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大陸の覇者  作者: 熱悟
13/23

第十二章:戦は一瞬

「死ねやぁ―――!」


シンが敵陣の真ん中で独り、自慢の大槍を振り回し始めた。空から急に降ってきた男に、

戸惑って武器がでないグレール兵。それをいいことに、シンは奮闘。沢山の兵を蹴散らしながら、

ベグオンたちのいる裏門の方へ徐々に近寄って行った。


「む? ……シン!」


大刀で暴れていたベグオンは、シンを目に捉えると喜んで手を振った。

その隙に攻撃を試みる敵の軍勢だが、ベグオンは左手で大刀をブン回し、的確に兵を斬っていった。

顔もシンの方しか見ていない。それにあの重そうな大刀を左片手であそこまで使うベグオンは

凄いものである。シンも「すげー」と思わず見入るが、すぐに戦闘に戻る。


その勇猛なシンの姿を、グルイドも見つけた。


「シ、シン! 来てくれたのか!!」

「あたりめぇよ!」


シンは豪快に笑ってみせた。さっきまでサボっていた分だと言わんばかりに、どんどん敵兵を

切り刻んでいく。槍なのに、突くより、斬る。


「今行くぜっっ!」


そう一声あげるとシンは、驚くほど大きく飛び上がってグルイドの隣に着地した。

十メートルは飛んだ気がする。グルイドは驚愕して、思わずシンを見た。だが敵は攻撃してこない。

シンが一瞬でグルイドの周りに群がる敵を切り伏せ、その後も殺伐としたオーラで兵たちを怯ませて

いるからだ。シンがグルイドにやけに楽しそうに言う。


「行くぞ!」

「お、おう!」


グルイドもとっさに返事をし、再び腕を動かし始めた。

少し時間が経って調子付いた2人の息はピッタリだった。相性バツグンだ。

その暴れた猛獣とその子供のような姿を見ているうちに、他の傭兵団員と騎士たちも士気が湧いてくる。

そしてその分、グレールの士気は落ちる。


「おらぁ! 俺たちも負けるな! 皆殺しだ!」


ベグオンもその影響を受け、調子に乗って皆殺し宣言だ。だがこのライル騎士団、

皆血の気の多い奴らだ。恐ろしく感じるどころか、さすがベグオンさんだぜ! という感じで逆に

相手を恐れさせている。もうこれは、あまりにも凄すぎる。本当に人間だろうか。


「あ、あんな奴らと戦えるか!」

「話が違う! 火計はどうしたんだよ!?」


グレールの兵たちは、二人の姿を前にすると戦意喪失。現れた敵の半分は逃げ、もう半分は死んだ。

もうこの二人に敵はない。グレール兵が、ただ周りを飛び回るだけのハエのようだ。




「ほぅ、ライルにはなかなか活きのいいのがいるようだな」


それを遠目に睨む男が一人。丘の上から、戦場を見物している如何にも強そうなグレールの将だ。


「そうですね。傭兵団にまた新団員が加わったようで。もう弱小国ではありませんね」


その隣で馬にまたがるは、軽装の真面目そうな青年だ。馬は毛並みが綺麗に整えられている白馬。

その青年自身、身だしなみを整えている。


「ローレン。わしもあんな強者と一戦交えたくなったぞ」

「駄目ですよ、ジェンク様。あなたはあくまで、グレール最高将軍なんですから。

 こんなところであなたのお手を煩わせたら、僕が罰を受けてしまいますよ」


青年ローレンは言う。グレール最高将軍とは、グレール王国で最も強いとされる将のことだ。

そんな男でも、グレールの王を慕う。その王の人望も、相当なものなのだろう。

ローレンの小言を聞いて、ジェンクはむっとする。


「ふん。わしを戦に出さないつもりか。そんなでは、私の槍の腕は衰えるばかりではないか」


ジェイクはふっと手に持つ大きな槍を見る。綺麗に光る刃が、天を向いて立っている。

新調したばかりだ。


「とりあえず今は、見るだけで我慢してください」


ローレンも呆れたように言うと、背後に控える将の方を向き、清純な声で言った。


「シャクロン。一応こっちも負けるわけにはいかない。と言っても勝てそうにない。

 兵をあと200引き連れて、お前も裏門に加勢しろ」

「はっ」


