第十八章:悪ガキ 困らせる
「お前がぁ? 無理だ」
ちょっと焦ったような表情で、ベグオンが大袈裟に言う。
シンは絶対大丈夫と思っていたので、「なんでだよ!」とベグオンの周りを凄い速さで
回り続け、時折素手で攻撃した。しかも、素手でも速い。しかしベグオンは腕だけ素早く動かしてことごとく止める。
「なんでもなにも、お前みたいに落ち着きのない奴じゃ見張りは無理!」
「大丈夫だって」
つかまれた右手をもう片手ではずそうと一人奮起すると、更にベグオンは自分の方に引き寄せてきた。そして、シンの肩をポンと叩き言う。
「大丈夫じゃねえ、夜の見張りは危険。俺らも一人で寝てるなら人が近寄りゃ気づく。
だが眠る時、すでに沢山の人間が周りにいる。かなり気配と殺意を隠すのが上手いような
奴が相手なら、殺られる危険もある」
「だから俺が見張ればいいじゃねえか」
シンは随分と自身ありげに言い放つ。右手を痛そうに左手で撫で、ブラブラしている。
体の大きいベグオンに肩を組まれ、親子のようだ。
「もしそういう奴が相手なら、常に双眼鏡で遠くを見ておく必要がある。
お前はそれをサボりそうだからダメだ!」
ベグオンがそれだけ言うと、シンは「ちぇ、ケチ」と言い残して、後からゾロゾロ入ってきた
皆の方にふてくされて歩いていった。
「つーわけで、他に誰かいないか?」
さっきまで騒がしかった砦内は、その一言で一斉に静まり返った。
誰も、名乗り出る者はいない。残念。
ベグオンが信じられないような呆れ顔で目の前の光景を見回していると、
なにやら後ろでニヤニヤと笑う男の気配を感じた。これはあくまでベグオンの勘だが、
今その男は自分を指差して笑いを堪えているだろう。きっと頬を膨らませ、
顔を真っ赤にして、余った手で口を抑えているだろう。ベグオンは、その勘が当たっているか
否かとばかりにゆっくり振り向いた。
案の定、当たっていた。ベグオンの勘をそっくりそのまま、シンが映し出していた。
ハァ〜。と、大きな溜息を漏らし、遂に笑いを堪えきれずに大声をあげるシンの方から目をそむけた。