第2話 辿り着いたのは平和な過去
ヴィクターが目を覚ますとそこは何かの研究施設のようだった。大きな鏡がたくさん壁に貼られている。いや、敷き詰められるように貼られている。と言ったほうが正しいのかもしれない。色んな場所から自分の視線を感じるので少し鳥肌が立った。
(イカれてるぞ......、なんだこの鏡の数は.....。何のためにこんなことを....?)
上の方から金属と靴底がぶつかる音がした。ヴィクターは驚いて上を見上げる。するとそこには、バック・トゥ・ザ・フューチャーのドクをイメージさせる白髪の白衣を着た老人がいた。
「成功だな.....。君が.....、教えてくれ......。君が見てきた全てを......。」
何かすごく焦っているように見える。今すぐにでも何かを得たいというような欲望を感じる。よく見ると白衣を着ているからここの研究施設の関係者かもしれない。ヴィクターは少し質問をしようと思った。だが、老人が話すほうが遥かに早かった。やはりそうだ。何か焦っている。
「混乱しているだろう。若き軍人よ。よく聞くのだ。ここは君からしたら、過去。君はタイムトラベルをしたのだ。」
急にタイムトラベルなどと言われるとこちらも黙ってはいられない。
「何......、バカなことを言ってるんだ?」
ヴィクターはタイムトラベルとバカなことを抜かしている老人に心底腹が立った。こっちはさっきまで戦場にいたんだぞ......。
「バカなこと言ってないでもっと強い武器を作ったらどうなんだ!!もっと強い武器があったら.....、あいつらだって......、あの化け物に対抗でしたかもしれない!!」
ヴィクターは泣き崩れた。さっきまで堪えていた涙が頬を伝った。
「君の言う化け物というのは分からないが、そうだ。君には未来を変えてもらう。そう......、平和な未来に。」
ヴィクターは泣きながら、この現実を否定した。
「いい加減、嘘をつくのをやめろ......。俺だって黙って聞いてるわけじゃないぞ......。」
「混乱するのも無理はない。実感がわかないのも当然だ。百聞は一見にしかずと言う。君自身の目で確かめることだ。」
「なんだ......、また何かバカなことをしだすのか.....!!」
老人はそう言うと、壁にある大きな赤いボタンを押した。すると、巨大なシャッターが、それまで見えていなかった世界をヴィクターに見せた。ヴィクターの視界に入ったのは戦争のせの字も感じさせない平和な風景だった。
緑豊かな木々、その下で遊んでいる沢山の子供。鳥の鳴き声。元気な八百屋のばあちゃんまで、ヴィクターの知っている戦争が起きる前の"平和"があった。これを見てヴィクターは、先ほどの後悔や憎しみや恐怖が理由で流れてきた涙とは違った涙が流れてきた。感動の涙だった。
「これは......、どういうことだ......、ものすごく平和じゃないか......!! 一体どのぐらい過去なんだ??」
ヴィクターはこの平和な風景を見て、ここが過去だということ自体は本当のことなのだろうと信じることにした。これほど平和な風景は戦争が始まってから見たことがなかったからだ。
「残念ながら戦争はすでに始まっている。この戦争が始まってから5年は経過している。」
「何だって?戦争から始まって5年って言うと巻き込まれてない場所なんて数か所しか無かったはずだ.....。」
「そうだ。その平和な数カ所がまさにここだ。5年経った今でもこの場所は巻き込まれていない。いずれこの地も......。」
博士はヴィクターに問いかけた。
「この街は君が来たところと全く同じ座標だ。未来ではどうなっている?」
「.......。」
「........、そうか......、嫌なことを聞いてしまったな。」
ヴィクターはさっきから気になっていたことを質問した。
「なあ、教えてくれないか。俺が最後に見たあの鏡.......、俺をここに連れてきた鏡。あれは一体....?」
博士は「よし来た」というような顔をして、語り出した。
「そうだな。やっと流れ着いてきた希望だ。君には説明をしておかなければ。ついてきなさい。全て話そう。」
ヴィクターが連れてこられたのは、歴史を感じる資料室だった。そこにはハリーポッターを2冊ぐらいくっつけたんじゃないかというぐらい分厚い資料集が置いてあった。
「これが私の5年間だ。戦争に家族は殺され、全てを失ったが、私の最終的な野望はこの戦争を無かったことにして、愛する家族を取り戻すことだ。」
博士は話しながら資料をヴィクターに渡した。ハリーポッターと賢者の石より分厚いそれをヴィクターはパラパラと目を通した。
「読むのに時間がかかりそうだからゆっくりしててくれ。俺は読むのが遅いんだ。じっくり読むからな。」
その資料集にはこんなに分厚くなる程度には色々書かれていたが、簡単に要約する。そこに書かれていたのは、この戦争の発端となった悪の元凶。読むのが遅いのに何で分かったかって?この名前にペンか何かでガァーってやってる跡があったからさ。
"この戦争の元凶は、エイゼン・ウォーカー。"
ヴィクターはその名前を聞いて全くピンと来なかった。聞いたことのない名前だった。だが、ヴィクターはこの名前を聞いて少し鳥肌が立った。
「エイゼン.......、ウォーカー......??」
「そうだ。私も初めてこの名前に辿り着いたときは訳が分からなかった。エイゼン・ウォーカー。この男は確かに色んな事件の写真に写り込んでいる。」
「こいつを倒しちまえば万事解決........、って訳でもないようだな......。」
博士は険しい顔で頷いて言った。
「そうだ。この5年で突き止めることができたのは名前のみ。いろんな写真に写るこの男の名は確かにエイゼン・ウォーカー。これは間違いない。だが、これほど大きな戦争を巻き起こした男が本名を名乗る可能性はとても低い。そして、何よりこの男の居所が分からない。」
ヴィクターは閃いた顔で言った。
「あんたはタイムマシンを持ってるわけだろ??じゃあそれを使えばいい。いつどこで何をしていようが、この写真が撮られたときには絶対に近くにいるという訳だ。」
「それはもう考えた。だができないのだ。」
「できない?俺をこの時代にタイムトラベルさせることができただろ?」
博士は難しそうな顔で言った。
「君がここへ来れたのは奇跡なのだ。私は考古学者だから、理系の知識はさっぱりでな。この技術はまだ不完全というわけだ。」
博士はゴホンと前置きをして言った。
「まあ、それは置いておいて、君も気になっただろう。あの鏡についてだ。詳しく話そう。」




