EpisodeⅡ : 姫瀬 葵
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花柄の布団の上で横になって眠っている、セーラー服の女子高生。
黒くさらさらとした綺麗な髪。
童顔で、小さな鼻に淡いピンク色の唇。
彼女の名は、姫瀬 葵。
すうすうと寝息を立て眠っている彼女には知る由も無いが、葵や、結愛たちのいるこの世界は、かつて一人の女子高生によって滅ぼされた世界である。
つまり、異世界だ。
殺伐とした廃墟、まさに灰色の世界となったこの世界に呼ばれたのが、彼女たち女子高生だ。
それはさておき。
葵を見つけた結愛たちは、酷く戸惑っていた。
「オイイイ! 何で寝てんだこいつ! ていうかベッドごとこっちの世界に来たのか?」
「知らない知らない! それよりも、先輩、ホッシー! 周りに、かなりの数のOSSANが居るよ!?」
「んだと!」
「……あら大変。早いとこ、あの子連れて逃げましょう」
「めんどくせェなッ」
三人は、未だベッドでスヤスヤ眠る葵の元に駆け寄った。
結愛が、ベッドを蹴り飛ばす。
「おいコラお前! 寝てんな起きろ!!」
「ん……ん~」
寝返り。
「こいつ……ていうか、何で布団の上で寝てんだ。布団入れよ」
「きっと、お昼寝中にこっちの世界に来たんじゃないかしら?」
「昼寝中て。あのクソ女神サマ、人選ぶタイミング雑かよ。とにかく……おい、起きろ! おい!」
ゆさゆさと、結愛が葵を揺する。
だが一向に目を覚ます気配がない。
ここで、真歩が声を荒げた。
「二人とも! OSSANが、すぐ近くに来てる!」
「まじか……うおッ! おい、すごい数だぞ!?」
「私に任せて! 二人はその子をお願い」
「悪い、頼む!」
いつの間にか四人の周りに、OSSANたちが溢れかえっていた。
OSSAN――この世界における、女子高生以外の唯一の生命体である。
文字通り、おっさん。
スーツ姿の、ごくごくありふれた中年のおっさんだ。
違うのは、人間ではなく、ゾンビと化した生物であるということ。
肌は灰色で生気が無く、女子高生の血の気を感じ、集まってくるのだ。
おっさんが女子高生を好きなのは、どの世界も同じなのだろう。
星女は周りに集まってきたOSSANたちに向け、右手を振りかざした。
「やあああっ」
巨大化した右手が、OSSANたちに襲いかかる。
「ぐびゅっ」
歪な声を発し、潰れるOSSAN。
星女が右手を引き、今度は左手を突き出した。
巨大な拳に、OSSANたちは一網打尽にされる。
そのまま、裏拳のように拳でOSSANたちを蹴散らしてゆく。
「おいこら! いつまで寝てんだ起きろ!」
必死に戦う星女の背後で、結愛が葵を揺さぶる。
かっくんかっくん揺さぶられながらも、中々起きない葵。
呆れた結愛は葵をベッドに放り投げると、なんと、ベッドを持ち上げた。
「せ、先輩!? そのまま持ってくの!?」
「仕方ねえだろ。それに重くはねーよ。あたしの力なら大したこたねぇ」
「さ、流石…」
ベッド+人間一人を持ち上げる結愛。
彼女は、〝超肉体強化〟という力を持つ。
この世界に連れてこられた女子高生は皆、一人一つずつ、不思議な力を持っている。
星女の力は、〝巨大化〟。
体の好きな部分を自在に大きく出来る。
全身を巨大化させる事も、勿論出来る。
真歩の力は、〝万能スマホ〟。
その能力は、スマホからあらゆるモノを取り出せる、文字通り万能なスマホだ。
ただし、人間だけは呼び出せない。
