愛をしらない少女のおはなし
とある時代、とあるところに1人の化け物の少女がいました。化け物はいつも人間たちにいじめられていました。
化け物は愛が何なのか知りません。
愛とは一体何なのか、化け物はずっと考えていました。
その日も化け物は人間たちにいじめられていました。いじめられてる最中、化け物は人間たちの楽しそうな顔を見てこう思いました。
「もしかしたら、これが、この痛みが、愛なのかもしれない」
その時、化け物はいつか読んだ絵本を思い出します。その絵本には、こんなことが書いてありました。
「誰かから愛を受け取ったなら、自分の心の中にしっかり刻み込み、そしてできるだけたくさんの人に自分から愛を与えなさい。その連鎖が、世界を愛で満たすのです。」
地に伏せ震えていた化け物は、人間たちの目の前で、すっと立ち上がりました。
この時、1人の悪魔が生まれました。
私は旅の吟遊詩人。各地を旅しながら周り、各地の村に訪れては、そこの村人に旅の途中で見つけた歌を歌って聞かせている。
私はその日、とある村をみつけた。なかなかに広大な良い村にみえる。
しかし様子がおかしい。
村の中に人の気配は少しもしない。そればかりか、村の中に深く入っていくと、人間の指や耳、肉片などがそこらじゅうに落ちている。まるで地獄のような場所だ、私はそう思った。
しかし見つけた、希望を。少女だ。少女1人がぽつんとそこに立っていた。その体は血にまみれていた。
かわいそうに、きっとこの村は野蛮な盗賊団に襲われたのだろう。そしてこの子はこの村の中で唯一生き残った生存者なのだ。家族同然だった村人達の血を全身に浴びたのだろう、ああ、なんてかわいそうな子なんだ。これは悲劇だ!
私はいったいこの子のために何ができるのだろう。私は考えた。
少女は私をじっとみつめている。とても静かな瞳で私をみつめている。
こんなおぞましい悲劇があったのだ。きっと彼女はこれ以上傷つかないために、こころを深く閉ざしてしまったのだろう。だからこれほどまでに彼女の瞳は静かなのだ。きっと彼女の瞳には私は映っていない。彼女の魂はいま、彼女の深い深い心の中をさまよっているのだから。
そうだ、決めた。わかったのだ、私が彼女にしてあげれることを。
それは、旅の途中で立ち寄った村で教えてもらったあの歌、あの歌を彼女に聞かせてあげるのだ。あの村はとても美しく、幸せがそこらじゅうに満ちている村だった。
いま彼女に足りないのは愛だ。私はこの「愛の歌」で彼女の閉ざされたこころに再び灯りをともす!
私は一歩彼女の方へ踏み出す。彼女は、ぴくりとも動かない。
私は最大限彼女に優しい笑顔を向けた。彼女は今度は反応した。彼女は何かを待っているような気がした。彼女はなにか救いのようなものを待っているような気がした。そうだ、救いだ。きっとこの悲劇の少女は私に救いの手を必死に求めているのだ!
私はすぐさま竪琴を手にとった。さあ、少女よ。悲しき少女よ。私の「愛の歌」を、聞いておくれ。
ー「愛の歌」。それは、母の愛。父の愛。そして恋人への愛。ひとたびきくと、この世界に存在するさまざまな愛がその人の胸をやさしく温めてくれるような、そんな歌だ。
そんな歌を私は力の限り歌った。少女を怖がらせないために、できるだけ優しい声色で歌った。
私は静かに閉じていた瞳を開く。
少女は、全身を掻きむしっていた。その爪は、彼女の体を深くえぐる。
まるで、悪魔が自分の中に入り込んでしまっていて、それを必死に掻き出そうとしているかのようだった。
少女は低く唸り声を上げる。もはやその瞳は私に向けられることはなかった。いや、向けられないように感じた。まるで私が太陽で、激しいひかりに顔を背けるように。
彼女はしずかに歩きはじめた。ゆっくりと、ゆっくりと、深い森へと向かっていく。そして彼女の背中は森の闇へと消えた。
最後に、森の中に消えるその最後に、彼女は半身ふりかえり、私を見た。その目は、こう言うのはおこがましいことだが、まるで神を見つけたような、そんな目だった。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
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