第十六章:朝陽の微笑み
北のローラシア域。その中でも最も北の地・チェイス。
そこで快く出迎えてくれたのは、ひとりの若女王だった。そしてその若女王は、今、ベグオン
たちに心強い娘をあたえてくれた。実力はまだわからない。だが、その娘はきっと
なにか強大な力を持った娘だということは誰もが気づいた。何か、大きな存在に催眠でも
かけられたかのように。
その娘は異常な程に口数の少ない娘だった。だが、そこに強さがある。そう信じて、一行は先を急ぐのだった。
これから目指すは、ゴンドワナ本域。グレールにこそ入らないものの、敵は警戒態勢を
強め、戦いもより苛烈なものになるだろうということは、傭兵団の全ての者達がわかっていた。
だが、だからこそおもしろい。この『ライル傭兵団』は、そんな奴らだった……。
さて、今日の朝陽は妙に明るくギラギラと光り、チェイスの城を輝かせていた。
出発する一行を、まるで天まで祝福しているようだった…………。
朝陽はまだ完全には上がらず、まるで夕陽のようだ。
だがどちらにせよ、あの太陽を見ていると勇気が湧いてくる。オレンジに似た、
明るい光が差し込むと、本来暗い山道もわくわくするほど明るくなり、昨晩積もりに積もった
雪はみるみる溶けてゆく。馬を走らせる一行は、これからの旅路に希望を持って馬に鞭を
入れた。
だが、疲れた団長のこぼれた笑顔を歪ませる少年がいた。
「おいー。ベグオン! いつんなったらつくんだよ?」
もちろんおわかりだろう。この少年。団長の心部下知らずと言わんばかりのシンだ。
長い交渉と戦でお疲れの団長ベグオンが折角笑みをこぼしていたのに、まったく興ざめな
男だ。
「む……、うるせーな。パンゲア最北から南の国まで行くんだ。猛スピードで馬走らせても
何日もかかるっつーの!」
いらっときたベグオンは珍しく怒声をあげる。いやまあこの前もあげたが、いつもは冷静だ。
「えー、何日ぐらい?」
「さーな」
子供みたいな声を出すシン。ベグオンは軽ーくあしらう。
だが尚も時間をおいてはまだかまだかと声を出すホントに子供のような子供のシンに、
かなり冷静で適当に対処する団長さん。こういうのには慣れているのだろう。
見かねたジェイクがいつものように横から声をかける。
「おいシン、いい加減にしろって。まだかって聞いて、早くつくと思うか?」
「そりゃあそーだけどよ」
シンは我慢できねーんだよと言おうとして止めた。
確かに子供っぽいかなと思って今更恥ずかしくなったのだ。以外に年頃の少年だ。
だがそわそわするのにかわりはない。そわそわそわそわうっとおしい。シンの真後ろの
グルイドは指摘するが、「はいよー」と言って少し休んではまたそわそわ。よほど落ち着きの
ない少年だ。手間がかかる。
(大丈夫かなこれで……)
ベグオンは少し、不安を感じ始めてしまっていた。
ここで初めて、最後尾のニーシャがくすっと笑ったのだった。