返事をするとシャクロンは、自分の部隊150と追加の50の兵を連れて丘を駆け下りて行った。




「げっ! まだ増援が来るぞ!」


シンがそれを見て驚愕。ピタリとやんで、もう来ないだろうと思っていたグレールの増援がまた来た。

さすがに疲れる。ここまでやると、だんだん息が切れてくる。やばいと思ったその時だ。


「おーい! 大丈夫かぁー!」


正門側から声が聞こえた。妙に高ぶった渋〜い声。ジェイクだ。

それだだけじゃない。その後ろからは正門で戦っていた騎士団員に、ハロンにケイトもいる。

城の上では、正門側から裏門側へと弓隊も移ってきた。


「加勢します、団長! 一斉に放て!」


フィンの一声で、後ろの弓隊とサイの矢が一斉に斜め上空に放たれた。味方がいるのは手前だけ。

だから矢は、味方には当たらない。少し遅れてフィンも矢を射る。


「正門はもう終わったぜ! ベグオン! もっと進もうぜ!」

「ジェイク!」


ベグオンはジェイクに声をかけ、周りの敵を無数に蹴散らしながら駆け寄った。

ベグオン、ジェイク、ハロン、ケイト。この四人でかたまって、近寄る者全てを吹き飛ばしていった。

と、それを見ながら独りで戦う、よく言えば孤高、悪く言えば寂しい戦士がひとり。


「皆……俺は?」


小言を呟くのはバリスだ。すっかり忘れられているが、ずっと斧を振り回して戦い続けている。


「……まあ、いいか」


バリスは簡単に割り切り、勇猛果敢にもっと進んで城から離れていった。

それにすぐさまフィンが気づき、射撃を停止するよう弓隊に合図を送った。


「僕らの出番はここまでのようですね」

「そうね。この戦は、もう彼らに任せましょう」


会話しながら、弓隊を引き連れて城内に戻る、これも二人の戦士だった。

そいつらと同じ位置から攻撃しながら、まだ停止しない娘がひとり。


「燃えろ! フラッシュ!」


たった独りで戦うのは、バリスだけじゃないようだ。上空から魔法をかまし、大地を焼き尽くすサナ。

寂しかったバリスも、その姿を見て思わず笑みをこぼす。


「よし! 俺ももっとやるか!」


バリスも、サナのお陰でもっと頑張れたようだ。この二人も、実は結構仲がいい。


「さあ、ライルの小僧ども! 快進撃はもう終わりだ!」


そこに突っ込んできたのが、グレールの将シャクロンであった。


「逝けぃ!」


シャクロンが馬にまたがり、シンに向かって一直線に突っ込んできた。

頭上で槍を振り回し、シンの目前で構えた。そのまま止まらず、助走をつけて突く。

しかしその一瞬。シャクロンの一撃はことごとく受け流され、シンの槍がシャクロンの背中を狙った。


「ぐあっ!」


ほんの一瞬だった。シャクロンは落馬しその場に倒れ、切り口が深く、出血も酷く即死した。

丘の上から眺める二人は戦場を偵察していた兵からその話を聞かされ唖然とした。呆気なすぎる。


「危ねぇ」


シンはそう一息つくと、大声をあげた。


「こいつ武将だよなぁ!? 討ち取ったぜ!」


その一声で周りの戦はピタッとやんだ。そしたみな一斉にシンの方に振り向く。

本当だ。シャクロン様だ。そんなざわめきのあと、グレールの兵たちは怯えて退却、いや、敗走を開始した。



今回の戦のあと、シャクロンはレイスの気遣いで土に埋められ、木製の十字架を立てた墓が作られた。

十字架には、「グレールの誇り高き将・シャクロン」と書いてある。シャクロンは、武将であり、またグレールの小さな村を治めるいい領主でもあった。

その村の住民たちはシャクロンの死の報せを聞き、おおいに悲しんだそうだ。

こうしてこの戦は幕を閉じた。シンとグルイドの活躍は大きなもので、レイスからはなにをされたかというと……。誉められただけだった。まあ、それが相応だろう。



戦の翌日、体を休めているライル城の人たちだが、突如城の前に大きな軍隊が現れたのに驚愕。

そんなこと、レイスもベグオンも言っていない。あの二人なら、敵が来る前に予測するだろうし、第一なんでここまでに気づかなかったのかと。だが、その一軍は敵ではなかった。


