魔法の国で日本生活。
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2話目書きました。
気が付くと異世界にいた。理由は分からない。ただただ気が付くと異世界にいたのだ。その世界では魔法があり、みんなその便利さに全てを預けていた。
移動も空を飛ぶ魔法ですまし、火を出す魔法で料理を作る。風呂は水を操る魔法で水自身に洗わせる。俺にはそれが信じられなかった。魔法が、じゃない。意味の分からん魔法に頼ることが、だ。
幼少から今、20歳まで1人でなんでもできるように育てられてきた俺は家事全般はもちろん、勉強も運動も人並み以上に頑張っていた。そんな俺にこんな現実受け止められるわけがない。
そんな異世界に飛ばされて数日、俺はその光景に驚きつつも、いつものように起床した。
「・・・・・」
移動手段も魔法以外にある。車や電車もあるので魔法を使えない俺でもそれなりに過ごせてはいる。
冷蔵庫から唯一鶏の卵を扱っていた店から買った卵を取り出し、フライパンに落とす。半熟が好きな俺はそれを見計らい、皿に盛り付けた。
さらに野菜ジュースとサラダを冷蔵庫から取り出し、食卓に並べる。それも新鮮そうでおいしそうである。さすが俺の作った料理、最高。
卵の黄身の部分を箸でつつくと、ぷにぷにとした感触が伝わる。まずはまわりの白身から食べ、黄身をご飯の上にのっける。そこで卵を割り、中から流れ出る半熟の黄身を眺めた。
「美しい・・・」
俺は思わずつぶやいていた。
その上に醤油を投入。湯気が立つご飯に醤油が流れ込む。綺麗な色だ。それを箸で口にかきこもうとするが・・・・・。
「うわ!なにそれ・・・」
「んがっ!」
かきこもうとしたときに声が聞こえた。
俺がこの世界に来て、初めて会った魔法使いの女の子。話を聞くに高校生だという。こちらに高校という概念があるのかどうかは知らんが、年齢的には。
「なんでお前がここにいる・・・」
「だから家に結界張らないと。魔法使って壁なんか通り抜けれるんだから」
防犯に結界が必要だなんて聞いたことねぇよ。第一俺は魔法が使えない。全て自分でやる人間だぞ。
「防犯なんか、これを見ろ」
俺は小学生が持つとされる防犯ブザーを取り出す。これも卵を買った店で買ったものだ。
「これで平気だ」
「あんたってめんどくさいよね・・・」
少女は嫌な顔をした。
「あんたって言うな。俺はお前より年上だし、佐山葵って名前があるんだ」
「じゃあ佐山?」
「年上っつったろ」
「じゃあそっちもお前って呼ばないでよ。私にもアーシャ・クランドって名前があるんだから」
ちっと舌打ちをする。というか外国人みたいな名前してる癖に顔は日本人すぎるだろ。ここどこの異世界なんだ。考えても仕方ないことだが。
ちなみに格好は派手な魔女衣装という感じ。どうやらこれが制服らしい。
「なんか落ちついてるね。ここに来た当初はここはどこだ!?助けてくれ!俺は何もしてない!帰らせてくれ!大学の単位が!とかわめいてたのに」
「言うな」
しょうがないことだと思う。しかし異世界からこの世界へ迷い込む人間も少なくないらしく、移動用魔法の応用で元の世界に帰れるらしい。それに準備がかかるため、俺は今、こうしてこの世界で暮らしているのだ。魔法に頼るのは情けないが、我慢。単位は不安。
「で、あんたの食べてるそれ何?しかもそれって鳥の卵でしょ?よく食べれるね」
「なっ!」
こいつ俺の目玉焼き黄味かけ丼になんてことを!
