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第十四話

「おいおっさん!それどういう意味だよ!?」

『言ったとおりの意味だ』


思わず大きな声を出してしまった俺を、フロルさんが訝しい目で見てくる。アリーは....白くなっている。俺の声も聞こえてないようだ。


アリーの醜態を見てなぜか少し落ち着いた俺は、おっさんに詳しい話を聞こうと先を促す。


『さっきも言ったとおり、どこかからお前達の居場所が漏れたらしい。そちらに討伐隊が向かっている。逃げたほうがいい』

「なんでそんなに俺達にこだわるんだよ.....」


こちらに向かっている人数を聞いてげんなりする。

小隊といえば30人から50人ぐらいの人数だ。それらがただの烏合の衆なら片付けるのは簡単だが、相手は仮にも国軍だ。数人ぐらい手練がいたって不思議じゃない。


俺は今まで完全に暗殺用に訓練されてきたから、手練の武芸者と正面切って渡り合える自身は無い。相手に気が付かれていないのなら話は別だが。


『お前達はまずベーベルに逃げろ』


――亜人国家ベーベル。他2国が亜人を差別する為、まだ当時未開の地だった北に建国した人類差別の亜人の国。ちなみに、前にも言った通り俺が住んでいるのはゼノビオスなので、獣人形態でいると差別される。よっていつもは人形態だ。――


「別に国内で隠れていればいいんじゃないのか?」

『今回居場所がばれたという事は、相手にはお前達の居場所を探るなんらかの方法があると考えたほうがいいだろう。そのなんらかの方法でお前達の居場所がばれても外国にいればしばらくは凌げるだろう』


「......分かった。ほとぼりが冷めたら戻ってくるよ」

『おう。旅行でもする気で気楽に行ってこいや。動きがあったらまた知らせる』

「分かった。ありがとな」


そう言ってから、通信符の真ん中にある魔石を押して通信符を切った。


「おいアリー。ここを離れるぞ」


力なく横たわって真っ白になっているアリーに声をかけると、アリーはへ?とでも言いたげな顔をする。


「なんでですか?」

「追っ手が来た」

「もう!?早くないですか?」


慌てるアリーをなだめてから、説明を開始する。その間、フロルさんはなぜか自分にも関係があることだと言わんばかりに俺達の話を聞いていた。追い払おうかとも思ったが、フロルさんも自分の話を聞かせてくれたので放っておく。

フロルさんはまるで『実の娘がとある事情で国に追われていて、その追っ手が来たという説明を娘の仲間に話しているのを見る』ような表情でこちらを見ていた。どんな表情だよ。そんな細かいところまで分かってしまう自分が怖いぜ。


「じゃ、じゃあやばいじゃないですか!早く逃げましょうよ!」

「まあまて。まだ30分ぐらいはこないから、俺達がここに居た形跡を消さないと」


さっさと逃げる用意(と言っても荷物をアイテムボックスに入れるだけ)を済ませたアリーを待たせて、俺は少しの間だけだったけど我が家だった竪穴式住居を壊しにかかった。


開けた穴にも土をかぶせ、周りの土となじませて分からないようにし、壊すことで出た木などは森のほうに投げた。アイテムボックスにも入れられる限度がある為、こういったものはアイテムボックスにポイっ、で良いわけではない。

こんな家でもしばらく住めば愛着も沸くというもので、少し寂しくはあったが、生き延びる為なので大事においておくわけにも行かない。仕方なくすべて壊した。



俺達が居た形跡を完全に消し去った後、少し遠くに50人ほどの気配を感じ取った。遠いので正確な数は分からないが、国軍だろう。


「追っ手が来た。行くぞ」


まだ追っ手は近くに来ているわけでもないので、少し急いで北のほう――ベーベルの方へと、森の中を歩き出した。










「......で、なんで付いてくんの?」


アリーはわかる。先ほどフロルさんから話を聞いた限りでは、もうエルフの集落には帰れ無そうだし。あの家も恐らく国軍に占拠されてるだろう。今戻るなんてまさに飛んで火に入る夏の虫だ。俺と同様、ベーベルあたりに逃げ込むしかないだろう。それにアリーも一応亜人。俺とは違って姿も変えられないし、ここに残るのは得策ではないだろう。


しかし、フロルさんは付いてくる必要はあるのだろうか。いや無い(反語)

この人は早く娘さんを探すべきではなかろうか。魔力の反応をたどってきたと言うからには生きてはいるのだろうが。イッタイドンナヒトナンデショウネー。


「あの~フロルさんどうして付いてきてるんでしょうか?」

「お母さんでいいわよ?」


まぶしい笑顔でそう告げるフロル....お母さん。


まあ.....そうだろうなとは思ってたけど。俺の第二のお母様でしたか。これはこれはご機嫌麗しゅう。髪の色も目の色も一緒だったしね。でもなんというか......いきなり母ですとか言われてもお母さんだとは思えないじゃん?それによる現実逃避と言うか.....。


もう認めざるを得ない状況だ。


「でも流石に始めてあった人にいきなりお母さんって言うのは抵抗があると言うか.....」


顎に手を当てて悩むお母さん(仮)。しぶしぶと言った感じでじゃあフロルと呼び捨てにしてくれと言ったので、これからはフロルと呼ぶことにする。

いつか絶対にお母さんって呼ばせて見せる!と息巻いていた。そんな様子のフロルを呆れた様子で見つめるアリー。


なんだか凄く平和だ。毎日血生臭いことばっかやってたからな。平和が身にしみるぜ。





そんなこんなで仲良く行軍を続けてもう2日目。夜はテントを張って交代で見張りをしながら寝た。相手は女だと思って接してくるから、寝るときなんか凄く慌てるんだよね。それにしてもフロルはなんで俺を抱き枕にするんですかね?その.....マシュマロが当たって大変なんですけど。


「あの、ベーベルまでどれくらいなんですか?」


昨日のことを思い出して顔を赤くしていた俺に、アリーが話しかけてきた。脳内マップを頭の中で思い浮かべつつ、簡単に計算する。


「う~ん....普通に歩けば6ヶ月ぐらいだと思う」

「6ヶ月!?」


アリーが酷く驚いた表情で叫ぶ。まあ、それも仕方がないことだと思う。ただでさえ早く国外に逃亡したいのに、国外に出るだけで6ヶ月もかかるのだから。


「まあまあ、落ち着けって。6ヶ月って言っても歩けばの話だよ歩けば。途中で乗り物に乗る予定だから」


すると明らかにほっとしたような表情で「そんなに歩いてたら疲れて疲労死してしまいます....」とかつぶやいていた。



ちなみに、ベーベルは一番北にある国だが、それよりも北にも土地はある。しかしそこは20メートル程もある木が鬱蒼と生い茂る森が大陸を横断しており、その森の奥からは比較的強い魔物がうじゃうじゃ出てくるのでそちらには国を広げることはできないし、森の向こうはいまだどうなっているのか解明されていない。.....と聞いたことがある。



「ま、とりあえずは歩くしかないわね」

「そうだな、追っ手も居ることだし」


フロルの言葉に同意し、少し歩を早めた。


「ちょ、速いですって!」


.....が、すぐに元の歩調に戻した。

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