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Episode3-3 デート疑惑

 ジークとアリスフィーナが二人並んで学園から出ていく様子を、こっそり建物の陰に隠れて窺う二つの人影があった。

 フリジット・グレイヴィアとアルテミシア・ド・シュレッサーである。

「……あの二人、学園の外でなにをするつもり?」

「デート、ではありませんか?」

 年頃の男女が二人っきりで出かけるとなれば……なるほど、まずそう考えるのが妥当だろう。楽しく談笑している姿はとても仲が良さそうなカップルだ(二人にはそう見える)。

 フリジットは感情の薄い表情に僅かに不満の色を示し、アルテミシアは好奇心が高ぶったように翡翠色の瞳を輝かせた。

「……アリスフィーナ・フランヴェリエ、ずるい」

「後をつけましょう、フリジット様」

「……会長、学生会の仕事は?」

「今日はもう終わっていますわ♪」

 二人は頷き合うと、見失わないように一定の距離を保ちながら彼らの後を追った。


        †


 ――尾行けられてるな。

 学園の正門を出た瞬間にジークは背後からこそこそ追って来る気配に気づいた。それがフリジットとアルテミシアだということは軽く後ろに視線をやって確認している。

 それにしても昨日からやたらと尾行される。だいたいフリジットが中心なのだが……グレイヴィア家のお嬢様は尾行が趣味なのだろうか?

「ねえ、街外れって言ってたけど、どこに行くのよ?」

 アリスフィーナは気づいていない。あの二人がなにを思ってジークたちを尾行しているのかは知らないが……気づかないフリをしていた方が面白そうだ。

「その前に中央工房に寄る。昨日発注しておいた真銀ミスリルの用意ができたらしいからな」

「昨日の今日でもう? ちょっと早過ぎない?」

「あそこの工房長とは知り合いでな。融通を聞かせてもらった」

 元々は父親の知り合いだったが、ジークも面識はあった。フリーの凄腕魔巧技師という噂も耳に入っていたらしく、部屋を貸し出す代わりに仕事を手伝うという条件で三日間滞在させてもらっていた。

「ふぅん、つまりそのミスリルで竜装を作るってことね」

「ま、そういうことだが、あんまり外でその話はするなよ」

「わ、わかってるわよ!」

 ハッとしたアリスフィーナは今思い出したとでも言わんばかりの反応だった。緑の始祖竜を襲った連中がどこに潜んでいるかわからない。今回の竜装製作のことは一部の協力者以外には秘密にしておく必要があるのだ。

「どうだい、そこのカップルのお二人さん。ちょっと見て行かないかい?」

 と、道の脇から快活な声がかけられた。中央工房へは露店街を通ると近道なのだが、こうやって頻繁に売り子に呼び止められるから鬱陶しくはある。

 こういう客引きはスルー安定のジークだったが――

「か、かかカップルって、わ、わたしたちのこと!?」

 今日は引っかかりやすい相棒がいるのだった。

 獲物が釣れたことに露店の男は一瞬だけニヤリと笑い、すぐに営業スマイルに切り替える。

「おう、お嬢ちゃんたち以外に誰がいるってんだ? お似合いのカップルに一つお揃いのアクセなんてどうだい?」

「お似合い!?」

「おい、行くぞ」

 かぁあああああっ、と顔を上気させるアリスフィーナに呆れ顔のジークは先を促した。

「そんなこと言わず見てってくれよ兄ちゃん。お嬢ちゃんは学園の魔道師だろう? 火属性が得意だったりするんじゃねえか?」

「そ、そうよ。よくわかったわね」

「髪も目も燃えるように真っ赤だからなぁ」

 そんなことで判断できるわけがない。没落しても六大貴族だ。『あのフランヴェリエ家の娘が学園に入学している』という情報は街中に知れ渡っているだろう。赤の始祖竜の加護を受けていたフランヴェリエ家が赤髪赤眼の炎使いであることは有名だ。

「そこでだ、ここにガーネットの指輪なんて代物がある。ガーネットが火属性の魔道術の効果を上げることは学生さんなら知ってるよな? こいつは宝錬都市ボーマルシェ産の高級品だが、今ならたったの五千エルでどうだ!」

「安い! それに言うだけあって綺麗ね。お金ないけど」

 アリスフィーナは見せつけられたガーネットの指輪を見て瞳を輝かせた。無論、男はフランヴェリエ家が貧乏貴族であることは知っているようで、アリスフィーナの興味を引いた後に矛先をジークへと向ける。

「どうだい兄ちゃん、彼女さんにプレゼントしたら喜ぶぜ?」

「彼女!?」

「いや、残念ながら彼女じゃないんだ」

 ジークはさらりと否定する。アリスフィーナは「ざ、残念なの……?」となにやら顔を真っ赤にしたままよくわからない表情をしていた。

 それでもまだ喰らいつて来る気配の商人がなにか言う前に、ジークは機先を制することにした。

「あとそんなただのガラス製品など不要だ。詐欺るなら相手を間違えたな」

「え?」

 アリスフィーナがポカンとする。商人の男は営業スマイルを崩して動揺した顔を見せた。

「本物のガーネットなら輝きが違う。魔力を帯びた深く濃い赤色だ。そんな無駄にキラキラしてないんだよ」

「いや、それはボーマルシェ産の高級品だからで……」

「だったら尚更だ。魔力資源の宝石が()()()()()()()()なんてたとえ本物でも粗悪品だろ」

 宝石も含めた数々の魔力資源を見てきたジークは騙されない。そもそも魔道師のくせに魔力を感知できなかったアリスフィーナもどうかと思うが、この商人は全てわかった上で嘘を吐いている。

「……チッ」

 舌打ちして顔を背ける商人の男が反論して来ないことを確認し、ジークはもう一度アリスフィーナを促した。

「行くぞ」

「う、うん……」

 今度はアリスフィーナも大人しくついてくる。

「アリスお嬢様はもう少し人を疑えよ。たぶんあの剣の時も竜装と勘違いしたことを利用されたんじゃないか?」

「~~~~~~っ」

 言い返すことができなかったアリスフィーナは、恥ずかしさで赤く染まった顔を見られないように俯かせていた。


        †


 そんなジークたちの後方。

 フリジットとアルテミシアは今の遣り取りをしっかり眺めていた。

「……ショッピングしてる。やっぱりデート?」

「とりあえず、あの店は詐欺を働いていますわね。通報しておきますわ」

 後日、露店街からあの商人の店が消えていたことは語るまでもない。



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