「おおー。よく来たね」


レイスが喜んで正門に出迎えた。すると軍の皆は敬礼。そしたすぐきおつけ。

レイスが両手を前に出し「やあ」ともう一度。すると軍のひとりが大声で話し出した。


「ライル城・城主レイス様! 我々は、約束通りライルに助力にきた、ジキル正規兵です!」

「ああ、わかってる」


城内の窓の部屋から五、六人で集まって覗いている騎士団たちはまた驚いた。

ジキル正規兵といえば、このライルという『土地』ではなく、それ以外にもライルを含め

ローラシア半域を治める国の名前である。ライルは、ジキルという『国』の中にある『領地』にすぎない。

だから、ジキルの方が兵の数は圧倒的に多く、その一部をお借りしたというのだ。


「でも、何故?」


そんな疑問が兵たちには浮かんだ。別に今まで通り、四百の兵に傭兵団があれば城を守るぐらいできる。

確かにだんだん戦いは激化してきているし、今まで通りにはいかないかもしれない。だが、

そんないきなり何故? と、そういう疑問だ。


そしてそれを、兵のひとりがレイスに訊いてみた。しかし、誰がなにを言おうとレイスと、

それに付き添うベグオンは、「まあ見とけ」としか言わない。だが、これだけは誰にでもわかった。

これから、なにかが起こる。



「おーし! よく聞けぇ、血の気の多いライルの兵士たちよ!」


朝食の時間、食事を始める合図のあとレイスが大声で全兵に言った。


「これから傭兵団は、兵を百人引き連れて城を離れることになった! 奴らがいない間、

 お前達を支える勇気ある兵たちを、お国からお借りした! 千人だ! これから城を大きくする拡張工事が行われる! 食事が終わったら全員城の前に集合!」


話の途中から、驚きの声があがっていた。そして話が終わった頃には、もう食事が唾だらけになる程皆が大騒ぎしていた。


「な、どういうことだ!? レイス!」


とっさに、すぐ隣で食事をしていたシンが言った。慌てて立ったせいで、椅子はガタンと後ろに倒れた。


「どうもこうも言ったとおりだ。お前たち傭兵団員は、百人兵連れて明日には出発する」


レイスは不適な笑みを浮かべて答えた。シンは「ぐっ、だから……」と言いかけてやめる。

これ以上は不毛だ。この男に、そんなこと何度言っても意味はない。

今度はベグオンの隣で食事していたフィンが立つ。


「だ、団長! 知ってたんですね!? なんで教えてくれなかったんですか!」

「いや、レイスが言うなって……」

「レイスさん! なんで言わせなかったんですか!」


フィンの攻撃の刃先がレイスに向けられたとき、レイスが放った言葉はこうだ。


「…………サプラィズ」

「うわ――――っ! 腹立つ!」


ふざけたレイスの態度に、目つきを豹変させたフィンは腰からナイフを抜いてレイスに襲い掛かる。

だが、それを隣にいたサイがおさえる。


「ははは。まあ、別に異論はないだろ?」

「そりゃあないですけど……知らせてくれてもいいんじゃないですか!?」


フィンが冷静になって席に座る。レイスが「ま、ドンマイ」なんて言うからムカッときたフィン。

しかし今度は普通におさえている。ちょっと眉間にしわを寄せている程度だ。


「で、でもレイス様、行くってどこに……?」


その争いを横から見て、先程フィンを慣れた様子で止めたサイが訊いた。

するとレイス、迷わずこう答えた。


「内緒」


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