第三話
「きゃああ――むぐ、むぐうう!」
「黙れ!」
どうやら誰かが襲われているようだ。考えるよりも早く体が動いた。転生して鋭くなった聴覚を頼りに悲鳴が聞こえた方へと走り出す。声的には若い女性――というよりも幼女――が襲われているようだ。飛ぶような速度で周りの景色が後ろへ流れていく。フェンリル獣人の身体能力は世界一ですから(当社比)。
あっという間に悲鳴が聞こえた地点に着くと、そこにはグレーのローブを着た蒼髪蒼眼の幼女が、二人の憲兵に押さえつけられて口に汚い布を入れられているところだった。押さえつけているやつ以外にも三人憲兵がいた。
幼女の髪は肩ぐらいまで伸びていて、頭の横でこう、ちょこっと結んであった。俺はそういうのには疎いのでよく分からないが、見た目に相まってすごく似合っていた。種族はエルフだろうか、長い耳がよく栄える。こんなかぁいい幼女に手を出すだなんて、憲兵は腐ってるな。あ~いやだいやだ、気持ち悪い。
状況を観察しつつも俺は双剣を抜き、走りながらいつものように構える。そして幼女を押さえつけている兵士Aの後ろに気配を殺して近づくと、右手の短剣の峰でうなじあたりを強打する。視界の端でうなじを強打した兵士が崩れ落ちるのを確認すると、振り返りつつ幼女を抑えている兵士Bが呆然としている間に剣の柄を腹に叩きつけて気絶させる。
ついに起動した兵士C、D、Eが腰に帯びた剣を抜こうとする、が、その前に兵士Cに近づいて抜こうとした剣の柄を蹴り、強制的に剣を収めさせる。
「なっ...!?」
そして柄に置かれた足を基点にし、顔面に回し蹴りを叩き込む。兵士Cが倒れきる前に飛びのき、スピードを生かして兵士Dの後ろに回りこみ手刀を入れる。これで兵士E以外は全員戦闘不能だ。最後に残った兵士はビビッて逃げ出すと思っていたが、意外にも直剣を抜いて正眼に構えている。ほかのやつらよりもいい服装をしていることから、恐らく隊長格だろう。剣も心なしかいい剣を使っているようだ。手入れも行き届いている。
「ふん、以外に強いようだがこの私に――」
言い終わるよりも前にトップスピードで近づいたが、さすが隊長と言ったところか、反応し、剣を振り下ろしてきた。しかし、遅い。おっさんの剣を捌いてきた俺から見ればハエが止まるような遅さだ。左手の短剣で衝撃を吸収しつつ受け流す。最後にがら空きになった腹を剣の柄でえぐり、気絶させた。
「ふぅ」
もうこういうことは手馴れている。特に疲れることもなく作業を終了させた。
「あの、ありがとうございます」
「大丈夫か?」
見たところ暴行を受けた形跡はなさそうだが、服の上から殴られたということもある。いちおう聞いたが、大丈夫、との事。
「名前は?」
「あ、私、アリーといいます。助けていただいてありがとうございました」
結構落ち着いた様子の幼女――いや、アリーは、魔力が高いので魔法使いを職にしているそうだ。なんだか最近魔法使いとの縁が切れないな~。
「名前はなんと言うんですか?」
「啓介だ」
「ケイスケですか?変な名前ですね」
初めてくすりと笑ったアリーに少しだけ微笑むと、言葉では言い表せないような、しかし興奮したような表情で「お姉様と呼ばせてください!いや、呼びます!お姉様!」とか言ってきた。すごく微笑ましいことだ。ちなみに啓介は前世の名前だ。それ以外に名前と呼べるような名前もないし、そう名乗った。
「じゃあ何があったか聞きたいから、お茶でもしながら話そうか」
「あ、それなら少し遠いですがうちに来ませんか?お姉様っ」
嬉々として言うので、断りきれずに「おう」と答えると嬉しそうに俺の手をとって歩き出した。そんな表情のアリーを見て、ほっこりしながらついていった。
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俺は今、対象が住んでいるという場所に来ている。地図でも確認したので間違いない。そして目の前には「ここが私の家ですっ、狭いですが、どうぞあがってください!」と満面の笑みで言っているアリー。目の前には木でできた簡素だが、味がある小屋が。
「な、なあ、お前って一人暮らしじゃないよな....?」
「え?一人暮らしですけど?あ、年齢ですか。私、こう見えても結構しっかりしてるんですよ!料理もできるし魔法もできますから仕事には困りませんし....。どうしたんですか?」
..........どうしてこうなった。
戦闘描写は書いてて楽しいんだけど難しいですね(^_^;)