表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大陸の覇者  作者: 熱悟
21/23

第二十章:虎へのサイン

ベグオン!


ポツポツと雨が降り注ぐ中、誰かの声が、ただ同じ言葉を繰り返している。


ベグオン! 大丈夫かぁ……、今いくぞ!


(ベグオン? ……俺のことか)


彼、薄れ行く意識の中で、たったひとつの声だけがハッキリと耳の奥に響き渡ってきた。

視界に映るのは、鮮やかに紅色に染まる血と、誰かの腕がブンブン振り回されているだけ。

景色もめまぐるしく変わっていく。自分が回っているのか、世界が回っているのかもわからないほど感覚がない。


(え……、まさか…………俺は、死んだのか!?)


ベグオンはそう考えてみた。だがまずは落ち着く。

感覚は戻りつつあった。自分では死んだと思い込んでいた。

視界ももっとハッキリした。誰のものかは知らないが、振り回される腕の先に、強く握り締められた棒がちゃんと見えた。


(……サオ? ……わかった。これ、俺の腕だ)


ベグオンが気づいた時、既にシンは目前まで迫り、サオの当たる間合いの一歩手前まで詰め寄り、今正に大声を張り上げようとしていたところだ。


「ベグ……」


それにとっさに気づいたベグオンは、必死にそれを押さえる。

シンは後ずさり、べぐオンに投げかけた。


「どうして返事しねーんだよ!」


そんな事を言われてもベグオンにはよく意味がわからない。

そこで彼は、素早く状況を飲み込みとっさに答える。


「わ、わりぃわりぃ! 意識とんでたもんだから……」

「はあ? サオで大立ち回って、まだ無傷の癖によく言うぜ」


シンに言われたとき、ベグオンはやっと状況を完全に飲み込んだ。


(俺が無意識にサオ振り回して無傷……。わかったぞ。つまり、俺が刀投げてやられたと思い込み、意識は一瞬とんだが、それでも体が勝手に動いたと……)


そこまで考えてみると不思議になり、自分の手に持つ血まみれのサオを眺める。


(サオ持ってきてよかったぜ。川がなくても見つけるまで帰らない覚悟だったからな。やっぱ、諦めなくてよかったぜ!)


ベグオンが考えているうちに、敵はすぐそこまで迫ってきた。

だが、ことごとく返り討ちにし、物凄いサオ捌きで数多の敵をなぎ払った。さすがにサオでは

敵兵を殺すまでには至らないが、それでも構わない。虎のごとき暴れぶりで、兵を獲物のように狩る。


「なあ、ベグオン!」

「なんだ!?」


急にシンが話しかけてきた。


「ありがとな!!」

「……おう!」


思わぬシンからの礼の言葉に、呆気に取られそうになったベグオンだが持ちこたえる。

そして元気に返事を返す。この男の、あるべき姿だった。


「お前の刀……、持ってくることはできんかった! すまん!」


シンが怒鳴る。もちろん体は動きっぱなしだ。

ベグオンは黙ってサオを打ち続けるが、それを放ってシンは一瞬手を止め、ベグオンより少し奥の方を指差した。


「お前、意識なくてもかなり動いてたからな。お前の後ろに、刀はあるぜ!」

「……おう!!」


ベグオンは更に勢いをつけてサオを振りだした。


(あそこだ……。あと十メートルくらいか。あれさえ取れば……!)

「邪魔だ――――――――……」


暴れ狂う虎が、大きく怒鳴って大地を揺らしかけた時だった。彼の頭に、ある映像が流れ込んできた。



――――父ちゃん!


――――元気出してくれ、父ちゃん!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