第十七章:妖しい夜
馬を歩かせ続け、もう何日経っただろう。
陽が沈み、闇が押し寄せる。その度に野宿か、近くに宿があれば借りる。
だが、宿のある確立はかなり少なく、普段あるものもない不便な生活をおくる一行。
シンのわめきの勢いも増すばかり。まあ、大きな争いになるわけでもないが、
これでは余計疲れる。いい加減にせいと、ジェイクやグルイドあたりから非難がくるが
いつまで経ってもやめはしない。
そんな、ある夜のことだった。
「今夜は、ここで寝ることになるな……」
ベグオンが呟いた目の先には、ボロボロな古ぼけた砦が二軒ほど並んでいた。
両方とも、雨か何かの影響だろうか屋根が崩れ落ち、壁にも穴だらけだ。
シンが右手を高く上げ、「また?」と団長に問う。「また」と軽く返す。
「え〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」
また駄々をこねだした。いらっときたベグオンはキツく言う。
「えーじゃない! お前はどこのおぼっちゃんだ! こんなでも、寝床があるだけ我慢しろ!」
「俺は山育ちだけど、屋根くらいあったさ」
そう吐き捨てると、シンはゆっくり馬を歩かせ砦の直前で降りた。愛馬の顔を撫で、
その辺の壁の穴から紐を通して繋ぐとさっさと中へ入っていった。一番乗りだ。
はぁ〜と溜息をつくお疲れ気味の団長に、ニーシャがさっと声をかける。
「大変……ですね」
あ? と振り向き、びっくりしたように後ずさりしたベグオンはその焦りを隠し返した。
「え? あ、ああ。悪い奴じゃないんだがな」
「違いますよ」
そう言い残すとニーシャはシンに続き、さっさと馬を歩かせて砦の前に止め、
中に入っていってしまった。
ベグオンは首を傾げながらもそれに続き馬をゆっくり歩かせる。数歩ゆくと、
砦の中から声が聞こえた。
「なぁーベグオン、こんな狭いとこじゃ皆寝れないぜ」
砦の中では、天井もなく穴だらけの癖に妙に響く声だ。丁度ニーシャが入ってきたくらいのところでシンの声が聞こえてきた。
「別に……全員寝るわけじゃないわ」
「は?」
急に背後に現れたニーシャの姿に驚きを隠せず、いや、隠さずにシンはぴょんと後ろに
跳ねる。ニーシャの方に体を向けたまま顔と目をキョロキョロと忙しそうに動かし、
かなり動揺しているようだ。
「ど、どういう意味だよ?」
シンが慌てながら訊く。ニーシャは、無表情のまま答える。
「見張りがつくもの……。外に……兵の半分が立ち、中で寝ている兵残り半分と……交代」
「ああ、成程」
声が小さいうえに飛ばし飛ばしだったが、言いたいことはよくわかった。
そのあとベグオンが入ってくる。
「そういうこった。後は兵と一緒に見張る傭兵団員が二人必要だが……」
ベグオンはそういいかけると、辺りを見回した。ベグオンにつられて入ってきた傭兵団の
メンバーから、それに相応しい者を探しているのだろう。
シンは不審に思う。いや、ベグオンの動きとかではない。
団長であり、かなりの実力者のベグオンが砦に入ってくるとき、シンはちゃんと少し前に
気配を感じ取った。
だが、ニーシャには感じなかった。
シンもそれなりに実力がある。ベグオンの気配を感じ取れたのがその証拠。
だが、何故かニーシャだけは感じられない。何故?
おの娘になにか不信感を持ちながらも、シンはさっきまで聞いていなかったベグオンの話に
耳を傾けた。
「誰かいないかな〜……。見張るに相応しい団員は……」
その時、シンの眉毛がピクッと動いた。今まで聞いていなかっただけに、急にそんな話を
聞かされて本当にピクッときたのだ。
「俺! 俺がやる!」
そこで、気がついたときにすぐ手を上げた。