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第二十二話

「君たちは、逃避行の道中でこの町に寄った、という認識でいいかな?」


 初めて会ったときよりも一段と声を低くした少年が、ニヒルな笑みで問いかける。いい加減、それやめたほうがいいと思うんだが.....。

 いや、別に人の趣味にケチをつけるわけじゃないんだけどね。なんだか過去の自分を見ているようで、というか黒歴史を思い出す、というか....。つまりは、なんだか皮膚の裏がかゆくなるような錯覚を覚えるのだ。


 端的に言うと、見てるだけでも恥ずかしい。


「え、ええ、そうね....」

「はい、そういうことです....」


 アリーとフロルもなんだか恥ずかしいようで、少し引いたような視線を向けている。


「えっと.....もうやめていいんだぜ?」


 そう声を掛けたかったが、それは少年の自尊心を傷つけるような気がして出来なかった。


「ふむ....では、まずは自己紹介と行こうか」

「お、おう....。俺の名前は啓――じゃなくて、ヘレナだ」


 間違えて前世の名前を答えそうになり、あわてて訂正する。 


「私はアリーです。よろしくお願いしますね」

「フロルよ。よろしくね」


 少年が急に立ち止まり、振り返った。なんか痛々しい動作で。

 両手を挙げる。無駄に仰々しく。


「我が名はアレク!闇属性の魔道を極める――予定の者だ!」


 うっわぁ.....。

 ついに一人称が我になったよ....これ完全に中二病患者やん.....。闇属性の魔道を極めるって......昔の俺かよ.....いや、今のは違っ...。


「では、行こうか.....」


 あり得ないほどにイタい動作で前を向くと、中二病のアレク少年は歩き出した。家へと向かうのだろう。

 そういえば、家にかくまってもらうとは言うが、その家には親はいないのだろうか。もし親がいるのならば、結局町民に見つかることになり、意味がなくなるのでは....?


 いや、いくら中二病の中学生でも親のいる自宅にかくまうなんて言うわけ無いだろう。少しくらい者を考えて行動しているはずだ。

 ほぼ無理やり匿わせた俺が言える話ではないはずなのだが。


 と、その瞬間だった。


 まるで大量の火薬を山のように積み、そこに火を投じたかのような轟音が辺りに響き渡った。

 それを聞いたアレクは、あわてたように


「や、やばい!ドラゴンの襲撃だ!」


 と叫んだ。

 あまりの驚きに中二病が抜け落ちている。よかったよかった、このまま俺のせいで中二病になってしまったら、少し寝起きが悪いところだった。

 いや、別に中二病でもいいとは思うのだが。


「ど、どどどどドラゴンですかっ!?」

「ドラゴンかー」


 正直、ドラゴンといえば恐ろしい上にレアな生物という考えだったが、ついさっき出会ったばかりでレア感が薄れている上に、なんだか強そうなイメージも吹き飛んでしまった。

 そういうこともあってか、俺にとってはあまり驚く酔うなコトもないが、今度はアリーが怖がっているようだ。


「かー、じゃないですよ!ドラゴンの襲撃ですよ!?」

「いや、さっきの俺もそんな感じだったんだろうな~、ま、大丈夫だr――」


 まあ、確かにドラゴンは世間一般からすれば珍しいだろうが、噂には尾ひれが付くものだしな。実はそこまで怖くないけど、デカイってだけで凶暴性だけが誇張されてみんなに浸透したってだけかも――


「ひぅ!?」


 ――しかし、そんな俺の幻想を打ち砕くようにソイツが現れた。

 思わず情けない声が出てしまったほどだ。


 俺の前に姿を現したソイツ、ドラゴンは想像の十倍は大きく。

 ドラゴンの牙は、剣など文字通り歯牙にも掛けないほど鋭かった。

 全身を炎のような真紅の鱗で覆われており、目はまるで獲物を見つけた狩人のよう、いや、まさにそのとおりなのだろう。


「――グルァアアアアアア!」

「ごめん前言撤回!コイツはヤバイって!!」

「ほらー!言ったじゃないですか!!」


 俺たちは、ドラゴンから背を向けて一目散に逃げ出した。





「こいつ――ッ!なんでこんなにしつこいんだよッ!」


 いくらスピードをあげて走ろうとも、ドラゴンは一向に諦めずに俺たちを追いかけてきていた。途中からはスピードだけを重視し、獣形態となって一心不乱に走ったが、それでも俺たちを諦める様子は無い。

 その上、ここは町の中。出せるスピードにも限りがある。


 出来るだけ曲がりくねった路地を逃げ続けるが、やはり地と空では分が悪すぎる。

 どうしても振り切ることが出来なかった。


「クソ、もしかしてドラゴンの子供を狙ってるんじゃないか?さっきから俺らばかりを狙ってくるぞ!」

「わ、分かりません~!」


 そりゃそうか。

 でも、このままだとジリ貧だ。


「ふふふ、仕方がないか、この力はあまり使いたくなかったが――我が右目に封印されし邪眼を覚醒させるしか――」

「こんなときまで中二病発症させてんじゃねーよ!」


 混乱しているのか、中二病を再発しているようだ。

 そういえば、俺たちが獣人だと知ってもあまり驚かないな。これも子供ゆえの純粋さから来ているのか?


