第二十二章:今を戦う
「うわぁーーーーーーー!!」
ベグオンは我にかえり、声をあげた。しかし、今度のは雄たけびではなく、悲鳴のようだった。
「どうしたベグ……」
シンは言いかけるが、敵の猛攻の合間にそんな暇はない。
暗い空、森、そして竿で戦う戦士。ベグオンの記憶が呼び戻された時、彼の膝は落ちた。
「ベグオン!」
シンは急いでベグオンに駆け寄り、かばうように戦った。
「しっかりしろよ、おい!」
しかし、シンの声は届かなかった。幼き日のトラウマは、恐ろしい。ベグオンの目は怯え、立とうにも立てない。
竿を地に着け、必死に立ち上がろうとするも無理。竿はベキンと折れる。
「な……なんだよ。コノヤロー、なんで立てねえ」
ベグオンが唸るように言う。そしてまた、大きく悲鳴をあげた。
シンが一旦武器を止め、手をかす。しかしベグオンはそれを振り払い、あとずさる。幸いそこに敵はいなかったものの、木にぶつかり、その木には矢が沢山刺さっていた。
「矢……」
またも記憶が甦る。父は最期、矢を体中に撃たれて死んだ。この木のように。
「うわあああああああ」
また叫ぶ。
「ベグオン、お前の隣にあるだろ! 武器が!」
シンの指差したところには、あった。今は猫と化した、虎の大刀が。あとずさってるうちに、もう武器のもとまできていた。
「取れ! お前は今を戦ってるんだろ!」
シンが叫ぶ。猫はハッとした。叫びながら武器を取り、ゆっくり立ち上がった。しかしまだ、体は震えている。
それでも彼の眼は、もう猫ではない。
「そうだ……。負けられるかあ!」
やっと気合が入った。だが、それは遅すぎた。もう残り少ない敵兵に囲まれ、その兵たちはもう隙だらけのベグオンに狙いを定め、一斉に武器を振り下ろしていた。
――ヤベェ
「ばあーか」
そこで、助けが入った。
「一斉に振り下ろしなんかしたら、結構簡単に受けられるぜ?」
シンは上に槍を構え、全てを受けた。そして、ベグオンを避けて一回転。周りの敵をなぎ払った。
「やるぞ」
「……おう!」
再び暴れだしたベグオンは先程より勢いを増し、残り少なかった歩兵を殲滅した。シンは、騎馬兵達相手に一歩も退かず、約十騎いた騎馬たちを全員落馬させた。木に登り、草の陰から狙い打つ。このパターンを、父から深く教わっていた。
全滅。二人は、背中合わせに座って休んだ。
少しして、ベグオンが口を開いた。
「なんで知ってた。俺のトラウマ」
「暇つぶしだよ」
「意味わかんねーよ」
その頃、他の団員や兵たちのいる砦。
もう戦闘は終わっていた。戦死者0名。見事な完全勝利だった。
勝利をかみ締め、半分はまた砦に戻った。ジェイクも砦に戻ろうとしたが、その前に、馬のひづめの音が聞こえ、立ち止まる。
「ハロン。どうだった?」
「は! 団長とシンを発見いたしました」
ハロンの乗っている大きな馬は、三人ぐらい軽く乗る大きさだ。ハロンの後ろには、二人が乗っていた。
「おかえり、二人とも。怪我は?」
ジェイクは確認し、たいした怪我がないことがわかりホッとする。
「で、どうだった? ベグオンは」
ジェイクは、コッソリシンに訊く。
「見事に打ち勝ってたぞ、トラウマとかいうのに」
「そーか、そりゃよかった」
「それよりさ、あのトラウマの話は聞いたけど、セリフについてまだ聞いてねえ」
「あ? ああ……、それはな」
言いかけて、やめた。
「いや、それはまた今度な」