。

 構えたというよりは、怯えて後ろに下がっただけ。


「針だけを避ければいい! それ以外には――」


 転がって避けてみると、すれ違いに触れた伸ばされた腕――ぱっくりと、服が切り裂かれている。


「う、腕もだめだ!」


「わかったから、黙ってて!」


 片手で飛び込んでくる蜂を払って、コトコは今度こそしっかりと立った。

 彼女が戦えなければ、この先には進めない。

 遺跡の中でなくしてしまったスーツを思い出す。

 あれがあればもしかすれば、こうして襲われることもなかったかもしれないのに。


 コトコは蜂の突撃を弾き返すことはできるが、しかし破壊とまではいけないようだ。

 まだ勢いに押されたまま、前には踏み出せないでいる。

 僕はその姿を後ろで眺めて、外を見下ろした。

 ヤマキはまだ外の蜂を相手にしている。

 彼をここに呼ぶことは不可能だ。


「――!」


 と、ヤマキがだれかに向かって叫んでいた。

 なにを言っているかはわからないが、僕に言っているわけではないようだ。

 少しでも蜂の気を自分に向けさせようとしているのか。


「うっ」


 コトコの腕から血が飛ぶ。

 青みがかった血だ。

 だめだ。

 やはり彼女にはまだ、蜂を相手にすることはできない。

 僕はこうして眺めていることしかできない。

 戦うことはできない。


 彼女を抱え上げて巣から飛び降りることを考えた。

 その逃げは先につながらない。

 ここより先に進まなければ、なにも始まらない。


「――ふぅ」


 跳躍。

 ヤマキの側を走り抜け、たった一度の跳躍で数メートルを飛び上がってきた。

 ぶかぶかの衣服。

 大人のものを無理やり着ている。

 とはいっても、彼のもつ雰囲気は負けていなかった。

 蜂を目の前にしてもまったく動じない。


「ヤマキに話は聞いた」

「君は」

「おれのことはいい。先に進むんだろ」


 なんとか蜂の相手をしていたコトコの首を掴み、僕の方へ投げる。

 と同時、彼は踏みつけていた。

 土などを固めて作られた巣。

 彼らほどの力なら、穴をあけることくらい容易だった。


「おれはただ、お前たちを助けてやってくれと言われただけ。だからおれがしてやるのはここまでだ」


「ノゾム!」


 起き上がったコトコに引き連れられて、無理やり開けられた穴に飛び込む。

 目標はおそらく上だが、いまはまず敵の目から隠れなければ。


「ありがとう、道城さん!」


 合っている確信はなかったが、そう言うと彼は笑った。

 僕たちが飛び降りた後、彼は襲いかかってくる蜂を連れて巣から飛び降りていく。

 ひとまず、急に起きた危機からは免れた。

 とはいえ――


「う……」


「大丈夫かコトコ」


 破かれた服をそのまま引き裂いて、傷口に当てる。

 治療方法なんて知らない。

 僕には、そんなことすらできない。


「大丈夫、刺されてないから」


 もう一度蜂と出くわしたらどうすればいい。

 また彼女を盾にするのか。

 そうしていればいつか、彼女は倒れてしまうだろう。

 そうなれば、僕は死ぬ。

 僕が彼女を守れば、僕は死ぬ。


 巣が揺れていた。

 もう一度飛び上がり始めたのだ。

 もう降りることもできない。

 登っていくしかない。

 この巣の中、何があるのかもわからない道を。


「なんで泣いてるの」


「わからない」


「そう、なでなでしてあげよっか?」


「いいよ、熱いだろ」


 コトコは吹き出し、笑い声をあげる。


「恥ずかしいから嫌とかじゃないんだね」


 ぽん、と頭に手を置かれると、なんだか落ち着いた。

 彼女には力がある。

 だけどまだ勇気が足りていない。

 少しでも彼女の力になるためには、僕も戦おう。

 共に立ち向かって、それが彼女の勇気に繋がるのなら――。


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