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EpisodeⅡ : 姫瀬 葵

5/31 修正しました

 花柄の布団の上で横になって眠っている、セーラー服の女子高生。

 黒くさらさらとした綺麗な髪。

 童顔で、小さな鼻に淡いピンク色の唇。


 彼女の名は、姫瀬 葵。

 すうすうと寝息を立て眠っている彼女には知る由も無いが、葵や、結愛たちのいるこの世界は、かつて一人の女子高生によって滅ぼされた世界である。

 つまり、異世界だ。

 殺伐とした廃墟、まさに灰色の世界となったこの世界に呼ばれたのが、彼女たち女子高生だ。

 それはさておき。

 葵を見つけた結愛たちは、酷く戸惑っていた。


「オイイイ! 何で寝てんだこいつ! ていうかベッドごとこっちの世界に来たのか?」

「知らない知らない! それよりも、先輩、ホッシー! 周りに、かなりの数のOSSANが居るよ!?」

「んだと!」

「……あら大変。早いとこ、あの子連れて逃げましょう」

「めんどくせェなッ」


 三人は、未だベッドでスヤスヤ眠る葵の元に駆け寄った。

 結愛が、ベッドを蹴り飛ばす。


「おいコラお前! 寝てんな起きろ!!」

「ん……ん~」


 寝返り。


「こいつ……ていうか、何で布団の上で寝てんだ。布団入れよ」

「きっと、お昼寝中にこっちの世界に来たんじゃないかしら?」

「昼寝中て。あのクソ女神サマ(・・・・)、人選ぶタイミング雑かよ。とにかく……おい、起きろ! おい!」


 ゆさゆさと、結愛が葵を揺する。

 だが一向に目を覚ます気配がない。

 ここで、真歩が声を荒げた。


「二人とも! OSSANが、すぐ近くに来てる!」

「まじか……うおッ! おい、すごい数だぞ!?」

「私に任せて! 二人はその子をお願い」

「悪い、頼む!」


 いつの間にか四人の周りに、OSSANたちが溢れかえっていた。

 OSSAN――この世界における、女子高生以外の唯一の生命体である。

 文字通り、おっさん。

 スーツ姿の、ごくごくありふれた中年のおっさんだ。

 違うのは、人間ではなく、ゾンビと化した生物であるということ。

 肌は灰色で生気が無く、女子高生の血の気を感じ、集まってくるのだ。

 おっさんが女子高生を好きなのは、どの世界も同じなのだろう。

 星女は周りに集まってきたOSSANたちに向け、右手を振りかざした。


「やあああっ」


 巨大化した右手が、OSSANたちに襲いかかる。


「ぐびゅっ」


 歪な声を発し、潰れるOSSAN。

 星女が右手を引き、今度は左手を突き出した。

 巨大な拳に、OSSANたちは一網打尽にされる。

 そのまま、裏拳のように拳でOSSANたちを蹴散らしてゆく。


「おいこら! いつまで寝てんだ起きろ!」


 必死に戦う星女の背後で、結愛が葵を揺さぶる。

 かっくんかっくん揺さぶられながらも、中々起きない葵。

 呆れた結愛は葵をベッドに放り投げると、なんと、ベッドを持ち上げた。


「せ、先輩!? そのまま持ってくの!?」

「仕方ねえだろ。それに重くはねーよ。あたしの力なら大したこたねぇ」

「さ、流石…」


 ベッド+人間一人を持ち上げる結愛。

 彼女は、〝超肉体強化(ハイパワー)〟という力を持つ。

 この世界に連れてこられた女子高生は皆、一人一つずつ、不思議な力を持っている。

 星女の力は、〝巨大化(ビックボディ)〟。

 体の好きな部分を自在に大きく出来る。

 全身を巨大化させる事も、勿論出来る。

 真歩の力は、〝万能スマホ〟。

 その能力は、スマホからあらゆるモノを取り出せる、文字通り万能なスマホだ。

 ただし、人間だけは呼び出せない。


「真歩、星女! 悪ィけど、援護頼む。コイツを基地まで連れてく!」

「はぁい」

「了解よ~。そんじゃ、」


