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大陸の覇者  作者: 熱悟
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第十五章:メリット

「ジェネラルフラッシュ!」


アイリスが叫んだ途端、真上に掲げた両手先から目がくらむ程の光が発された。

ベグオンも思わず目をつむり腕で顔を覆い隠す。ジェイクは少し古いマントで、顔を覆い隠している。


「ジェネ……かなり高位の攻撃魔法か!」


ジェイクはかなり驚愕している。今アイリスが使ったのは、サナでも到底使えないような

かなり位の高い光攻撃魔法だ。彼らが目を開け、動けるようになったとき。

周りに敵は……もう、いなかった。


ジェイク・ベグオン・グルイドの周りに群がっていた歩兵隊は皆焼け焦げ、無残な死体に。

シンに襲い掛かってきていた上竜使いは、地に落ちバラバラだ。


「な、なんつー恐ろしい魔法使いやがる……」


ベグオンが口から恐怖を感じる言葉をこぼす。だが、全滅したわけではない。

アイリスから少し離れた位置にいた敵はまだ生きている。そして懲りずに襲ってくる。


「ちっ! 俺たちの出番がねぇぜ!」


皮肉をたらして、またもベグオンは暴れだした。先程より大きく大刀を振り、

大きな気合を発し、地を叩き砂煙を巻き上げた。時折血が混じっている。

シンは能天気に、燃えるぜ! とでも言いたげに突いたり斬ったり。こちらの士気は上がる一方。


次々攻めてくる敵兵たちは、その様子を見て戦意喪失。

瞬く間に逃げ出した。敗走だ。



戦が終わり、傭兵団もチェイス兵も皆無傷で城に戻ってきた。

城の前で敵を食い止めた傭兵団も大きな功績だが、なんと言ってもやはりアイリスの魔法が

効いたようだ。




「ふん。主らが余計なことをせずともあんな奴ら、簡単に撃退できたわ」


殺気がすっかり消え、穏やかになったチェイスの城。その城門の前でひとり、決して穏やかではない女がいた。何をそんなに怒っているのだろうか。


「まあ、いいじゃないですか。邪魔したわけじゃないんだから……」


ベグオンがなんとなく呆れ気味に肩を落として言う。アイリスは体を勢いよく翻し、

城の中へドスドスと足音をたて入っていった。


「まあいいわい。中へ入れ」

「失礼します」


ベグオンが軽く頭を下げてからアイリスについて城へ入っていった。

他の者達もバラバラに会釈をしながら歩き出す。


廊下を先程とは違う方向に真っ直ぐに歩く。だんだん薄暗くなってきて、壁に一定の間隔でローソクが並ぶ。ローの垂れるのが不気味だ。壁には不規則に、所々仮面が飾ってあったり置物が置いてあったりした。不気味だなぁと真顔で思うシンはなんとなく壁を見上げ、飾りを見てみる。


