第七章:シンの初出撃
かなり時間が空いてしまってスイマセン^^;
これからもがんばるのでよろしくお願いします。
後ろ光がさして眩しいなか、ライル傭兵団計7人が帰還した。
そのなかで真っ先に元気そうに声をあげたのは、小さな弓を持つ少年だ。歳は15ぐらいだろう。
朝日が差し込み、城中が一気に明るくなった気がした。
すぐに全員が城の中に入り、レイスとベグオンの前に集まる。
「レイス! 腐竜は片付けたぞ!」
「うむ」
これは今帰還したジェイクの声だ。
「レイスさん! もう休憩していいですかね?」
「ああ、いいよいいよ」
これは、ハロンの声。
レイスの休憩の声が入った途端、7人は急にバラバラになり、城の各部屋に散っていった。
そこにレイスが一声。
「やっぱダメだ!」
ええ!? とはならず、まるでいつものことのように7人はまたレイスとベグオンの前に並んだ。
「なんですか?」
メンバーの1人が言う。もちろん台詞は決まっていた。
「今日からお前らライル傭兵団に入隊することになったシンとグルイドだ! 仲良くしろ! 以上!」
「押忍!」
あれ? なんか簡単すぎる説明だな……、と思ったシンたちだったが、口には出さない。
なんかライル傭兵団メンバーたちも今ので納得したようだ。するか? 普通。
そして7人が立ち去ろうとしたときだった。
「ちょっと待て!」
レイスが呼び止める。7人は止まる。そしてレイスが、シンたちに一方的に団員の紹介をしだした。
まず一番右の、今は馬から降りている騎士・ハロンを差した。
「こいつがハロン。傭兵団では一番の新米……だった。仲良くしたってくれ」
なぜか「してやってくれ」が「したってくれ」にちょっと省略されたのはほっとく。
次にハロンの台詞を待たず、レイスは大斧を持った筋肉質な男を差す。
「こいつがバリスだ。見た目はいかついが、気のいい奴だぞ」
その男はにっこり笑い、「はじめ……」と言いかけて言えず、レイスに遮られた。
「そんでこいつが……、あ、そうだ。サイだ。仲良くな」
「よろしくお願いします!!! 未熟者ですが、どうぞ、名前を覚えてください!!!」
今度はレイスに負けない大声で、サイという少年は挨拶した。さっき真っ先に声をあげた
元気な少年だ。背中に弓を背負っている。小さいものだが。
「っ……、で、こっちの渋い髭がケイト。あんま喋んないけど、いい奴だから……」
今度は声を出そうともしない。そしてついに、「仲良く」は完全に省略した。
背中には、大きな体に負けない程の大剣を背負っている。
「え―――……と、これ、誰だっけ?」
レイスはとぼけて、もうひとり、大きな弓を背負った小柄な娘を差した。
「ええ!? それはないんじゃないですか!?」
「冗談、冗談。こいつがえーと、確かフィンだ。女だてらに大弓使う豪腕だ」
レイスは笑う。フィンは、レイスの挑発を無視して真面目そうに自己紹介を軽く。
「あ、私はフ……」
「で、残りの3人はわかるよな。ジェイクにサナに、団長のベグオン」
またも遮られたと、フィンは「くっ……」と言いながら下がる。どこか恋人のような雰囲気を
かもし出している。いや、恋人というよりは、さりげに両思いな学生さんみたいな、そんな感じだ。まあこれは、両方にその気がないのが残念な話だが。
「まあ、団員はこんなところだ」
勝手に紹介を始め勝手に紹介を終えたレイスは、さっさとその場を立ち去った。
団員は見送ることもなく、怒り気味にレイスを目で追う。そのあとすぐに、ベグオンがリーダーらしくシンたちに話しかけた。
「まあ、あんな奴だが民には結構人望あるし、頭も腕もいいから、つまり悪い奴じゃない。
……とにかく、今後ともよろしくな」
ベグオンにそう言われると、シンは「おう!」と。グルイドは「はあ……こちらこそ」と言い返した。
皆自分の部屋に帰って行ったあと、入り口付近から大広間に移ったシンとグルイドは、
自分のことや、これからのことや、雑談で盛り上がって、陽が暮れるまで話していた。
おらぁ! 起きろ野朗共!
