第十一話
更新遅れてしまい、申し訳ございません。リアルが忙しかったので.....。
私は走っていた。
後ろからやってくる奴等共から逃げる為に。
つかまったら今手の中で寝ているこの子も一緒に奴隷にされてしまう。それほどに純血のフェンリルは珍しいのだから。
「ハァ、ハァ...!」
風を受けて身に着けている服がなびく。しかしそんなことも気にしていられないほどに私は衰弱していた。そりゃあ、出産直後に全速力で走るなんて、人間なら絶対にできないだろう。後ろから弓矢が飛んでくる。その弓矢は少し離れたところにある木に乾いた音を出し、突き刺さる。これに当たってしまえば一貫の終わりだってことぐらい、誰にも分かる。
「相手は衰弱しているぞ!追え、追え!」
後ろで人間の声が聞こえる。その声も、どんどんと近づいてきてる。その事実にあせり、余計に体力を消耗する。最悪な循環だった。
腰につけていた主武器のロッドをはずし、後ろに向かって放り投げる。体力も消耗し、この子を抱えた状態の私では戦うことはできないだろう、と言う判断から、今まで愛用してきたロッドを捨てた。これで少しは楽に走れるようになった。このロッドは彼に貰ったロッドだった為、心が痛むが今はそれよりもこの子を逃がすことが先決だと割り切った。
「うわっ」
「止まるなよ!」
どうやら後ろに放り投げたロッドは先頭を走っていた者に当たったようだ。足音が少し遠ざかる。それにここは深い森の中。一度見失えばもう見つけらっれることはあるまい。そう自分を鼓舞し、鉛のように重い足を前に出し続ける。それにここは私達が納める森。自分の庭どころか家も同然だ。この森のマップはすべて頭に入っている。
「火球!」
もう少し、もう少しと走っていたそのとき、後ろから魔法の発動文言が聞こえた。まずい、と思った瞬間には右足に激痛が走っていた。
「あっ」
どうにかして体制を立て直そうとするが、やけどのよって足がしびれたようにうまく動かないせいで倒れてしまう。倒れる瞬間、どうにか体をひねって抱っこしている子――ヘレナを守るように背中から倒れることに成功した。しかし状況は絶望的、奴隷狩りは私達をすぐに見つけて奴隷にするだろう。足は火球が当たった為、使い物にはならない。すなわち、逃げることができない。
「やつはもう虫の息だが油断するな。腐ってもやつは神獣だ。あわてるなよ」
さっき先頭を走っていたリーダー風の男が他にやつに注意を促しながら円になるようにして私達の周りを囲んでいく。これで逃げ出すことはほぼ不可能になった。敵の数は10人ほど。これでも減ったほうだ。はじめは100人はいた。彼が私達が逃げ出すまで時間稼ぎをしてくれたおかげだ。しかしこいつらが来たと言うことは、彼はもう.....。
もう、だめなのだろうか。私は、ここでつかまって奴隷にされ、人間の貴族の豚に売り払われるのだろうか。そしてその貴族の豚が死ぬまで、あるいはその子孫まで、玩具にされて生きてゆくのだろうか。
「く.....」
そう考えただけで目から自然と涙がこぼれてくる。人間どもにそれを見られないようにうつむく。すると自然に、私が抱いている安らかな顔で眠るヘレナが見える。その寝顔は、まるで天使のようだった。
「っ!」
.....何を考えていたんだ、私は。
私はどうなってもいい。だがこのまま人間に捕まってしまえば、ヘレナが、殺されるかもしれない。そのまま育てられて、死よりもつらい奴隷生活を永遠に送っていくことになるかもしれない。最後の、本当に最後の力を振り絞って、獣形態に姿を変える。
「くっそ!やっぱ奥の手を隠してやがったか!槍隊、戦闘準備!足を狙え、絶対に殺すな!」
あわてたような人間の声がするが、耳に入ってこない。いや、正確には脳に入ってこない、だろうか。今にも飛びそうな意識の中、できる限り慎重にヘレナの小さな体を持ち上げる。生まれたばかりのヘレナの体は酷く華奢で、酷く小さかった。
「ヘレナだけは.....あの人と約束したの!ヘレナだけは、絶対に渡さない!」
声を出し、気合を入れると、足に力をこめて飛び上がる。人間の包囲網を軽々と飛び越え、森の中に入っていく。向かうのは最悪の場合を想定して作っておいた隠れ家だ。できればそこを使うようなことにはなってほしくなかったが。
「追え!追え!死んだやつらの意思を無駄にするな!」
やたらかっこつけたことを言いながらリーダー率いる人間軍団総勢約10名が追いかけてくる。しかしそんなものでは衰弱しているとはいえ死に物狂いで走っているフェンリルに追いつけるはずが無い。どんどんと距離は開いていく。息をしているはずなのに肺に空気が入ってこないような錯覚にとらわれる。
そんな状態で1時間、あるいは1分だろうか。どれほど走ったかは分からないが、たくさん作っておいた隠れ家の中でももっとも隠密性が高い隠れ家に着いた。そこは半地下室になっており、入り口は草で偽装されている。その草を口でどけると、中にできるだけ衝撃を殺してヘレナを入れる。最後に、その体にハイドをかけると、草でできたふたを閉め、その場を後にした。疲れで足元がおぼつかないが、しっかりと地を踏み歩く。いつの間にか獣人形態に戻っていたが、気にしない。
「おい!いたぞ!」
疲れから、顔を上げる気力も無い私は、ヘレナを残したまま、囮となる為に、奴隷狩りの元へ向かった。




