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大陸の覇者  作者: 熱悟
12/23

第十一章:戦を求め

すぐそこまで敵軍がやってきた。

騎馬兵がおよそ700。黒い鎧を着た兵士たちだ。

既に町には進入され、町の人たちは家のなかに隠れて、グレール兵たちが通り過ぎていくのを

ただ見ているしかなかった。

とうとう城の目の前までやってきた。傭兵団の皆は城の上。先程レイスが立っていたところに伏せて

隠れている。下では交戦が始まった。

漆黒の鎧を深く着込んだ兵が、蒼い鎧で軽装の兵たちを襲う。

グレールの槍が腹に突き刺さり、血がどっと吹き出て倒れる。ライルは不利に見えた。

しかしだんだんおされてきたところで、ライルの反撃が始まった。


「今だ! 放て!」


城の上に隠れていた傭兵団員の弓使いのサイとフィン。その2人を筆頭にして、

後ろの弓隊が一斉に射撃を開始した。


「大将を真っ先に討てと言われてます!!」


サイがフィンに、ベグオンから伝えられた目的を話す。

フィンはこくっと頷き、もう一度弓を引き、射る。背後からも沢山の矢が連続で飛んでくる。


「ええ、わかったわ。でも大将が誰だか……」


フィンが言いかけたとき、目端にひとりの男が映った。

豪華な黒馬にまたがり、淵が金色で、しかも大きく他のよりも硬そうな鎧を着ている。

しかも周りには馬車やら護衛やら。きっとその男が大将であると、フィンは確信する。


そのとき、大将と見える男がくるっとそっちを振り向き、自分も弓を取り出した。

血の舞う戦場で、優雅に弓を構えフィンを狙った。あっちもきっと、フィンが弓隊長であることに

気づいたのだろう。


しまった!


