第五話
今俺達は森にいる。小屋を作る場所を探す為だ。
「あっ、お姉様!あそこなんてどうでしょう!」
そう言ってアリーが指差したのは綺麗な湖のほとり、少し開けたようになっていて、綺麗な花がたくさん咲いている。近づいて湖の中を覗いてみると、中ではたくさんの魚が優雅に泳いでいた。中には2メートルを超えるようなマグロのような魚も居り、なかなかに好条件な立地だった。食料が無くなれば魚を釣ればいいし、泳ぎたくなったらここで泳げる。水は透き通っていて、飲んでも大丈夫そうだ。それに透き通った水の中で優雅に泳ぐ魚達を見る、というのもなかなか良いかもしれない。
「よし、ここにするか」
そう言ってアイテムボックスから出した札を地面に貼り付ける。その札には幾何学的な文様が描かれている。
「何ですか?それ」
「ん?これか?これはな、札を張った場所を記録する札なんだ。ちょっとこっちに来てみな」
そう言ってその札の対となる札をアイテムボックスから出して、少しはなれたところまで小走りで行った。そしてその札に魔力をこめると魔方陣が浮かび上がり、その上に矢印が浮かび上がった。その矢印が指すのは先ほど札を張った場所。そこを見ると、さっき貼った札の上にも魔方陣が浮かび上がっており、その上の矢印もこちらを指していた。
「へぇ~すごいですね。こんな魔法具始めてみました」
「ああ、正確には違う効果なんだが、まあ場所を覚えておく為のものだと思ってくれたらいい」
そう言ったあと、隣にあった木に向かって思いっきり回し蹴りをする。回し蹴りされた木は一発でぶっ倒れた。
「うわぁ!?いきなり何をするんですか!!びっくりするじゃないですか」
一応誰もいない方向に倒れるように調整して蹴ったんだが...。素直に謝っておく。
「いや、すまん。やっぱ小屋を作るのなら木材は必要かな、と」
「まあそうですが....やるならやると言ってくださいよ」
「そうだな」
謝罪を終えると倒れた木を肩に担いで、のっしのっしとさっきの札のところへと持っていく。生前なら絶対に持てなかったこんなものを意図も簡単に持ち上げてしまう自分が怖い。後ろのほうで「うわっ怪力....怒らせないようにしよう」とか聞こえるのは気のせいだ。幻聴だ。たぶん。
その木材を湖のほとりに下ろし、その上に腰掛ける。
「で、小屋ってどうやって作るの?」
「え?知らないんですか?」
「え?」
「え?」
「「.......」」
しばしの沈黙。
え?ってことはここに小屋の作り方を知っている人はいない、と?確かに考えれば分かる話ではあったか。こんな幼女が小屋の作り方知ってるわけないよな。そんな世界があるとしたらどんな世界だよ。
「ど、どうします?」
「......地面に穴を掘ってそこに住む」
「却下」
即却下された。結構いいアイデアだと思ったんだけどなぁ。地面に穴を掘るのがアウトだとしてほかにどうすればいいんだ?竪穴住居?縄文時代か。いやまて、これは結構良いかもしれない。簡単に作れる(?)し雨風をしのぐには十分だ。提案してみる価値はあるかも。
「竪穴住居は?」
うんうんうなっている可愛い生物に声をかけると、はぁ?って顔をされた。
「タテアナジュウキョ?なんですか?」
あちゃー、こっちには無かったか。やっぱ文明は別の成長の仕方をたどっているのかな?そう思いつつもアリーに竪穴住居の作りを教えると、「いいんじゃないでしょうか」と帰ってきた。それを聞いた俺は早速、竪穴住居作りに励んだ。
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やはり昔の人は偉大だと思う。
太陽はもう沈みそうになっていて、森の中は一足速く闇に包まれている。それでも今日中に家が完成したのはいいことだろう。後はここで事態が沈静化するまで待つだけだ。後はせっかく異世界に来たのだから魔法も覚えたい。幸い、すぐそこに魔法が使える師匠(幼女だが)がいるので魔法を教えてもらおうと思っている。
それにしても、国は俺達を殺すのを諦めてくれるだろうか。殺し屋まで雇ってかかわった魔術師全員殺すなんて、正気の沙汰じゃない。殺し屋からしたらうはうはだが。そんなに金を使ってまで殺そうとしているのに時間がたっただけで見逃してもらえるだろうか。
.....やめよう。そんなことをぐちぐち考えるのは俺の柄じゃない。それよりも、今どうするかを考えながら生きていかないと、いつ足元をすくわれて死ぬか分かったものじゃない。俺は隣で無防備に寝ているアリーに着ていたローブをかけると、自分もごつごつした我が家の地面に寝転がり、目を閉じた。