「真歩、星女! 悪ィけど、援護頼む。コイツを基地まで連れてく!」
「はぁい」
「了解よ~。そんじゃ、」
星女が、近くにあった崩れかけの建物の足を、巨大化させた拳で引っ張った。
ミシミシ、と軋みだした後、建物は手前へと倒れ始める。
「ぎぁッ」
「おおおお」
倒れた建物の下敷きになるOSSANたち。
「これで追っ手は暫く来ないわ〜」
「やるねっ。ホッシー!」
「どうも~」
OSSANたちの足止めをし、二人は結愛を追った。
「オラァ! 邪魔だハゲェェェ!!」
ベッドを片手で持ち上げながら、迫り来るOSSANたちを足で蹴散らしてゆく。
「ぬゥおお」
「だーっ。近寄んなァ!!」
蹴飛ばされたOSSANは、他のOSSANを巻き込んで吹っ飛んでゆく。
「あーあー。先輩、無茶するなぁ」
「私たちも助太刀しましょ」
「うん!」
星女が両手を巨大化させ、結愛の左右に群がるOSSANたちを殴り飛ばした。
「! 星女サンキュ!!」
「い~えっ」
「ひえ~ッ。二人とも、待ってー!」
「! おい真歩、後ろっ!」
「ふえっ」
真歩の背後に、OSSANが一人迫っていた。
「まずい! 星女いけるか!?」
「だめ、近すぎます!」
「くっそ! 仕方ねぇ」
「ちょちょちょ、先輩!?」
「真歩、伏せろ――」
「!!? ひえええっ」
言われた通り伏せる真歩。
結愛が一体何をしようとしてるのかというと、なんと、ベッドをOSSANにぶつけようとしていたのだ。
ベッドの端を右手で持ち、左手は真ん中下を抑える。
「くたばれクソがああツッ」
ビュオン。
あり得ない速さで、ベッドがOSSANに向かって突っ込んでゆく。
真歩はできるだけ頭を抑えて小さく屈み、ベッドは真步の頭上を通過し、OSSANにぶちあたった。
「しゃあ!」
喜びも束の間。
投げた力が強すぎたのか、なんとベッドはOSSANを蹴散らしたのち、そのまま飛んでいく飛距離を伸ばした。
やがて着地すると、そこはOSSANの群れる場所だった。
OSSANたちは飛んできたベッドに怯えるも、葵の姿を確認するなり、群がり始めた。
「ああっ!?」
「先輩! ベッドとベッドの上の子、OSSANに包囲されてますわ!」
「やべーな! つーか、あいつ無事だったのか!」
「投げた本人が何言ってるんですか~!」
「るっせ、結果オーライだ! ……真歩ッ! おい、生きてっか!?」
二人が真歩に駆け寄る。
頭を覆ったまま、真歩が顔をあげる。
既に半泣きだ。
「は、はいぃ……っ」
「刀と拳銃を出せ!」
「う、うん」
「銃はお前が使え! くれぐれもあたしと星女は撃つなよッ」
真歩がスマホを操作し、画面を地面に向ける。
すると、まるで3Dプリンターの様に立体的に刀と拳銃が形取り始め、数秒で日本刀と拳銃が出来上がった。
と同時に結愛が日本刀を手に取り、星女と共に葵の元へと向かう。
「おうおうおう! てめーんらの相手ァあたしらだ!! かかってきなぁ!」
「ふごっ」
「うらあっ」
肉厚のOSSANを、結愛が縦に真っ二つにする。
圧倒的怪力によって、次々豆腐のように斬り刻まれてゆくOSSANたち。
「はいはいどいてねー!」
星女が、巨大化した手でOSSANたちを掴んでは放り投げる。
その放り投げられたOSSANを、空中を舞う内に正確に撃ち抜きヘッドショットをキメる真歩。
「今日もいい感じッ」
「真歩! 調子乗って、あたしらにヘッドショット決めんなよな!」
「大丈夫っ。真步の腕を信用して!」
笑みを浮かべ、OSSANを斬る結愛。
その背後に迫ったOSSANを、正確に撃ち抜く真歩。