フィンがそれに気づき、身を隠そうとしたとき。もう大将は弓を引こうとしていた。

しかしフィンは、いろんな武器が。矢の入った袋や、弓隊の足なんかが邪魔して、上手く伏せられない。

死ぬ! そう思って背筋が凍りついたときだった。


「オラオラオラオラオラァ! なにやってんだよ大将さん!!」


ジェイクだ。短刀を2本持って戦場を駆け抜け、沢山のグレール兵を蹴り、殴り、斬り、

もう大将のもとまでたどり着いた。


「ちぃっ!」


大将も弓を落とし、剣で応戦。しかしジェイクは、普段見せない気性の荒さで連撃をかける。

その素早く、力強い攻撃と、なにより気迫におされ、対象はあっという間に地にひれ伏した。


「ぐあっ!」

「おいおい、弱すぎねぇか?」


よくやったと一息つくフィンのことは、多分気づいてないだろう。幸運だった。

だがジェイクがとどめを刺そうとしたとき、全部殺したと思っていた周りのグレール兵が襲い掛かって

きた。ジェイクは瞬時にそれに気づき、全部に応戦。次々になぎ倒してゆく。

きっともう、ジェイクだけで50人は殺しているだろう。

そこで油断し、立ち上がってジェイクの背後を狙う大将をサイが狙った。

弓に射られ、大将はあっけなく愛馬の隣に倒れた。もう死んでいる。


「やった! やりましたよフィンさん!!」

「はいはい、わかったから……」


大将を倒したと思ってハリキルサイを、フィンは軽くあしらい攻撃を続ける。

だが奴は、700の兵のうち300人で構成された一部隊の隊長であっただけで、全軍の指揮官ではなかった。

その部隊の指揮は消え、乱れたが、あとの部隊はむしろ士気が上がってきている。そんな矢先だ。


「はっ!」


ハロンだ。一騎で敵陣に突っ込み、自慢の薙刀で沢山の敵を斬り、駆ける。

ジェイクのいた方とは間逆の方向で、どんどん拠点のライル城から離れていく。


「ハロン! 出すぎだ、退け!」


遥か遠くから、ケイトが声をかける。血だけではなく、兵の気合、悲鳴、斬られた音。

それらの騒音が飛び交う戦場で、そんな声聞こえないはずだ。だが、なぜかハロンには聞こえた。


「あ、わかった!」


ハロンは素直にケイトのもとへ戻る。その道中も、薙刀で周りの敵兵を蹴散らしながらだ。

この調子なら、そのままあそこにいても大丈夫だったのではないかと思うほどの勇猛ぶりだ。

しかも長時間暴れているのに、息が切れてすらいない。新米ではあるが、恐ろしい騎士だと、敵兵たちは

ゾッとする。


「行くぞ!」


ハロンが戻ってきたところで、ケイトは大剣の勢いを更に強める。

ハロンと2人で、互いに背中を任せている。だがしかし、互いに武器が当たってしまうことはない。

大きく武器を振り回し、摩擦で火でもおこりそうな勢い。風圧も凄く、とても近づけない。

それでも恐れを知らない兵たちは向かっていく。それらを全てなぎ倒し、ついにその周辺から敵は消えた。

2人は一瞬武器を止めるが、目端にその部隊の隊長らしき人物をとらえた。ひとり怯えて立ち、

剣を構えて震えている。だが同情などしない。


「つああっ!」


2人が同時に斬りつけ、その部隊も壊滅。2人はとりあえず安心だが、どこから矢が飛んでくるかも

わからない。すぐにハロンの馬に2人ともまたがり、鞭を入れて城の方へ引き返した。

そこならグレール兵も多く、容易に矢など射れまいと。そう思った。といっても、どちらかと言うと

ひとりでも多くの敵を倒すために向かったのだが。


今もう、ライルが圧倒的に有利になっていた。最初サイが隊長を射り、ジェイクで100人近く殺した

部隊にはあとからハロンとケイトが加勢。あっという間に全滅。

その前にハロンとケイトで潰した部隊は人数100人の小部隊。これで合計すでに400以上の兵を殺して

いる。たった5人の傭兵と、わずかの弓兵だけでだ。それに比べ、ライルの勢いにおされてほとんど

反撃できないグレール。ライルの損害は少ない。


だが、敵にも策がないわけがなかった。


「あ! 大変です、城が燃えてます!!」


レイスが城の中で椅子に座りながら、勝利を確信して酒を口にしていたところだ。

城内見張りの兵が大声を出した。


「ああ、そう」


レイスは冷静に酒をまた口に含む。「ああ、そうって……」と兵は言いかけるが、レイスの口元が

軽く笑っているのに気づく。なにかある。この人のことだ。そう思って兵はおじぎをし、さがった。

レイスの人望はこんな風に培われていたりする。皆から尊敬されている。


見張り兵の言うとおり、城の裏口付近が燃えて、敵の兵が押し寄せている。きっと、

グレールの一部隊が、700の軍隊の起こした騒ぎに乗じて兵のいない裏から火計を試みたのだろう。

だがこのライル城の者達の前には、そんな計略は無駄。


「サナ、どうぞ」


裏口側の城内から、ベグオンが大きな声でサナに合図した。城の上で待機していたサナは、「了解」

と言って両手を空に掲げた。


するとどうだろう。もともと夜で、暗かった空に更に雨雲が現れ、滝のように雨が降った。

すぐに火は消え、ビックリしているグレール兵たちが空を見ていると、火の消えた裏口から沢山の

ライル兵が突進してきた。


「うわあっ!」

「なに……」


グレールの小部隊の声は虚しく消え、雨の中ライル騎士団に斬られていった。

実はレイス。あらかじめ相手の裏口の攻撃を読んでいて、ベグオン、サナ、バリス、グルイド、そして

騎士団本体は裏口に向かわせておいた。雨が降ったのは、サナの『特殊魔法』の仕業だ。

だが軍師のいないライルならまだしも、軍事国のグレールが何故こんな単純すぎる策を使ったのか。

それは、ライルには軍師がいると、日頃から思わせておいたのだ。とても頭のいい軍師が。

どうやって思い込ませていたかは秘密である。とにかく、レイスは事実上頭がいいので、敵国の心理を

上手く操って単純な策にするようにした。日頃の行いがものを言った。


「うおお! 負けんぞぉ!」


グルイドは前より張り切っている。騎士団の先頭で、新調した剣を振り回し雨の中奮闘している。

お陰で騎士団たちも、どんどん士気が上昇して再び鬨の声をあげ、一気にグレール小部隊を半分まで

減らした。以外な功績だった。


「グルイド、張り切ってんなぁ」


ベグオンはそんなことを呟き、ニヤリと笑う。


「隊長の俺もやらねえとなっ!」


グルイドの覇気は騎士団だけでなく、ベグオンの士気まで上げた。だが、正面の軍よりも多くの増援が

裏口に押し寄せてくる。ここまで裏口にばかり攻撃が集中するのは、レイスにとっても誤算だった。


まあ、それでもこっちが勝つことはわかっている。しかし、レイスはなぜか不服そうな顔をしていた。

このまま終わってはいけない。そんな顔をしていた。




――いいなぁ……


ベッドに座り、窓から裏口の方を高見の見物しているシンだ。自分は負けた。おまけにふてくされて、

戦に出ようともしない。それに比べて同時期に入ったグルイドは、軍の勝敗に大きく貢献しようと

している。シンが深く溜息をついたときだった。


「おおー。新入団員のグルイド、すげーな」


扉の向こうから声が聞こえ、シンははっとしてそっちを見た。扉は開いていない。

外で独り言でも言っているんだろう。もう少し近づいて盗み聞きに集中した。


「こっちのシンも、頑張れば強いんだろうなぁー……」


それを聞いてシンはうつむき、また悩み続けた。


「あいつが戦に出てくれれば勝てるかもな……。でも出なきゃ……」


シンは顔を上げ、扉に耳をくっつけた。


「必要とされてるのになあ」


その一言を言い終えたとき、シンはもう扉を開けていた。

そこには、誰もいなかった。シーンとした廊下に、窓の外から戦の音だけが響く。

シンは辺りを見回し、最後に右を振り向きニヤリと笑った。


「へっ! わかったよ!」


そうわざと大声で言って、シンは体を返し、槍をとって走り出した。

そして部屋から飛び出た。窓から大きく跳び、戦場に落ちた。


「行ってやるよ!!」


シンは完全に復活したように、敵陣の真ん中を独りで暴れまわった。自軍の場所とは、遠く離れた位置に

着地したのだ。


シンの部屋の前の廊下。そこを右に真っ直ぐ、突き当たりをまた右に曲がったところに、

酒の入ったグラスを持った一人の男が壁に寄りかかっていた。


「ようやく行ったかよ」


男はふっと笑みを浮かべ、その場を立ち去った。やる気がないようで、誰より強く計算高い。

そんな意味不明な男・レイスの仕業だった。



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