 星女が、近くにあった崩れかけの建物の足を、巨大化させた拳で引っ張った。

 ミシミシ、と軋みだした後、建物は手前へと倒れ始める。


「ぎぁッ」

「おおおお」


 倒れた建物の下敷きになるOSSANたち。


「これで追っ手は暫く来ないわ〜」

「やるねっ。ホッシー!」

「どうも~」


 OSSANたちの足止めをし、二人は結愛を追った。


「オラァ! 邪魔だハゲェェェ!!」


 ベッドを片手で持ち上げながら、迫り来るOSSANたちを足で蹴散らしてゆく。


「ぬゥおお」

「だーっ。近寄んなァ!!」


 蹴飛ばされたOSSANは、他のOSSANを巻き込んで吹っ飛んでゆく。


「あーあー。先輩、無茶するなぁ」

「私たちも助太刀しましょ」

「うん!」


 星女が両手を巨大化させ、結愛の左右に群がるOSSANたちを殴り飛ばした。


「! 星女サンキュ!!」

「い~えっ」

「ひえ~ッ。二人とも、待ってー!」

「! おい真歩、後ろっ!」

「ふえっ」


 真歩の背後に、OSSANが一人迫っていた。


「まずい! 星女いけるか!?」

「だめ、近すぎます!」

「くっそ! 仕方ねぇ」

「ちょちょちょ、先輩!?」

「真歩、伏せろ――」

「!!? ひえええっ」


 言われた通り伏せる真歩。

 結愛が一体何をしようとしてるのかというと、なんと、ベッドをOSSANにぶつけようとしていたのだ。

 ベッドの端を右手で持ち、左手は真ん中下を抑える。


「くたばれクソがああツッ」


 ビュオン。

 あり得ない速さで、ベッドがOSSANに向かって突っ込んでゆく。

 真歩はできるだけ頭を抑えて小さく屈み、ベッドは真步の頭上を通過し、OSSANにぶちあたった。


「しゃあ!」


 喜びも束の間。

 投げた力が強すぎたのか、なんとベッドはOSSANを蹴散らしたのち、そのまま飛んでいく飛距離を伸ばした。

 やがて着地すると、そこはOSSANの群れる場所だった。

 OSSANたちは飛んできたベッドに怯えるも、葵の姿を確認するなり、群がり始めた。


「ああっ!?」

「先輩! ベッドとベッドの上の子、OSSANに包囲されてますわ!」

「やべーな! つーか、あいつ無事だったのか!」

「投げた本人が何言ってるんですか~!」

「るっせ、結果オーライだ! ……真歩ッ! おい、生きてっか!?」


 二人が真歩に駆け寄る。

 頭を覆ったまま、真歩が顔をあげる。

 既に半泣きだ。


「は、はいぃ……っ」

「刀と拳銃を出せ!」

「う、うん」

「銃はお前が使え! くれぐれもあたしと星女は撃つなよッ」


 真歩がスマホを操作し、画面を地面に向ける。

 すると、まるで3Dプリンターの様に立体的に刀と拳銃が形取り始め、数秒で日本刀と拳銃が出来上がった。

 と同時に結愛が日本刀を手に取り、星女と共に葵の元へと向かう。


「おうおうおう! てめーんらの相手ァあたしらだ!! かかってきなぁ!」

「ふごっ」

「うらあっ」


 肉厚のOSSANを、結愛が縦に真っ二つにする。

 圧倒的怪力によって、次々豆腐のように斬り刻まれてゆくOSSANたち。


「はいはいどいてねー!」


 星女が、巨大化した手でOSSANたちを掴んでは放り投げる。

 その放り投げられたOSSANを、空中を舞う内に正確に撃ち抜きヘッドショットをキメる真歩。


「今日もいい感じッ」

「真歩! 調子乗って、あたしらにヘッドショット決めんなよな!」

「大丈夫っ。真步の腕を信用して!」


 笑みを浮かべ、OSSANを斬る結愛。

 その背後に迫ったOSSANを、正確に撃ち抜く真歩。

 命中率は抜群だ。


「大分追っ払ったな。……ていうか、いい加減起きろてめーは!」


 布団を引っぺがす結愛。

 葵は布団を引き抜かれ、うぅん……とうなる。


「んー……なぁ、にぃ……」

「お? 起きたか眠り姫さんよ」

 

