早く死にたい。だってそうすれば――。
あの日。
僕は敗北した。
不治の病に。
「早く死にたい。だってそうすれば――」
病に侵された君は骸骨のような表情でにっこり笑う。
必死に手を尽くす僕へ穏やかに笑う。
僕は泣きながら必死に治療法を探し続けた。
それでも君は死に追いつかれた。
死は残酷に君を連れ去り、そして。
「早く死ねてよかった。だってさ、ほら――」
確かに骨になったはずの君が僕の隣にいる。
冷たい土の中にあるはずの君が僕の隣で笑っている。
「こうなれば、あなたともっと一緒に居られるもの」
君はそう言って僕の体を抱こうとした。
しかし、実体のない君の両腕も、身体も、唇だって僕の体を虚しく通り抜けるだけ。
「ありゃりゃ。世の中そう上手くいかないか」
幽霊が笑う。
恐ろしい病の末路。
最早、手遅れであることの証左。
不治の病。
――一度、幽霊となった者は二度と戻れない。
絶望する僕の隣で幽霊はケタケタ笑うばかりだった。




