フリーホラーゲームの幽霊役に転生したけど主人公たちを襲う気なんてないから!
乙女ゲームに転生するお話があるなら
フリーホラーゲームに転生したお話もありだよねと思い執筆しました。
目を開けると私は薄暗い学校の廊下のど真ん中に立っていた。少し斜め左上を見ると窓ガラスから濃い黒とオレンジが混じった夕焼け色と森林だけ見える。だから今は夕方なのかな?
でも、どうして私、ここにいるんだろう。目を開ける前までの記憶が私の中に全くない。ふと、右手に重みを感じで視線を向けると私の手には小学校の図工の時間で使うようなノコギリを持っていた。
しかも、なんと…ノコギリの刃には錆びた赤色が付いている。
「うわっ!」
ちょっと待って!なんで私がこんな危なっかしい物を持っているの⁉︎思わず私はそのノコギリを放り投げた。思いっきり投げたからノコギリは数メートル先の突き当たりの壁にサクッと刺さった。そう、サクサククッキーみたいにサクッとね。
「えっ、待ってこの雰囲気、どこかで見た覚えある」
えーと、確かこれは。えーと、えーと。
あと少しで何かが分かりそうになった時、後ろの方からパタパタと数名の足音が聞こえた。普通に振り返ると人それぞれ制服が違うけど高校生らしい制服を身に纏った男の子4人と女の子3人が全員私の方を見て引きつった顔をしている。
その集団の中で一番前に出ていた身長が高めで黒髪爽やかイケメンの男の子を見た瞬間、私はここがどこだか思い出した。
あの子はフリーホラーゲームの主人公、高島 翔矢、そしてここは前世、乙女ゲーム&フリーホラーゲーム好きの私がやっていたフリーホラーゲーム『死にたいなんて願うなよ~自分の人生は自分の手で簡単に変えられる~』の世界だ。
「あ…ぁ」
「い、いや」
「出た!」
「みんな走るんだっ!」
「きゃー!」
「走れー」
「うわー」
えー、ちょっとぉ。人の顔を見て2階に猛ダッシュで逃げるだなんて失礼にもほどがあるでしょ?なんて、思ったけどこのフリーホラーゲームを知っている私はどうしてあの子たちが逃げたかと言う理由を知っている。それは、私がこのフリーホラーゲームで主人公たちに襲いかかるノコギリを持った幽霊ちゃんだから。
「マジかー」
赤色のワンピースを着ている私。それと胸まである無駄にツヤツヤした黒髪。ついでに、きっと私の顔はあれだ、その、うん。恐る恐る、廊下の窓際に寄った私は背伸びをして窓ガラスに映る自分を見るとそこにいたのは。
「にぎゅゃぁぁぁあああ!」
ヒュー、バタンッ!頭から倒れました。
自分の顔を見て失神する子なんてどこにいる?はい、ここにいました、私です。はぁ、見るんじゃなかったよ。どれくらい時間が経ったのか分からないけれど目を覚ました私は改めて自分の容姿についてヘコむ。
「ふふ、フリーホラーゲームだから気持ち悪いのは仕方ないけどさ、でもさ、これはないだろ」
身長約130センチ、無駄にツヤツヤセミロングの黒髪で顔色は青白く血の気ナッシング。しかも、死んだ魚の目に顔の右半分は火傷の痕があって色が変色している。咄嗟にグロいキモいあり得ないの3単語が出てきた。
「嘘でしょ」
なんで私はよりにもよってフリーホラーゲームのおばけ役に転生したのよ!何っ⁉︎前世の私は何か悪いことでもしたの?誰かに怨みでも買われたの⁉︎ねぇ、ちょっと!誰だよ、こんな場所でしかもおばけ役に転生させた奴!出てこいっ!私がノコギリでけちょんけちょんにやっつけてやる!