「主らが強いことは知っておる。だが、経済力がない」


歩きながらアイリスは振り返りもせず言う。ベグオンは苦笑して「ええ」と素直に言って後頭部をかく。後ろの皆はただただ黙って歩き続けている。


「ハッキリ言って、主らに軍をかしてもなんのメリットもない」


アイリスの厳しい一言にもう一度笑顔をつくるベグオン。辛そうだ。凄く辛そうだ。

だがベグオンは未だに笑顔を絶やさない。なんとかして交渉を成功させなければという団長の意地だ。


そこまで言うと、目の前に大きな胴でできた扉が姿を現した。その前で、アイリスは立ち止まる。


「だが、さっきな。こっちにメリットをつくる方法を考えた」

「というと?」


ベグオンの表情が微妙に明るくなる。いや、もうさっきから明るかったが、なんというか、表面的にではなく、心の底からの明るさというか、そんな感じだ。


「軍はかさん。だが、この扉の向こうにおるひとりの兵を主らに与えよう」


ベグオンはもう驚きもしない。びっくりし慣れた。もうこれぐらいで驚かない。

この世界ではもはや、今の常識など通用しない。一人ひとりが超人といえるのだ。まあそれも、一部の将のみだが。とにかくベグオンは驚きはしなかった。


「ニーシャ! 開けるぞ!」


アイリスは今までより比較的大きな声を出して、ギィッ、と胴の扉を押し開いた。



部屋の中に広がっていたのは、やはり水色の世界だった。

石ではなく、綺麗な水が浅く広がり足がつかる。だがつかるのは靴だけなので誰も気にせず中へ入っていった。


奥に向かって祭壇に正座し、なにやら祈祷をしていたこれまた水色の綺麗な髪をした娘がこちらに振り向いた。アイリスより少し若いようだが、どことなく雰囲気が似ている。


「母上……」

「ニーシャ。もう祈りの時間は終わっただろう」


この娘はどうやらアイリスの娘らしい。かなり若いんだろう。サナと同じくらいに見える。


「祈りは長い方がいいと……、叔母様が……」


アイリスが小さな声で言うと、それをなんとか聞き取ったアイリスはゆっくりとニーシャに歩み寄ると、ニーシャの肩を両手でポンと叩き、立たせる。


「その分集中力が途絶えては意味がない。毎日少しずつ延ばせばいい」


立ってみると、ニーシャは以外に背が高く顔を見たときより年上に見えた。

母を見下ろし、ニーシャは一言「はい」と呟く。アイリスはちゃんと聞き取っているが、

ちょっと離れたベグオンたちにはよく聞こえない。


何を話しているのだろうと思ってちょっと背伸びをし、体をずらしてニーシャの顔を遠くから覗き込んでみるが、声が聞こえるようになることはもちろんない。


その時、離れた位置から普通の声でアイリスが言った。


「主らの旅路、我が娘を連れて行け。自慢の娘だ。きっと力になるだろう」


アイリスが言い終わると、ベグオンは「ん……」と喉から声を出しニーシャに視線を送った。

ニーシャも無言でただコクッと頷き、目で「よろしくお願いします」と言っているようだ。


「しかし、大事な娘さんを戦に出してよいのですか? 危険な旅になることと思いますが?」


ニーシャの目はどこか自身があるようだったが、ベグオンは心配でたまらない。

しかしアイリスは静かに笑い、ニーシャの肩を叩いて真っ直ぐ視線をベグオンに向けた。


「我が娘をなめてもらっては困るのう。ニーシャは一人娘だが、戦に出たことも多数ある。

 毎日修行もかかさないし、死んでも主らのせいにはしない。安心せい」


自分が死ぬとか死なないとかいう会話を聞きながらも、ただ喋っている方に目を向けるだけで動じないニーシャ。忙しく首を動かしているから、きっと首が疲れるだろうと心配してしまう。ベグオンは改めてニーシャの目を見た。ニーシャも真っ直ぐベグオンを見つめ、そして頷く。よほど自身があるのだろう。


その目を見てベグオンは確信する。この娘なら大丈夫だろうと。そして同時に、淡い期待と不安を浮かべた。


「わかりました。それでは、大事な娘さんをしばらくお預かりします。決して死なせないことを約束します」

「ははは。よいよい。最前線に出してやれ」


母が少し縁起の悪い冗談を言うが、ニーシャはチラッと母の方を見てすぐに向きなおす。

よほど自身があるのか。それともただ無口なのか。


ニーシャの性格もよくわからないまま、その晩も城に泊めてもらった。


そして、一行は出発の朝を迎える―――。



「それでは、お心遣い感謝します。ニーシャ殿! 準備はよろしいか?」

「……はい。大丈夫……で……す」


途切れ途切れな口調はもう一晩で聞きなれた。ニーシャは白馬にまたがり、荷物は小さな袋と

魔法に使用する用具のみだ。


「うむ。それでは、行け! 健闘を祈る!」


アイリスが格好良くマントを翻し、昨日より鋭い眼差しをベグオンに向けた。


「はっ! 必ずやグレールを打ち倒し、大陸に平和を取り戻して見せます!」


そう言うとベグオンは、希望に満ち溢れた目を軍に向け、大刀を掲げ「出発!」と叫ぶ。

軍はいつもの「押忍!」の掛け声。シンもノリノリだ。


こうして一行はチェイスの城を後にした。新たに戦力を加え、準備は整った。

これから向かうはゴンドワナ本域。危険な旅になることを覚悟して、アイリスに感謝しながら

死地へと向かった――――。



「彼らは、やれそう?」


城の奥からゆっくり出てきたのは、アイリスより少しだけ若々しい娘だ。熱く服を着こんで、

動きものそのそとしている。


「さあな。あの者たちの器は、私には計り兼ねた」


アイリスは元気に声を発する。今周りには、無防備にも兵が一人もいない。

だから大声で話せる。アイリスは目の色をかえ、その娘の方を見た。


「お前は、計り兼ねぬか? 我が妹よ」


アイリスは、深く着込んだ服で顔がよく見えない妹の顔を覗き込んだ。

妹は動かず、素顔を見せぬまま言う。


「そうね……、私が思うに今のままじゃ、戦を止めるのは無理ね」


妹は少し間髪入れて、ベグオンたちの走り去った遠くを見つめた。


「団長の彼、立派だけど少し足りないのよ」

「私もそう思っていた」


アイリスの言葉が本当かどうかは不明である。


北の冷たい風が身に染みるなか、二人で遠くを見つめる姉妹。会話はそこで終わり、二人は城内へと戻って行った。


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