その怒声でライル城の中に住むほとんどの人が起きただろう。きっと。
シンたちが入団してから3日。何故かグレール王国は沈黙。怪しいのでこちらから攻めることもなし。
特にやることもなしに、ただ親睦を深めていたライル傭兵団だった。
しかし、ついにしびれを切らし、レイスはグレールに攻め込む決意をする。
そのために10人は朝早くに起こされ、すぐに準備をさせられた。
今日から本格的な「戦」になるかもしれない。よくわからない期待が、シンの中にはあった。
そういうわけで、レイスの案で一行はグレールの端・バーデンに攻めることになる。
と言っても、レイスも戦知らずなわけではない。少人数で正面から突っ込むようなことはしない。兵はライル城にいる半分。約200の精兵を連れ、バーデンに向かう。
大国グレールと言っても、その領土の30ぶんの1程度の領地。しかもそこを治める領主はマーゼレン並の暴君で、兵には結束がなく、約210人の兵たちでも十分だと考えたのだ。それに、城の守りも必要。
だから城には、ケイトをひとり残し、策を練って進撃を開始した。
「いいか! 今からグレールの領地・バーデンに攻め込む! お前たちは正面から突っ込め!
傭兵団員たちが背後からいろいろやるから、お前らは気にせず攻めろ!」
200の精兵たちに、レイスが言う。声は大きいが、声は普段と変わらない。普通なら気にして戦いに集中
できないような説明のしかただったが、これも慣れているのだろう。大きな声で返事をし、平然と進む。
よく教育された兵だな……。と、思うグルイド。
今ので納得したのか……? と、疑問に思うシン。
今はバーテンに行く道中で、列になって馬に乗り、ゆっくり進んでいる。一番前に重い鎧を着込んだ巨大な重騎士たちがズラリ。その後ろに長槍を持つ兵たちが多数。重騎士に比べると少なめだ。
そしてその後ろに、ライル傭兵団。前の兵たちに隠れるようにしている。
標的はバーデン城。入り口の狭い通路から重騎士が突入。その後ろから長槍で突く。相手が面喰らっている間に、傭兵団は城の裏口にまわる。おそらく将は入り口に来て応戦。城主は玉座で待つだろう。
傭兵団の奴らなら、将のいない烏合の衆を殲滅するのに時間はかからない。混乱に乗じて入り口からもどんどん攻め、挟み撃ちにして制圧という策戦である。簡単な策戦だ。
「お前らは今回が初仕事だな。大丈夫か?」
ジェイクが軽く話しかけてきた。シンは自信満々に言う。
「おう! 負ける気はしねーぜ!」
「そうか」
ジェイクはふっと微笑み、また前を向いた。
「……実はな、あのレイスの弟……、レイトっていうんだが、グレールの奴に殺されたんだ」
「!」
シンはハッとしたように顔を上げる。
「そいつは俺の父だ。つまりレイスは俺の叔父に当たるのさ」
「……へぇ」
ちょっとびっくりしたのか、シンもグルイドもあまり声が出ない。
「んで、俺の父を殺したのが……グレール王ロウレング! 王様が直々にやりやがったさ!」
「はあ……王が直々に……」
グルイドはとりあえず言う。他に言うことも見つからない。
「ま、あいつもあいつでグレールにゃ恨みがあるってわけだ! だからやる気なさそうに見える けど、実は結構あるんだよな。やる気!」
ジェイクは言い終えると、さっさと前の方に行ってしまった。といっても、列は乱してないが。
それだけの用件でわざわざ話しかけてきたりは、普段はしない奴だった。きっと和ませようとしてくれたんだろうと、グルイドはふっと笑う。
だがその横で、物思いにふけるシン。
この戦争で、家族を殺された奴は自分だけじゃない。今、そのことを考えさせられた。
グレールへの復讐と怒りの念は、膨らんでゆくばかりだった。