と言うか転生するなら乙女ゲームの主人公が良かったぁ〜。
…そんな事を思っても現場は何も変わらない。
「あぁ、記憶が溢れるように出てくるわぁ」
後頭部を床で打ったせいか、ゲームについてだけ色々思い出した。確か『死にたいなんて願うなよ~自分の人生は自分で簡単に変えられる~』と言うフリーホラーゲームはゲームから書籍化、漫画化、アニメ化、実写映画化した超有名フリーホラーゲーム。
なぜ、そこまで人気があるのかと言うと。実はこの『死にたいなんて願うなよ』略して『しにねが』のストーリーとキャラが良いんだよね。
「あれは泣けたな」
スタートは主人公の高島 翔矢、高校2年生。彼は高校1年生の時から学校でいじめられていた。パシリや宿題をやらされるなどなど。それに加え家庭環境はあまりよろしくはない状況で。
担任にも相談しても取り扱ってもらえず、そんな中、彼は誰にも相談出来ないまま次第に塞ぎ込み『もう、こんな世界にいたくはないっ!』と願うようになっていた。
つまりは、簡単に命を投げ出そうとしていたと言うわけ。
「なんど、ティッシュを1ケース使い果たしたか。あっ、思い出しただけで涙が」
そんなある時、いつの間にか自宅警備になっていた翔矢は自室でネットサーフィンをしていたところ、ネーミングセンスを疑うような題名のゲームのURL付きメールが届く。そう、このフリーホラーゲームの題名は長いので『しにねが』ね。
この時、全てが嫌で消えてしまいたいと思っていた翔矢はサブタイトルを見て『なにが、簡単に変えられるだよ!そんなもの、簡単に変えることなんて出来ねぇんだよっ!』と悪態をつき『まぁ、こんな偽善者ぶった奴が作ったゲーム、プレイしてネットで叩くか』と言う理由でゲームをダウンロードし、何のためらいもなくスタートボタンを押す。
はいっ、カチッとな。
「良いお話だった」
翔矢がスタートボタンを押したらなんと、簡単に言えば『しにねが』の世界にトリップしてしまったんだよね。そこでは彼は自分と同じ境遇のさっきいた子達に出会い、関わり、私やその他諸々に襲われ、本当に死と直面した時『今までオレはバカなことを考えていた。オレ…まだ死にたくない』と強く考え直しここから出ると言うお話。
「画面の前でキャラの名前を連呼していた自分が見えるよ」
それに加え『しにねが』は追いかけあり、なぜ自分たちがここに連れられて来たのかと言う謎解きあり、恋愛ありで、エンドが5つあるとてもやりがいのあるフリーホラーゲーム。
「やっぱり人って本当の死に直面すると死にたくないって思うんだよね」
しみじみと窓の外を眺めながらぼやいていると、今度は重い何かを引き摺ったような大きな音が前方から聞こえた。何事かと思って首を傾げながら待っていると現れたのは私以上にビジュアルがグロいキモい奴がやって来た。
「び、ビネガー」
目の前にいるのは木で作られたアホみたいな大きさの棍棒を持った浅黒色の肌に筋肉ムキムキ巨人、見たから危険オーラ漂う、私と同じ立場にいる奴。つまり、主人公たちを襲うお化け役?いや、そんな可愛いもんじゃなくて怪力バカの化け物役の一人。
「キモっ」
筋肉ムキムキでしかも身長は廊下の天井まであるんだよ!そりゃ思わずキモッって言っちゃうよ。前世の私も声を大にして画面の前で叫んでいたんだからね。
「おい、アリサ。狩るぞ」
「えっ、えーと」
いやいや『お菓子いる?』的な軽いノリで誘わないでよ。そもそも私、このフリーホラーゲームでお化け役に転生したけど、爪の先ほど主人公たちを襲いたい気持ちはないんだよね。ましてや、このノコギリを使って一刀両断!ブシャーッと血を見るのだなんて考えたくもないし、そんな趣味ないて。
と言うか主人公たちには一番いいエンドを迎えて欲しいのが本音。実は一番いいエンドは全ての謎を解き明かし、私たちを成仏させた後、誰一人欠けることなく未来に希望も持ってここか出ると言うのが一番良いエンド。
「どうした?」
「あの…もうやめにしませんか?」
「何をだ」
「彼らを襲うことをやめにしませんかと提案しているのです」
謎の一つ、私とビネガーとの関係と、なぜ私たちが彼らを襲うのかと言うことはホラーゲームの半ばから後半にかけて色々なアイテムや協力プレイで彼らが解くことになっている。シナリオ通りに行けばの話だけど。
「私たちの目的は彼らにもう一度、生きたいと願わせることでしょ?だから、少しだけ脅す感じで良いのに」
「は?」
「それに、このゲームを創った佐倉 彩乃ちゃんの願いも叶えるためだし」
「ゲーム?アリサは何を言っているんだ?」
「あっ!」
