第十二話
300pt突破だ~!
感想もきたし調子に乗っていつもよりも長めに書いてみました。
目が覚めると、石でできた天井が見えた。ここはどこか?と体を動かそうとすると、右足に激痛が走る。その激痛で、私が気絶する前に起こったことをすべて思い出した。痛む右足に歯軋りしながら、首だけを回し部屋を見渡す。そこは小さな石でできた部屋で、私はただの布のほうがましと言うほど薄い布団に寝かされていた。手足は鎖で縛られていて、走ったりはできなさそうだ。
その部屋はまるで牢獄のようで、部屋に一つだけある錆びた鉄のドアの小窓から外が少しだけ見えた。
部屋の端には小さな桶がおいてある。それを使って用を足せと言うことだろう。屈辱的ではあるが、それも“ここを抜け出す”までの辛抱だ。そう、もちろん私はここで諦めるつもりは無い。というのも、奴隷と言うのは【奴隷化の首輪】と言う魔法を付与した首輪によって強制的に言うことを聞かせて労働力などにしているのだが、この【奴隷化の首輪】は、ある意味呪いの様な物なので、一応、神の種族【神狼】である私には効かない。神の種族に呪いが効かないのがあまり知られていないのは幸運だった。
改めて部屋を見回してみると、うっすい布団。排泄用と思われる桶のほかに、壁にかかった薄汚れた鏡を見ることができた。体勢的に寝転んだ状態だったので気がつくのが遅れたのだろう。
よろよろと立ち上がって、痛む右足を引きずりながらどうにか鏡の前にやってくると、顎をあげて首輪の色を確認する。別に首輪の色が似合うかどうかなんてのんきなことを考えてやったわけではない。この【奴隷化の首輪】は、色が白に近ければ近いほど奴隷化の影響は小さく、真っ白だったら主人の命令を聞かないことだってできる。それでも一定距離以上ははなれることができないが。逆に黒に近ければ近いほど、動きが制限される。鏡の中で顎をあげている私がつけている真っ黒な色であれば――人としての意思が無くなる。ただの言うことを聞く人形だ。
「はぁ.....」
私は、今後の奴隷の振りをして生きていく自分自身のことを考え、思わずため息を漏らした。
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ついに、ついにこのときが来た。今まで黒い【奴隷の首輪】をつけた意思の無い人形の振りをするのはだいぶ堪えたけど、それでもやはりつらいものはつらかった。幸い、奴隷は売り物なので傷つけられることは無かったが、かといっていい暮らしをしていたわけでもない。彼と森に小さな家を建てて暮らしていたころとは天と地の差があった。
今私は小さな宝石や装飾品が目にまぶしいほどにちりばめられた部屋に来ていた。私の目の前には今まで私をこき使ってきた奴隷商の男が立っている。私が入荷された奴隷商の中ではこいつが一番偉いようなので、立っていると言うことはお客様の前だということだ。
その当のお客様は私達の目の前にある装飾過多気味の大きな椅子にどっかりと腰を下ろしていた。私が出した紅茶を目の前にもってきて「いい香りだ」と言っているが、その紅茶は私が奴隷として生きてきた分のストレスをぶつけてやろうと思って雑巾の汁を絞って入れたものだ。
もちろん、お客様が飲むものとは知らなかった。もしばれたりしたらただ事ではなかったと冷や汗を流しそうになるが、どうにかねじ伏せる。意思があることをばれては元も子もない。
「いい茶葉を使っているね」
いかにも貴族然とした客の男が、豊満な顎下の肉を揺らしてそう言う。男が座りなおすたびに男の腹が揺れるので、見ていると笑い出しそうになる。が、あくまで今の私は人型をした言うことを聞く人形でなければいけないので、なにもない空をぼんやりとうつろな目で見るだけだ。
「ええそうでしょう。その紅茶はこの奴隷がいれたのですよ」
「有能なのだな」
「ええ、ええ」
奴隷商は手をこねながら私を押しまくってくる。まあそれはそうだ。なんていったって私の値段は歴代最高値の奴隷の20倍はあるのだから。奴隷商としてはもううっはうっはだろう。
「では、契約に移りたいと思います」
そう言って部屋を出て数分歩いたところ(この奴隷商館は凄く広い)で、大きな扉の前に着いた。高さは私の三倍ほどあるだろうか。
