EpisodeⅢ:ピンチ!
辺りを包囲する、圧倒的数のOSSANたち。
星女が巨大化させた腕でOSSANを蹴散らしてゆく。
結愛が片手でベッドを担ぎながら、もう片手に握った日本刀でOSSANたちを斬り倒していく。
一向に数の減らないOSSANたちに嫌気がさしたのか、結愛は側にいたOSSANを蹴飛ばした。
グルグル回転し、OSSANは頭から建物に突っ込んでゆく。
「クソきりねぇな! 邪魔だバッキャロー!」
「先輩! 後ろからもいっぱい来てるよお」
「わーってらァ。おい、葵!」
「は、はぁい」
「悪ィけど、お前を下ろさなきゃここは突破出来そうにねー。いいか? とにかくあたしらから離れんなよ」
「う、うん」
結愛が、ベッドをひょいと落とした。
「わ、わあっ」
「ほら、こっちこい」
結愛が葵の手を引き、ベッドから引き下ろす。
そして、近くまで迫っていたOSSANたちに向けてベッドを蹴り放った。
「ぎえっ」
ぶっ倒されるOSSANたち。
起き上がってきたOSSANを、真歩が撃ち抜く。
「真歩。金属バット出せるか?」
「うん! ちょっとまってね」
OSSANを蹴り散らかしながら結愛が問う。
真歩がスマホを弄り、金属バットを具現化させる。
金属バットが具現化されると、受け取り、結愛が葵に渡した。
「ほれ。それで殴れ。刀や銃は練習してからだ。あたしらがやられるかもしれないからな。まずはそれで叩きまくれ」
「え、えぇ」
「ごちゃごちゃ言うな! 行くぞ!」
近くのOSSANを蹴り、刀で縦に斬り倒した。
その後ろから、真歩が銃でサポートする。
きょとんとしていた葵は、慌てて我に返り、三人を追いかけた。
「ま、待ってよっ」
巨大化させた腕でOSSANを掻き分けながら星女が先陣をきり、その取りこぼしを結愛、真歩、葵が始末する。
「あ、あの。これどこに向かってるの?」
「あたしらの基地だ。もう少しで見える」
「基地……?」
「そうだよ。すっごい豪邸があるんだ。私が出したんだよ!」
「へえ~!」
「おいぃ、話してる場合か! ほら来たぞ、打っ飛ばせ!」
「私!?」
「そうだ、ほら!」
「て、てりゃあ」
ゴッ。
あまりにも優しい叩き方。
結愛があからさまに不満そうな表情を浮かべ、OSSANをぶん殴った。
数秒遅れてたら、確実に葵はOSSANの餌食になっていた。
結愛が葵のセーラー服の赤いリボンを、ぐいと引いた。
「てーめ。死にてえの? あ?」
「ご、ごめんなさい。バットで人殴った事なんてないし、バットなんて子どもの頃に少し握っただけだから……」
「あぁ? あたしだって人殴った事なんかないわ! 向こうの世界ではな! でもここは違う。生きるための暴力が必要なんだよ! さっさと理解しろ!」
「きゃあ!」
「! 星女!?」
星女が悲鳴をあげる。
見ると、星女の足をOSSANが掴んでいた。
ひび割れた灰色の口でニゴリと笑い、太ももへと手を伸ばす。
「い、いやあ。この……」
「星女! 前!!」
「え」
足元のOSSANに気を取られている間に、星女の前にOSSANが群がっていた。
星女が慌てて攻撃しようとする。
だが、その手を、別のOSSANに掴まれてしまう。
「い、いや! やだあ! 助けて!」
「星女ッッ!」
結愛が、OSSANを引き剥がす。
だが、次々に群がるOSSANにいくら蹴散らしてもキリがない。
次第に距離を詰められ、結愛が腕を掴まれた。
「んの! 離せ!」
腕に掴みかかったOSSANごとぶん投げる。
「せ、先輩……」
「星女! どけこのクソデブ共!」
蹴散らし、引き剥がし、結愛は星女の周りを囲むOSSANたちを引き離してゆく。
だが、星女に気をとられすぎ、結愛自身よ周りをOSSANに囲まれている事に気付けなかった。
「ごふっ」
「うわ!?」
一体のOSSANが、結愛にしがみついた。
灰色の臭いおっさんが、自分に抱きつく恐怖。
女子高生なら尚の事。
「う、うわああ離せ! 離せよ!!」
「先輩! きゃあ」
「た、大変! 先輩、ホッシー!」