 ごしごしと目を擦る葵。

 そして、視界に入った不細工な灰色のおっさん顔に、表情を強張らせる。


「ひぇ」

「あ?」

「ひあああああ!! なっ。何!? 何!!??」

「うっせーぞ!!!」

「ひぃあ! ごめんなさい!? え?! 刀!? 待って何であの子は腕がでかいの!? 何!!?」

「うるせえうるせえ! 元気すぎかよ、草生えるわ。星女、真歩! 少しの間援護頼む!!」

「はぁい」

「了解」

「ふわあ!? あの子銃持っぶべあっ」


 ばちん。

 結愛が、葵の両頬をはたいた。


「落ち着け。とりあえず今はピンチなんだ。手短に言うぞ、頭の準備はいいか?」

「ひぁい」


 頰を抑えられたまま返事をする。

 結愛は日本刀を構えると、葵の真横から一突きした。

 背後から迫っていたOSSANを貫いたのだ。


「ひっ」

「この灰色のデブどもは、OSSANだ。まあ、おっさんだな。問題は、ゾンビ化してる」

「ゾンビ!? 私食べても美味しくないよ!?」

「知らねえよッ! でもあれだ、こいつらがあたしらを食べるのは意味深の方だ。捕まるとナニされっか分からねぇ。兎に角気を付けろ」

「何それ何それ何それッッ!」

「うっせ!」

「ぴ」


 ゴス、と頭を殴られる葵。


「いいか、ここはあたしらが元居た世界とは違う。この世界にいるのは、あたしら女子高生とOSSANだけだ」

「そ、そんな。私、異世界デビューなの?」

「そうだな。悪ぃが今説明してる暇はねぇ。てめーに求めるのは二つだ。まず一つ。お前、名前は?」

「あ、葵。姫瀬 葵です……」

「おう、葵。んじゃ二つ目だ。お前が女神サマに求めた力は何だ?」

「……へ?」


 きょとんとする葵。

 結愛は金髪を掻き毟り、ん――と唸った。


「お前、目が醒めるまでに暗闇の中に居なかったか?」

「いた。いたよ」

「よし。そんとき、白い光に会ったろ。喋る光」

「会った!」

「おけ。そいつが女神サマだ。そいつにお前、力が欲しいかとか言われなかったか?」

「言われた! いらないって答えたよ」

「おう。んじゃ、お前が求めた力……あ!!?」

「ひっ。な、何?」


 口を開けたままぽかんとする結愛。


「おま、いらないっつったのか?」

「う、うん。……あ。そういえば、その白い光……女神サマ? に、世界を救ってくれと頼まれたよ」

「は!!?」

「ひっ。ま、また何か問題……」


 おいおい、世界頼むなんてあたしら言われてねーぜ……と、独り言を言いながら、結愛は腕を組む。


「っし。仕方ない、多分今問い出しても埒あかねえ。とりあえず逃げんぞ。真步、星女! 行くぞ!」

「ちょちょちょ! な、何して」

「動くなよ、落ちんぞ」

「うわあ!?」


 ベッドの足を掴み、葵ごとベッドを持ち上げる結愛。

 もう片手で日本刀を使い、OSSANを斬り進めてゆく。


「うわああ!? ちょ、下ろしてえ!」

「やかましいッ。死にたくなければ静かにしてろ。真歩は後ろ、星女は前を頼むぜ!」

「はあい」

「お任せ!」


 気が付けば、辺りは大量のOSSANに囲まれてしまっていた。

 ゆうに一◯◯を超えるOSSANの数に、結愛はぺろりと唇を舐め、歯をぎらつかせ笑った。


「ッしゃあ!! 行くぜてめぇらァァァ!!」



読んでいただきありがとうございます!

次も頑張るのです。

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