「ここが契約の間となっております」
奴隷商が恭しくお辞儀をして入っていく。そこは見たことも無いほどの大きな広間で、まるで神殿を思わせるような作りをしていた。しかしそこに満ちている空気は神々しさとはかけ離れた、もっと重く、暗い空気だった。
そんな神殿のような広い広間で最も目を引くのが、床一面に書かれた魔法陣だった。見たことも無いような言語や図形がびっしりと書き込まれており、古くからあるものだというのがすぐに分かるほど古いものだった。恐らくこれが黒い首輪の契約をするための魔方陣だろう。黒い首輪の契約をするには大きな魔方陣が必要だと聞いていたがこれまでとは。
「では、この魔方陣に血を垂らしてください」
そう言って奴隷商が差し出した見るからに高そうな短剣を手に取り、抜き取る豚(私命名)。そして少しの躊躇の後、指を切った。指を魔方陣の上に持っていく。指先からたれた血が魔方陣に触れた瞬間――
「うっ」
豚が思わず目を覆い隠すほどの赤い光が魔方陣から放たれた。思わず私も反応しそうになったが、どうにか我慢する。赤い光が収まってくると、魔方陣にはぼんやりと赤い光がともっているだけだ。
「魔方陣の中心にいけ」
奴隷商が、私に通常なら逆らうことができない『命令』をする。そして私の手足から拘束用の鎖を取った瞬間――
私は逃げた。
「おい!まっ――」
奴隷商が止めるのも聞かずに、今まで頭に叩き込んできた奴隷商館から出る最短コースをただひたすら走る。今はスピードが重要なので獣形態で狂ったように走り続ける。後ろから武装した私兵が追いかけてくるも、一瞬で引き離す。
奴隷商館から出て、久しぶりの太陽に感動しつつも、本能的に私が収めてきた森に向かって一晩中走り通した。
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「で、あなたの魔力反応を追いかけてここまできたって訳」
「へぇ~、がんばったんだね。でも俺はその娘さんのことは知らないからがんばって探してね!」
俺はそう言って魔法で作った氷のうちわで首筋を扇ぎながら答えた。ふと気になってアリーのほうを見てみると、土下座――いや、ひれ伏していた。え、なんで!?
「いやだからあなたが私のむすm――」
「なあアリー。なんでひれ伏してんの?」
なんか言おうとしたフロルさんを無視してアリーに聞く。
「ほらお姉様も!ほら!」
そう言って無理やり俺をひざまづかせようとしてくるアリー。ちょ、やめろって!変なとこに当たってるから!
「と、とりあえずお茶でもどうですか?」
そう言ってフロルさんを家(笑)に招きいれて、紅茶を出す。この紅茶は俺のアイテムボックスに入れてあった結構高いやつだ。お茶セットはあって困ることは無いからな(キリッ
「ん、おいしいですね」
俺が出した紅茶を優雅に一口飲んで、観想を口にする謎の人物フロルさん。アリーはすでに料理を作り始めている。でもその動作がいつもよりぎこちない。なんだか緊張しているようだ。
しばらくすると、料理が出てきた。緊張はしていたようだが、料理自体はいつもより豪華だ。いつもよりも豪華な料理を出してもてなすほどの人物と言うことなのか?
アリーは俺がそれ以外に無かったから仕方なく出した高級紅茶を見て、俺にだけ見えるようにグッと親指を立てている。それ以外に無かっただけなのに....
木の皿に入ったいつもより豪華な料理を口に運ぶ。うん、おいしい。俺よりもすこし早く料理を口に運んだフロルさんは、「おいしいです」と言って顔をほころばせている。と、そのとき。
「――!~~~!っ――!」
いきなりフロルさんが床をのた打ち回って苦しみだした。それを見たアリーも凄く困惑した顔で声をかけている。しかしフロルさんはそれに反応することなく、意識を失ったようだ。体から力が抜けている。
フロルさんの安否を確認しようと俺も立ち上がった瞬間。
俺の体に異変が起きた。体が熱くなり、呼吸ができなくなる。四肢から力が抜けて、立てなくなる。自然と地面に倒れてしまう。どんどんと薄くなっている意識の中で、アリーがこちらに駆け寄ってくるのが見えた。




