あの頃 プロローグ
過激な描写が多いかもしれません。
苦手な方は気を付けてください。
氷河期が二十年先にはやってくる――。
いまになって騒ぎ立て始める人は少なくない。そもそもまだ知らない人もいるのだろう。
いや、現実から目を離しているだけなのだろうが――二十年後には死んでしまうということを上手く受け入れられないのだろうが――。
とはいえ、そのまま死を受け入れるというのも、いままで気楽に、傲慢に生きてきた人間たちにできるわけもない。
どうやらどこかで氷河期を生き抜くための方法を探っているようだが、それはきっとうまくいかないだろう。
そして、その失敗はだれにも責められることもなく、公にもならぬまま、なかったことになるのだろう。
国がどうこう言っていることを、もはや国民が耳を傾けている時代ではなくなった。
かつては、投票というものをして国を治める人間を決めたそうだ――今は立候補した人間が、勝手に集まって、勝手にやっている。
だれも自分の国のことなんか、気にしなくなった。
彼もその気にしない人間の一人になるだろう。
しかしそんなことを言ったのなら、いつも彼女にこう言われるのだった。
「私たちは家族だよ。国っていう大きな家のね。自分たちの家のことは、やっぱり家族みんなで決めないとね」
そんなのはおかしな話だ。
家族というのは他人同士でなれるものじゃない。と彼はそう言い返す。
「両親とあなたの繋がりって『血』だけだよね。それがなかったら他人でしょ? そもそも両親同士だって、もとは他人同士なんだよ?」
「ふむ……」
「他人同士でも家族になれるよね?」
「でも――」
「だよね?」
こう押し切られてしまうのは男としてどうなのだろうかと、彼はいつも思う。
彼女はいつものことように、彼に語りかける。
「あたしたちは家族として、助け合って生きていかなくちゃいけないの。人間の命っていうのは、いつもそうやって、繋がって――継って――ずっと続いてきたし、これからもずっと続いていくの」
「でも二十年たてば――」
氷河期が来る。
それは避けられないし、助からない。人間に、その死の時代を超えることはできないのだ。
「二十年もある――あたしたちはまだ、繋ぐ方法を探しているだけなの」
「無理だよ、そんなの」
彼は知っていた。
どうやっても、人間の技術ではその死の時代を超えることはできないことを。
自然燃料も尽きた時代――これ以上の技術進化を求めることはできないのだ。
「無理じゃないよ。いつかきっと、家族が助けてくれる」
彼女は迷いなく、笑ってそう言った。
ちまちま更新しようと思います
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