表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/26

Episode0-1 プロローグ

 炎は赤く。煙は黒く。

 まるで生き物のように広がり続ける二色が、ランベール王国の誇る六大貴族が一角――フランヴェリエ公爵家が所有する離邸の一つを呑み込もうとしていた。

 その裏庭。『紅の森』へと続く入口の前。

「どうしてなの!?」

 大量の瓦礫が痛々しい破壊の跡を物語る中、幼いアリスフィーナは声を荒げた。

 剣を取り駆け回る兵士たちの怒号。逃げ遅れた使用人たちの悲鳴。魔道術による輝きと爆音が邸のあちこちから轟いている。

「どうして一緒に逃げてくれないの!? クリム姉様!?」

 アリスフィーナの目の前には、彼女と同じ深紅の髪をした女性が立っていた。

 美しい女性である。整った輪郭に強い意思の光を宿す紅玉の瞳。細い美脚にすらりと高い背丈。胸部の女性的膨らみは世の男性であれば誰もが目を惹くほど豊かだ。

 だが、滑らかな白い肌も豪奢な赤いドレスも、今では煙に煤けて黒くなってしまっている。

「……ごめんね、アリス」

 女性は艶やかな桜色の唇で紡ぐ。

「この襲撃の原因は私なの。正確には、襲撃者の目的が私。だから私が一緒に逃げてしまえば、アリスまで危険に晒してしまうわ。この『紅の森』を抜ければフランヴェリエの本邸がある。私がここにいる限り、そこまで逃げれば襲撃者も追って来ないはずよ」

「そんなのどうでもいい! わたしはクリム姉様と一緒がいい!」

「お願いよ、アリス。聞き分けて」

 駄々を捏ねるアリスフィーナに女性は困った顔で優しく言い聞かせた。それでもアリスフィーナは頑なに首を横に振った。

 その時――


「いたぞ、あの女だ!」


「くッ」

 ついに見つかってしまった。

 どこかの傭兵団だろう。襲撃者は鎧と兜で全身を覆っている。女性は苦虫を噛み潰したような顔を一瞬見せてから、アリスフィーナを背に庇うように立った。

「逃げなさい、アリス!」

 先程とは違い、今度は強い言葉で告げる。

「でも……」

「いいから逃げなさい!? ここは私がなんとかするから!?」

 アリスフィーナがもたもたしている間にも敵の傭兵は次々と集まってくる。

「逃げなさい!? 早く!? 私もあとで必ず追いつくから!?」

「――っ!?」

 かつて見たこともない姉の剣幕に、アリスフィーナは泣き叫びながら森の中へと駆け出した。

「おい、ガキが逃げたぞ」

「放っておけ。用があるのはこっちの女だ」

 傭兵団のリーダー格が青い輝きを纏った機械仕掛け剣を女性に突きつける。

「クリムヒルト・フランヴェリエ、貴様の正体は知っている。大人しく我々に従ってもらおうか」

「お断りよ。私がヘルヴォールの一件を知らないとでも思っているの? あなたたちに従うくらいなら、竜核が破壊されるまで暴れ尽くしてやるわ」

 瞬間、女性の纏っていたドレスが弾け飛んだ。露わになった美しい肢体に傭兵団の男どもが下卑た唸りを上げる。

 しかしそれも束の間、女性の体に赤い輝きが纏うと、それは深紅のドレスアーマーと二本の大剣へと姿を変えた。背中からは蝙蝠に似た巨翼が広がり、腰の辺りからは刺々しい尾が生え地面を叩く。

「出たぞ、竜装だ!?」

「怯むな! 分はこちらにある!」

 一斉に襲いかかる傭兵たちを女性は大剣の一薙ぎで吹き飛ばす。大剣を振るう度に発生する紅い炎が大蛇のように彼らを喰らい尽くす。

「アリス……」

 傭兵たちの相手をしながら、女性は一瞬だけ背後を振り返った。


「いつか必ず、あなたの下に……」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