命中率は抜群だ。
「大分追っ払ったな。……ていうか、いい加減起きろてめーは!」
布団を引っぺがす結愛。
葵は布団を引き抜かれ、うぅん……とうなる。
「んー……なぁ、にぃ……」
「お? 起きたか眠り姫さんよ」
ごしごしと目を擦る葵。
そして、視界に入った不細工な灰色のおっさん顔に、表情を強張らせる。
「ひぇ」
「あ?」
「ひあああああ!! なっ。何!? 何!!??」
「うっせーぞ!!!」
「ひぃあ! ごめんなさい!? え?! 刀!? 待って何であの子は腕がでかいの!? 何!!?」
「うるせえうるせえ! 元気すぎかよ、草生えるわ。星女、真歩! 少しの間援護頼む!!」
「はぁい」
「了解」
「ふわあ!? あの子銃持っぶべあっ」
ばちん。
結愛が、葵の両頬をはたいた。
「落ち着け。とりあえず今はピンチなんだ。手短に言うぞ、頭の準備はいいか?」
「ひぁい」
頰を抑えられたまま返事をする。
結愛は日本刀を構えると、葵の真横から一突きした。
背後から迫っていたOSSANを貫いたのだ。
「ひっ」
「この灰色のデブどもは、OSSANだ。まあ、おっさんだな。問題は、ゾンビ化してる」
「ゾンビ!? 私食べても美味しくないよ!?」
「知らねえよッ! でもあれだ、こいつらがあたしらを食べるのは意味深の方だ。捕まるとナニされっか分からねぇ。兎に角気を付けろ」
「何それ何それ何それッッ!」
「うっせ!」
「ぴ」
ゴス、と頭を殴られる葵。
「いいか、ここはあたしらが元居た世界とは違う。この世界にいるのは、あたしら女子高生とOSSANだけだ」
「そ、そんな。私、異世界デビューなの?」
「そうだな。悪ぃが今説明してる暇はねぇ。てめーに求めるのは二つだ。まず一つ。お前、名前は?」
「あ、葵。姫瀬 葵です……」
「おう、葵。んじゃ二つ目だ。お前が女神サマに求めた力は何だ?」
「……へ?」
きょとんとする葵。
結愛は金髪を掻き毟り、ん――と唸った。
「お前、目が醒めるまでに暗闇の中に居なかったか?」
「いた。いたよ」
「よし。そんとき、白い光に会ったろ。喋る光」
「会った!」
「おけ。そいつが女神サマだ。そいつにお前、力が欲しいかとか言われなかったか?」
「言われた! いらないって答えたよ」
「おう。んじゃ、お前が求めた力……あ!!?」
「ひっ。な、何?」
口を開けたままぽかんとする結愛。
「おま、いらないっつったのか?」
「う、うん。……あ。そういえば、その白い光……女神サマ? に、世界を救ってくれと頼まれたよ」
「は!!?」
「ひっ。ま、また何か問題……」
おいおい、世界頼むなんてあたしら言われてねーぜ……と、独り言を言いながら、結愛は腕を組む。
「っし。仕方ない、多分今問い出しても埒あかねえ。とりあえず逃げんぞ。真步、星女! 行くぞ!」
「ちょちょちょ! な、何して」
「動くなよ、落ちんぞ」
「うわあ!?」
ベッドの足を掴み、葵ごとベッドを持ち上げる結愛。
もう片手で日本刀を使い、OSSANを斬り進めてゆく。
「うわああ!? ちょ、下ろしてえ!」
「やかましいッ。死にたくなければ静かにしてろ。真歩は後ろ、星女は前を頼むぜ!」
「はあい」
「お任せ!」
気が付けば、辺りは大量のOSSANに囲まれてしまっていた。
ゆうに一◯◯を超えるOSSANの数に、結愛はぺろりと唇を舐め、歯をぎらつかせ笑った。
「ッしゃあ!! 行くぜてめぇらァァァ!!」
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