「我が名はアレクサンドル。我が魔力を糧とし世界の真理を開き、我の前に立ちはだかりし生涯を切り開け!」

「え、マジで使えるの!?」


 突然俺の背中に座っているアレクが呪文(?)を唱えたかと思うと、背中の辺りにちりちりと焦げ付くような.....魔力のようなものが集まっていくのが分かる。

 俺もアリーによる魔法の修行で俺にも少し魔力だのなんだのが分かりかけて来たのかもしれない。見ると、アリーはもっと驚いたようにアレクを見ていた。


 ....あれ?この世界の魔法って詠唱ナシでも使えるんじゃ.....。


 呆然とするアリーをよそ目に、(死角で見えないが)アレクの魔法が後ろに飛んでいくのが分かった。

 どごぉん、という大きな音。

 一瞬後ろを振り返ると、どうやらドラゴンに直撃したらしい。煙が上がっている。


「やったか!?」


 やべ、言っちゃった.....。

 そう思ったときには既に、ドラゴンが煙を抜けたところだった。

 ――しまった、フラグだったか!

 しかし、彼我の距離は少し離れたように感じる。.....怒ってないよね?ドラゴン怒ってないよね?


「くそぅ!」


 とにかく、今はあのドラゴンから逃げることだけを考えなければ!

 .....いや、あのドラゴンの目的はもしかして俺が鞄に入れているドラゴンの子供名のではないのか?

 ほかの人間もたくさんいるはずなのに、何故俺たちだけが狙われ続けるのか。

 考えてみれば、理由は分かったはずだ。


 俺は、背中の上に乗っているアレク(あの中二臭い呪文を聞いた限り、本当の名前はアレクサンドルらしい)を


「フロル、頼む!」


 といいフロルに託した。

 さっきは微妙に役に立ったので少し丁重な扱いだ。


「何をするつもりなの!?」

「俺が囮になる!みんなは先に逃げろ、後で追いつく!」


 自分で言ってても死亡フラグだな、と思う。

 でも、このどうしようもない状況を打開するにはこれぐらいしか方法を思いつかないのも事実だ。


「.....短い間だったけど、楽しかったよ」

「お姉さま?行かないで!」


 アリーが叫ぶが、かまわずに俺は走り出す。案の定、ドラゴンは俺についてきた。

 俺は出来るだけ曲がりくねった道を選びながら、身を隠しつつすばやく移動する。背後に向かって覚えて間もない氷の魔法を放ったりもしたが、走りながらで集中できないためか威力がいつもより弱い。


 ......数分は耐えただろうか。いやもしかしたら十数分は持ったかもしれない。

 俺はフロルとアリー(とアレク)と離れ、完全にみんなとドラゴンを引き剥がすことに成功した。


 だが、ついにドラゴンに追い込まれてしまった。

 俺の前と左右は壁に阻まれており、進むことは出来ない。唯一の道である後ろは今俺が通ってきたばかりであり、その方向からドラゴンが来ているため逃げてもつかまるだけだろう。

 所謂、袋小路である。


 ――万事休す、か.....。


 ドラゴンの大きな気配が近づいてくる。

 ああ、もしかしたらもうだめかもしれない。


 でも、いいんだ。

 これで、アリーたちが助かるのなら。



 ついに、俺の前にドラゴンがたどり着いた。

 ドラゴンはその大きな体を狭い道に無理やり詰め込むと、どっしりと座りこんだ。何をするのかと思えば、次の瞬間ドラゴンが俺に向かって大きく口を開いた。


 おそらく、ブレスを放つのだろう。

 ドラゴンが、息を大きく吸い込む。ああ、終わったな....。


 視界が真っ白に染め上げられた。








「少し、逃げすぎではなくて?」

「......あれ?」


 予想していた衝撃は襲ってこず、代わりにお淑やかな女性の声が降ってくる。その声は落ち着いていて、聞くものに貫禄を感じさせる。


 いつの間にか固く瞑っていた目を開くと、そこには――真っ裸の赤髪美女が立っていた。


「.....え、何故?」


 思わず、心の声が漏れた。

 

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