第五章:腐竜撃沈
「でりゃあ!」
そのまま勢いに任せてシンは腐竜に突進。自慢の槍で腐竜の横腹を貫いた。
大きなうなり声をあげてますます暴れ狂う腐竜。シンは一歩退いたが、傭兵団長・ベグオンは
一歩も退かない。羨ましさすら感じる。
「そろそろ沈め!!」
ベグオンは再び大刀を構え、右から左へ思い切り振った。それで今度は腐竜の足がちぎれ飛ぶ。
切り口から噴出した血の量は計り知れず、ベグオンはまともに血をかぶるが気にしない様子だ。
足を一本失いバランスを崩した腐竜は、真横に倒れこみジタバタすることしかできない。
その際に腐竜の下敷きになった者は居なかった。皆ま逆の方向から攻撃していたからだ。
「サナ! お前は竜の右目を狙え!」
「はい!」
勇ましく返事をしたのは、さっきの魔法少女である。手先からだす不思議な光の向きを、
徐々にずらしてゆき、腐竜の眼球を狙って撃つ。
「ケイト、ハロン! 竜の首の脈を狙え! 鱗に何度攻撃しようが倒すのは難しい!」
「はっっ!」
ケイト、ハロン両名も一斉に返事をし、倒れている腐竜の首の方にむかい、走る。
ハロンはともかく、ケイトは徒歩だから巨大な腐竜の尾から首まで走るのに時間がかかると
思ったら、これが、恐ろしく足が速い。あっという間に腐竜の首まで到達し、大剣で腐竜の脈を
斬りつけた。ハロンもほぼ同時に薙刀で斬る。
「的確に弱点狙ってやがるな……。俺も行くぜ!」
シンも傭兵団の勢いに乗って走り出した。もちろん狙うは、腐竜の頭だ。
「あ、待てシン!」
グルイドも慌てて追いかける。鎧が少し重かったが、そこまでの重装備ではないので遅れはしなかった。
そのままベグオンは腐竜の腹をもういちど切り裂き、決着は着いた。
腐竜は息絶え、この大規模であり小規模である戦いに終止符が打たれたのである。
腐竜との戦いに決着をつけ、マーゼレンの元腹心・グルイドと確かな絆を確かめあったシン。
それと同時に、腐竜との戦いで加勢にきたライル傭兵団、計8人とも接触。
ここまでで忘れてしまっている人もいるかもしれないが、シンの旅の目的は、ライルのために戦う。正確に言えば、グレール王国を撃ち滅ぼすことだ。
だから、都ライルの領主直々に雇われたライル傭兵団と出会えたのは幸運だった。
8人とは、普通の傭兵団とは比べ物にならないほど少ない。
いったいどんな傭兵団なのか、シンの中には、かなりの期待がふくらんでいた……。
シンとグルイドは、2人一緒にライルの城につれられた。
腐竜討伐に協力した者達として、そして暴君マーゼレンについての重要な参考人として。
それと、シンの願いである。戦いのあと、傭兵団員と村の皆で腐竜の死骸の後片付けをしていた
とき、ただ突っ立ってるだけのグルイドを尻目にシンがむかった先は傭兵団のリーダー・ベグオンの
ところだ。
「なあ! あんた! ライル傭兵団の団長だよな!?」
シンのムダにデカい問いかけに動じることもなく、ベグオンは指揮する指を止める。
「そうだが……」
するとすぐにシンがまた怒鳴る。
「あんたらのところに連れてってくれよ!」
「ああ、もとよりそのつもりさ」
ベグオンは肩につく程の髪をゆらして不適な笑みを浮かべる。
シンは大いに喜び、グルイドに向かって一目散に走っていった。そこでいくつか言葉を交わし、
少し打ち解けあったところで、傭兵団の3人・ベグオン、サナ、ジェイクに連れられ都ライルまで
ウ馬に乗り丸一日。寝ないでたどり着いたライル城。先ほどの田舎から、随分都会まで来たものだ。
青い壁に青い床。城主は青が好きらしい。その城主は、今奥の玉座で座っている。
といっても、まだライル城についたばかりのときは、城主は不在だった。代わりに沢山の兵が
警備していたが、少々警戒心なさすぎじゃないかと思う。
その間に傭兵団長と、その他二名とも言葉を交わす時間があった。
「あんたらぁ、たった8人で傭兵団なんかやってんのか?」
「ん……まあな」
シンの問いかけにまず答えたのがベグオンである。荒々しい格好だが、優しそうな瞳をしている。
鎧は軽装。鉄の大刀を背負い、腰には傷薬やらなにやらがぐしゃぐしゃに巻かれている。
「ふぅ〜ん……、結構名前が通ってんだろ? たった8人で」
「まーな。でも、お前らは2人だろう?」
「まぁ、そうだけど……」
ことごとく話を終わらせてしまうのは癖かなにかだろうか。それとも話すのは苦手なのか。
とにかくこのままでは話が進まない。グルイドは、団員の2人に目を向ける。
「あなたは……、不思議な技を使いますね」
「え? あ、はあ……」
少し驚いたように幼い声を出したのはあの魔法少女だ。名前はサナ。
長い髪で、体が小さく、まだ子供ではないかと思う。
「ああ、そうか。あんたら、『魔法』を知らないんだったな」
そこに横から口を挟んだのはジェイク。さっきのスラッと細長い短剣使い。渋い顔のあの人だ。
「ああ、さっきのおっさん」
「おっさん言うな」
そういう言葉に敏感らしく、すぐに反応した。おもしろかったが、シンはそれ以上言うのを
やめる。結構そのへんのしつけはしっかりしていたようだ。