しまった、これはゲームをしていないと知らない情報だった。だから、ビネガーは何も知らないんだよ。自分で言ったことに後悔しているとビネガーは壁に突き刺さっているノコギリを引っこ抜き、私に渡して来た。でも、私は受け取らない。
「どうしたんだ?アリサ、お前おかしいぞ。俺たちはただここに来た奴を片っ端から潰せば良いんだ」
「それ、誰からの命令だっけ」
「命令とか知らないが、俺たち以外の仲間を見たら体が勝手動くんだよ」
勝手に動いてその馬鹿でかい棍棒でドスんっですか。眉毛を八の字にしているとビネガーがノコギリを廊下に置いて私を通り過ぎた。慌ててビネガーの服の裾を掴むと苛立った声が聞こえる。
「どこに行くの?」
「どこって、奴らを追って」
「やめてよ!何言ってるの⁉︎馬鹿じゃないの!アホじゃないの!ボケじゃないの!」
「アリサ、お前いつの間に兄に対してそんな口が利けるようになったんだ」
前世の記憶を取り戻した今だよ。ゲームのことしか思い出せてないけど。あぁ、もう私は彼らに一番良いエンドで終わらせて欲しいのに。その他のエンドと言うのはとても後味の悪いもので、一番悪いエンドは心を抉るような悲惨なものだったはす。
まず1つ目。これは全ての謎を解き明かして全員生き残り、生きると言う希望を持ってここから脱出する。その後もここで出会った仲間と共に遊んだり、恋をしたり、いじめに打ち勝ったりと、一番良いエンドだけど、クリア条件がとても厳しい。特殊なイベントをこなし、とあるアイテムを最後まで持っていないとクリア出来ないんだから。
2つ目は、謎が解けたけど仲間7人中3人だけが生き残り『お前らの分まで生きるからな』と、生きたいと思う希望を持って元の世界に戻る。
3つ目は少しだけ謎を残して後もうちょで元の世界に帰れそうになった時、私とビネガーにやられてしまいこの校舎で彷徨う幽霊となる。
4つ目は、まぁこれは恋愛絡みなんだよね。主人公はこんな悲惨な状況下で、つり橋効果って言うやつかな?そんなこんなで主人公は3人の女の子から好かれ、プチハーレムだけど、その3人の中にヤンデレ気質の子がいて、その子にやられてしまい、この校舎で彷徨う幽霊となってしまう。
5つ目は…うん、これは思い出したくもない
「前世ではフリーホラーゲームだったから、お陀仏してもいくらでもやり直しは出来たのに。でも、ここは現実、一度やられたらお終いじゃん!」
「なんだか知らねぇが落ち着いたら合流な」
頭を抱えて叫んでいたらビネガーに可哀想な子を見るような目で見られてた。と言うかビネガーの目はクレヨンでぐちゃぐちゃに描いたような真っ黒な目なんだよね。私程じゃないけど気持ち悪いのは確か。
「ご、合流って」
そう言った後、ビネガーは音もなくその場から消えた。まるでマジシャンが突然消えるように。って、今はそんな悠長なことを考えている場合じゃない!今この瞬間、ビネガーは彼らに襲いかかろうとしているんだ!
「助けなきゃ」
彼らには一番いいエンドで元の世界に戻って欲しい、そのためには彼らに頑張ってもらわなきゃいけない事がたくさんあるけど、私も少しで良いから手伝いたい。なんせ、一番いいエンドは幽霊の私とあの怪力バカ化け物を成仏されるからね。あぁ、私も早く成仏したいよー。
「でも、さっき思いっきり逃げられたよね」
手伝いたいと言うか手伝わせてもらえるのかな?いや、きっといくら私が無害だと主張しても聞いてくれなくて反対に怖がらせてしまう。だって、この顔、人は見た目で判断しないとか言うけど、この顔ではなぁ、無理があるよ。
あっ、そうだ。だったら、主人公たちに気付かれないように影で暗躍するみたいにサポートと言う名の脱出の手伝いをすれば良いんだ。
「そうと決まれば、尾行しようっ!」
ついでにビネガーに襲われそうになった時は、このさっきまで怖かったけど相棒のノコギリデラックスちゃんで守ってやるんだからねっ!あと、その他諸々のお邪魔虫キャラからも。
こうして私は床に置かれてあった相棒のノコギリデラックスちゃんを手に取り主人公たちを捜しに動いた。
このあと私はビネガーに襲われている主人公たちを相棒のノコギリデラックスちゃんで助け、なんやかんやで主人公たちの仲間入りし、仲間割れをしそうになっている主人公たちの間に割って入ってお説教したり。
なぜ、自分がこの『しにねが』の幽霊役に転生したのかと言う理由が分かったり。
シナリオにはない主人公と恋愛フラグが立った良い感じのムードになったりと様々な事がたくさん起こるのはまた別のお話。
さて、彼らと共に一番良いエンドへと行こうか!