「ばっか!これがうまいんだっての!半熟食ったことねぇの!?」
つか、鳥の卵以外何食うんだよ!ということについての答えはもう知っている。ここに来たとき、住まいは偉い人に立派な一軒家を貸してもらっているが、食材がないことに気付いた俺はスーパーへと言った。卵コーナーに広がるのは巨大な卵ばかり・・・。
「お前らこそよくあんなもん食えるよ」
「なっ!私の世界のガムザパズラの卵に文句でもあんの!?」
「なんだそれ!?」
名前までは聞いたことなかった。ますます食欲が失せる名前だ。
「しかもそれ生じゃない。ばっちー。火を通さないと変な菌とか体に入るわよ」
「お前鳥の卵食ったことないのによくそんなこと言えるな・・・」
「あんたもなかなか大人げないよね。その割にメンタル弱いけど」
それはよく言われる。負けることが嫌いな俺はどんな相手にも容赦しない。それが魔法を使える異世界人でも同じだ。メンタルは知らん。
「お前らはその、なんだ?ガムなんたらの卵を半熟にして食べたりしないのか?」
「うーん、食べたことないわね。ちゃんと火を通すことが大事だし、火の魔法は繊細な動きができないの。例えばその鳥の卵をいい感じの半熟でーとかね。完全に焼き切るまで発動し続けるわ。便利」
便利だが、半熟好きな俺にとっては最悪。確かに見極めるのとか、ずっと見なきゃいけないところとかめんどうだが、その手間をはぶかないからこそ食ったときにいいおいしさを味わえるのだ。
「ふっ、魔法とは不便だな」
「は?」
「俺が魔法を使わない大切さというのを見せてやるよ。手間をかけるからこそ素晴らしいものが味わえるということを教えてやる」
「ふーん、面白いじゃない。じゃ、今日の昼、ランス噴水公園の大広場に集合ね。あそこならキッチンセットもあるし」
ランス噴水公園にバーベキュー用のキッチンセットが用意されていたりする。そこらへんは便利なんだよな、ちくしょう。火を起こすのとか勝手にやってくれるし。
「泣いて謝っても許してやんねぇからな」
「そのセリフを子供に言う大人ってどうなのかしら・・・」
なぜか呆れていたが、関係ない。俺は午前中のうちに卵を買いに行こうと家を出た。結界とやらがなしで留守にするのが不安だったが俺がいても変わらないな。
〇
公園に行くとアーシャの同級生の友達らしき女の子が数名。小さい子供が数名いた。同級生の女の子の方は知らんが、ガキどもは俺の家のまわりで騒いでるやつらだな。
「この子たちが審査員よ。おいしいと唸らせることができるかしら?」
なぜお前が自身満々なんだ。
「てか、あの人異世界からきた人でしょ、アーシャ」
「え?うん」
「顔とかかっこいいよねー、イケメンって感じ?残念だけど」
「うん、残念だけどね」
同級生の女どもが何か騒いでいた。もちろんこの距離では聞こえないがあんまいいことを言われている気がしない。後で問い詰めるか。
俺はすぐにスタンバイする。フライパンを用意し、そこに油をひく。それをうすーく伸ばし、上に鶏の卵を投入。とりあえずは2個だ。
「えー・・・鳥の卵・・・?」
「お兄ちゃん、そればっちいよー」
「うるせぇ!ガキ!」
ばっちくねぇよ!
俺はそんなうるさい子供たちの声を受け流し、俺は卵に集中する。じゅーっという音と香ばしいにおいが広がる。時間も昼時ということもあり、俺も腹が減ってきた。
「なぜかアオイって子供にモテるよね」
何やらアーシャが不穏なことを言っている。確かにこのガキどもは何度叫んでも叱っても俺を離れず、遊びに誘いまくる。なにがそうさせるのか。
「そこだ!」
俺はフライパンから目玉焼きを出し、それを皿に盛り付ける。まわりに野菜を少しのせ、とりあえず目玉焼きは完成。それをいくつか作っていく。
「よし、お前ら。白身だけ食え」
「はぁ!?」
文句を言いながらももくもくと食べ続ける。その間の、
「うん、鶏意外とおいしいかも」
「うまい」
「なんかさっぱりしてておいしいね」
という声を聞き逃さなかった。ふん、やはりな。だがここからが本番だ。
俺は残った黄味を炊きたての熱々ご飯にのせる。ちなみにこのご飯も魔法や炊飯器ではなく釜で炊いていて、おこげが少しあったりする。俺の本気だ。
