EpisodeⅠ : 女子高生たち
暗い闇の中。
ここはどこだろう?
真っ暗なのに、私の体はきちんと見える。
不思議……。
「ふぁ」
突然。
私の目の前に、ぼうっと光る白い光が現れた。
綺麗な光。
一体何だろう?
「汝、力が欲しいか……」
光が喋った。
不思議。
どうなっているのかな?
光の質問は、よく分からないけど……。
「いらないです」
とりあえず答える。
力なんて要らない。
とりあえず、私は帰りたい。
「ならば力を授け……」
「え?」
光が奇妙な反応をした。
え? って。
え? じゃないよ。
元の世界に帰して欲しい。
「力が……欲しくないのか?」
「いらないよ。そんなの。それより私を元の世界に帰して。課題やらなきゃいけないの」
「か、課題?」
「そうだよ。早くして」
「い、いや……わたしは、お前に世界を救って欲しいんだ。そのために、力を」
「何いってるの? 世界を救うなんて……いや、そもそも光と話してる時点で私もおかしいかな」
「お、おまえの世界とこの空間は時間が別だ。ちゃんと元の世界に帰す。だからまず、私の話を聞いてくれないか……」
「? なんだかよく分からないけど、早くしてね。それと、私の名前は〝お前〟じゃないよ」
「私の名前は葵。姫瀬 葵だよ」
*
「うおおおおおッ」
金髪を靡かせ、ワイシャツとスカート姿の女子高生が雄叫びを上げながら走る。
その走る先には、灰色の肌をした、スーツを着た太ましいサラリーマンがいた。
一言で表すなら、中年ハゲ。
その中年ハゲに向かって、金髪の女子高生が走り、特攻していく。
「おらああ! くッたばれハゲがああ!」
大分汚い罵声を叫びながら、金髪の女子高生が中年ハゲの顔面に拳を叩き込む。
「ふごッ」
豚みたいな声を発し、灰色の中年ハゲは吃驚するほどの勢いで吹っ飛ばされた。
ぼろぼろの壁に突っ込み、崩れた壁の下敷きになる。
金髪の女子高生は、腰の横でワイシャツを結び直し、黒いスカートをパンパンと叩く。
「ッたく、ざけんなクソデブが。……おい真步! マホー!」
「はいはい。聞こえてるよぉ。先輩!」
「本当にこんなとこにいんのか? 呼ばれた奴が」
金髪の女子高生、――冨綾 結愛が、ぼさぼさの金髪を掻き上げる。
そして、少し離れた後ろを歩く女子高生、寿 真步を呼んだ。
ミルクティ色のカーディガンに、濃い茶色のスカート。
ピンクと白の縞しまニーソを穿いたその女子高生は、ツインテールの片方をくるんくるんしながらもう片手でスマホをいじりながら結愛の問いに答えた。
「間違いないよ。私、光見たもん! あれはこっちの世界に人が飛ばされた時に出る光だよっ」
「まッじかよ」
「場所はこの辺で合ってる。ほら、私のグールルマップにも出てるよ」
「あ? おい、グールルマップはこんな世界でも使えんのか? 天才かよ」
真步が、スマホ画面を結愛に見せる。
赤いピンが打たれた場所の近くに、黄色い点が三つ映っている。
「おい、この黄色いんがあたしらか?」
「そだよー。……あれ? ホッシーは?」
「ん? 星女? あ? おい、星女ェ!」
「は~ぁい。いますよぉ」
ゆる~い声で返事をする少女。
少し離れたところから、とてとてと走ってくるブレザー姿の女子高生。
ふわふわの茶髪が、リズミカルに揺れる。
彼女が、星女。
居乃 星女。
「星女! なんか見つかったかよ?」
「う~うん。何もぉ……あっ! 先輩、真步ちゃん、伏せて~!」
「は? ……っ!? 真步!」
「んえっ」
結愛が僅かな気配を背後に感じ、真步のツインテールを引っ張り、同時に屈む。
すると、その後ろに、先程と同じ、灰色の肌をした太めのサラリーマンが二匹、佇んでいた。
それを見た星女が、ぺろりと唇を舐め、楽しそうに笑う。
「いっくわよー!」
星女が右腕を構える。
すると、右腕がぼんっと巨大化し、車に匹敵する大きさの、巨大な拳に膨れ上がる。
突然の変化に、二匹の中年はぎょっとした。
「でぇりゃああああっ」
巨大な拳は結愛と真步の頭上を通過し、灰色の中年たちにぶちあたった。
巨大なパンチは中年を押し、壁にめり込み、古い建築物ごと粉砕した。
大量に舞い上がる砂埃をかきわけ、結愛と真步が姿を現す。
「ばっ、てめーこら星女ェ!! あたしらまで潰す気か!」
「ごめんなさぁい。でも、OSSANは倒しましたよ~」
ぱちん、とウィンクをする星女。
星女の巨大化していた腕は、萎むように小さくなり、元の大きさに戻った。
「もー。痛いよ先輩……ツインテ取れちゃう」
「おーおー。悪かったよ」
「ホッシーたら。も少し気を付けてよ。スマホ壊れたらどうす……ん? あ、あれ!? 二人とも!!」
「あ?」
「ん~?」
星女が壁ごと破壊し、開けた視界。
真步が、まだ砂埃舞うその先を指差す。
そこには。
「あ? おい、あれ……」
「……ベッドだね。しかも、誰か寝てる」
「おいおいおい真步。まさか……あれか?」
「う、うぅん。多分?」
真步がスマホをいじる。
スマホには、間違いなく目的地の赤いピンが、黄色い三つの点の先に立っていた。
三人の前に現れたのは、可愛い木のベッドだった。
そして。
そのベッドの上で眠る、セーラー服姿の一人の女子高生。
……姫瀬 葵だ。