「くっ、くるな! お前はそいつを連れて逃げろ!!」
「そ、そんな」
「そんなのだめ!!」
「!? ちょっと!!」
突然、葵がバットを構えて走り出した。
「バッ、何してンだてめえ!!」
「貴女たちを助ける!」
既に沢山のOSSANに囲まれた結愛と星女。
その周りに群がる一体のOSSANの頭目掛け、葵はバットを振るった。
「やああっ」
今度は、さっきよりも強く。
叩かれたOSSANは少しよろめいたが、倒す事は出来なかった。
「馬鹿野郎! 何してんだ逃げろ!!」
「あ、……」
葵の攻撃に気付いたOSSANが振り返る。
その時。
振り返ったOSSANが、他のOSSANの足に躓き、後ろ向きに倒れかけた。
倒れかけたOSSANは別のOSSANに寄り掛かろうとするが、そのままずるずると倒れてゆく。
そのOSSANに気付き、葵にも気付いたOSSANたちが、結愛たちではなく葵の方を向き始めた。
「な、何?」
「おいバカ! 今のうちに逃げろ!」
「そ、そうだよ。早く」
真歩が葵の手を取る。
だが、動こうとしない葵。
葵に目標を変えたOSSANたちだが、奇妙な事が起きていた。
最初の倒れたOSSANに足を取られ、転びかけたOSSANが別のOSSANを巻き添いに、次々に倒れてゆく。
OSSANたちは必死に葵に向かって手を伸ばすが、倒れたOSSANたちに足止めをくらっていた。
次第に結愛たちの元に集まっていたOSSANは葵の方へと移動し始めた。
奇妙な事に、OSSANたちは葵に近寄る事が出来ない。
なぜこの女子高生に近づけないのか?
OSSANたちは次々に葵に迫るが、OSSAN同士体がぶつかり、転び、指一本葵に触れる事が出来ない。
「な、何が起きてるの?」
「分からない……」
「よく分かんねえけど! チャンスだ星女!」
「はあい!」
二人を囲んでいたOSSANたちが減ったのをチャンスに、星女が手を巨大化させた。
「よくも私の身体に抱きついてくれたわねー!」
巨大な掌で、OSSANたちをまとめて叩き飛ばした。
「そん調子だッ」
空かさず結愛が開けた道を走り、葵の元に駆け寄る。
そして、いきなり胸ぐらを掴んだ。
「お前! 何で逃げなかった!!」
「だっ、て……助けてもらってるのに、私だけ逃げるなんて」
「ぐぬ……まあ。気持ちは嬉しい。でも、お前、力もねえのにあんな無茶すんなよ」
「ごめんなさい」
「おう。でも、ありがとな」
葵の頭をぽん、と撫で、結愛は大きく息を吸った。
葵が撫でられた頭を触り、すこし顔を赤らめる。
「よし。てめーら!! ここ切り抜けんぞ!!」
「うん!」
「もち!」
「はあい!」
*
「……へぇ。やるジャン、あいつら」
OSSAN相手に、奮闘する葵たち。
その様子を、離れた所から観察する二人の女子高生。
一人は短髪で、紺のスカートの下にスパッツをはいている。
短髪の女子高生は建物の縁に片足を乗せると、手を額に添え、結愛たちを見据えて口をすぼめた。
「十舞。どする?」
十舞と呼ばれた女子高生は、短髪女子高生の隣に立ち、腕を組み結愛たちを見ていた。
黒髪を靡かせ、静かな目付きで。
「放っておけ」
「えー? OSSANどもに囲まれてる今がチャンスじゃないの?」
「いいや。奴らは見境無く襲ってくる。その中で彼女らと戦うのは厳しいだろう。こうも多勢に無勢ではな」
「ふぅん」
「それにどうやら。他の連中は気付いていないようだが、あの新しく来た女子高生。ただ者ではなさそうだ」
「どういうこと? 何かをしたようには見えないけど」
「そうだ。何かをしたように見えないのに、ゾンビ共が彼女に近寄る前に転んでいった。なぜだ?」
「……やっぱり、今がチャンスじゃないの?」
「いや。もう少し様子を見よう。彼女の力が気になる。じき、光の柱を見た他の連中も集まって来る。余計な争いは無用だ、行くぞ」
「はぁ~い」
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