「見てろよ」
俺の言葉にみんな黄味を見る。
俺はそれを箸でゆっくりと割った。中から出てくるのは黄金の川。どんどん半熟の黄味がご飯に流れ込む。それを半熟を食ったことがないこいつらも凝視していた。
さらにその上に醤油をかけた。
「えぇえええええええええ!?」
子供たちが騒ぎ始める。
「なにそれ墨汁!?」
「僕これ夏休みの課題で使ったよ!?」
「うえー・・・」
「お兄ちゃん・・・」
「ちょっとアオイ、それは・・・」
「お兄さん隠し味は隠してくださいよ・・・隠されても困りますけど」
その反応に驚きだよ。
でもこれは想像の範囲内である。なぜならスーパーに醤油がなかったから。知らんドレッシングみたいなのはあったんだがな。
これもまた鶏の卵店で買ったものだ。ほんと醤油あってよかった。
「墨汁じゃない。食ってみろ」
みんながお互いの顔を見る。そんな中から率先して、でもおそるおそるアーシャが手を伸ばした。
「まずかったら承知しないから」
「どっちだよ」
それを競うんだろうが。
目を閉じて、アーシャがかきこんだ。もぐもぐとしばらく味わう。・・・・・・・・そして・・・。
「おいしい」
そう、つぶやいた。
俺のニヤニヤした顔に気付いたのかすぐにその笑顔をひっこめ、仏頂面になる。
他の子供たちもゆっくりと皿を手に取り、ご飯をかきこんだ。ちなみにお米という文化はまだギリギリ残っている。パンが主食になり、肉や魚を飯なしで食うことの方が多いが。
「おいしい!」
「この墨汁みたいなのが香ばしくてまた黄味のなめらかさと本来の味を際立たせてる!」
どこの料理漫画コメントだ。
「すごいおいしいよ。確かに朝に合う」
子供たちもうまいうまい叫んでいる。その様子に気付いたまわりの子供連れ奥さんたちが笑顔で見守っていた。こういうところは日本より温かくて優しいかもな。
日本ではうるさくしただけで注意されるし。子供なんか騒ぎ盛りなのにな。俺もうるさい子供は嫌いだが。
「どうだ、アーシャ。これで俺のことを葵じゃなく、さん付けで呼ぶ気になったか?」
「・・・・・・・・・ん」
無言で顔を赤くしつつも、何かを指さす。そこには小さな子供が一生懸命呪文を唱えながら魔法をつかっていた。まだまだ光る程度でそこから先がない。あれじゃ火の魔法か水の魔法かも分からない。
「別に魔法も楽してるわけじゃない。一生懸命努力して今があるの。今が楽してると言われればそれまでだけど、それでも全く努力してないわけじゃないわ」
「・・・・・・それでも俺は魔法が嫌いだ。努力して手に入れるのが楽だなんてそんなのおかしい。それ相応の見返りは必要だが、楽をするために頑張るというのはやっぱり気に食わない。でも」
俺はそこで言葉を区切り、
「ま、認めてはいるよ。お前らの努力」
あの子供の様子を見る限り、空を飛ぶのも火で料理を使うのも相当努力がいるのだろう。それを楽々こなしているように見えるのはこいつらの努力あってのことだしな。
「ふーん、ま、お互い様ってことで」
そう言うと顔を赤くして同級生と一緒にどこかへ行ってしまった。子供たちもお礼を言うとまたどこかへと走り去っていく。
「おい、てかこれ俺1人で片付けるのか・・・?」
若干あいつらの水魔法を期待していたんだが・・・ここで呼びとめて魔法よろしくというのもかっこ悪すぎる・・・。しょうがない。
俺は1つ1つ袋に詰め、家に帰ってきちんと洗った。手荒れという心配は異世界に来ても消えない。
「魔法・・・ねぇ・・・」
その後、アーシャたちが鶏の卵を食べていると知るのはそう遠くないことだった。ちなみになにやらガムザパズラの卵料理を振る舞うと意気込んでいたのもまた遠くないことだった。鶏の卵を食べる風習のないあいつらが食ったんだ、俺も食わないとな。
異世界に行き、魔法を習得する主人公はよくあるのであえて、何もできない主人公が自分の国の常識を持ち出して異世界人を驚かす、という物語にしてみました。
この設定は少し気にいっているので、もしかしたら長編となってまた投稿するかもしれません。日常系好きですし、もっと丁寧に書いてみたいと思ったので。
もしよければ感想などよろしくお願いします。
ではまた別の作品で。